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傲慢で自己閉塞的な(筆者曰くゾンビのような)大衆が多いという批判と、そうならないための処方箋。多くの哲学者の言葉を引用しつつ、現代人の性質に警鐘を鳴らすとともに対応策を紹介している。
キーワードとあらすじは以下。
・大衆、大衆性(オルテガ)
端的に言うと「自らに何も求めず、それに不満を感じず、より高みを目指して努力することのない人間」としている。
悪くなると「自分の意見を絶対的に信奉し(傲慢で自己閉塞的)、私利私欲に絶大な興味を寄せ、その時々で刹那的な行動をとる人間」となる。この心理性をvulgar(俗悪性)と呼び、反対の選ばれた人間の持つ心理性をnoble(高貴性、貴族性)と呼ぶ。大衆は、弁証法的な議論が行えない。また公共性が低いため社会的に悪である。ニーチェは末人と呼ぶらしい。
・人間疎外(ヘーゲル)
友人関係、帰属する組織、地域、国家に対して一体感を持てないこと。これにより自己閉塞感が高まってゆく。したがって人間疎外は大衆化をもたらす契機となる。
・運命愛(ニーチェ)
自らの人生を、人生において発生するイベントを、そのまま愛すること。これが高まると、人間疎外にならなくなってゆく。運命愛を持つ人間は超人とされる。
・本来的時間(ハイデガー)
自らの死に対する「先駆的覚悟性」に裏づけられた時間こそが本来的時間。この本来的時間性を感じることが、運命愛が生まれる契機となる。
・大衆化しないために
「生の循環(解釈学的循環)」を回し続けること。
心的・社会的状況(思い/先入観)と、環境構造(モノ/解釈)の間で循環を回すこと。前者への働きかけは心理的方略、後者への働きかけは構造的方略とされる。
生の循環を回すためのポイントは3つ
「運命焦点化」:死を意識した上での人生について注意を増幅させ、解釈学的循環を促進させる。
「独立確保」 :自らの精神の解釈学的循環に合わない外部要因に制御・支配されることを避け、自律的な解釈学的循環に戻ることを期する。
「活物同期」 :自らの精神の自己閉塞空間の外にある活物に触れることで、自らの精神の解釈学的循環を活性化させる。