紙の本
歴史上の人物の評伝を多く発表しておられる童門冬二氏の伊能忠敬の軌跡を追った興味深い一冊です!
2020/06/21 10:10
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「ジョン万次郎」、「織田信長」、「」武田信玄」、「福沢諭吉」など歴史上の人物評伝を多く執筆されている作家、童門冬二氏の作品です。同書は、日本地図を測量によって正確に描いた伊能忠敬の生涯を描いた作品です。同書には、江戸時代の商人から出発し、天文学や測量学に興味をもち、寛政12年(1800年)から文化13年(1816年)まで、17年をかけて日本全国を測量して『大日本沿海輿地全図』を完成させた伊能忠敬の苦労と、地図作成という目標をもってその仕事を成し遂げた熱意が生き生きと描かれています。
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伊能忠敬は日本史の中で一番といっていいくらい好きな人物ですが、考えてみれば、幕府の命を受けて日本国土の測量をした人という彼の活躍しか知りませんでした。
この本は、逆に彼の若かりし頃の方にスポットを当てたもの。
ヤング忠敬ストーリーです。
まさか、ここまで不幸な幼少時代を送った人だったとは、思いもよりませんでした。
佐倉の名家出身だと思っていましたが、幼少時代に母が亡くなると、婿養子の父親は家を追い出され、彼も親戚を転々としたとのこと。
彼自身も婿養子として迎えられたとのこと。
婿入り先は商人ではあったものの、苗字のない農民扱いをされていたとのこと。
普通なら、早い段階でやさぐれてしまいそうですが、自分の苦境を投げ出さずにいたからこそ、少しずつ運が向いてきたのでしょう。
伊能家と苗字を名乗れるようになったのは、彼の努力によるものだそうです。
著者は、「"ものごとには必ず原因がある。その原因を知り改めたら、事態は改善する"という、彼の合理的な考え方が測量に向いていたのだろ
う」と指摘しています。
また著者は、50代あたりで人生の分岐点を迎えた人物として、ほかに信長と鴨長明を挙げています。
信長は、50直前にして命を落としますが、鴨長明もまた、挫折に次ぐ挫折の人生だったと知りました。
下賀茂神社の神官の家に生まれながら、実力不足で親の後を継がせてもらえなかったとのこと。
「自殺しようとさえ思った」という落胆振りだったそうです。
50になって神官の職を諦め『方丈記』を執筆したのだそう。
それであんな無常観に満ちた出だしなのでしょうか。
ちなみに『方丈記』は、400字詰め原稿用紙にして20枚そこそこの小品なのだとか。
冒頭しか知らないため、今度読んでみたいものです。
江戸時代、農民が旅行するときには、必ず支配者の「切手(パスポート)」が発行され、これを持っていなければ、あちこちの関所を通過でき
なかったそうです。
年貢を納める農民が逃げ出さないよう、土地に縛り付けておいたのでしょう。
何度か旅行をした忠敬は、その不便さを体感したようです。
それが日本全国をつぶさに歩いて地形の測量をするという仕事へと結びついたのかもしれません。
農民出身だからか、地元の名家となり、隠居をした後でも、周りに威張り散らす人ではなかったようです。
それは、隠居後に20近く年下の天文学者、高橋至時の門下に入り弟子となったことにもあらわれています。
彼は、年齢や性別で人を差別することがなかったとのこと。
現代的思考の持ち主でした。
なかなかドラマチックな人生を送った人なので、大河ドラマにならないものかと思いますが、すでに映画があるようです。
今度高橋至時と隣りあわせの彼のお墓を御参りしたいものです。
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志の輔らくご『大河への道』より。伊能忠敬の前半生に主に描かれたもの。
【cf.】
志賀直哉『暗夜行路』
サマセット・モーム『人間の絆』
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生涯青春。
後半生が注目される伊能忠敬の、前半生も描かれています。
後半生に好きなことをやれるように、前半生でどれだけの準備をしたのかが重要です。
伊能忠敬が決して50歳を過ぎてからのみ好きなことを始めたのではなく、江戸にでる前に既に学問は始めていました。
生涯現役、生涯青春の生き方に感銘を受けます。
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<感想>
日本地図で有名な伊能忠敬。その若かりし頃をメインにした歴史小説。
婿として入った千葉の片田舎の農家を建て直し、豪農となるまでが前半。後半は子供の頃から好きだった天文学と測量を学ぶため、江戸に出る。
本書では、人生後半で好きなことをするため、前半での積み上げがいかに重要かということを学べる。思い付きで始めわけではなく、引退後に本来の夢を叶えるべく準備をする。
これから定年を迎える年代には学ぶべき点が多い一冊。
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52歳で隠居してから測量を本格的に学び、55歳から日本中を測量してまわった伊能忠敬。本書では、彼が人生の後半でなでそのようなことができたのかを、幼少期から青年期、そして家業で成果を挙げた日々に焦点をあてて描く。きっちりとした仕事を成し遂げたからこそ、隠居ができたし、財力も備わっていたので、測量という新たな取り組みを始めることができた。
人生100年と言われる今、まさにお手本となる生き方だと思います。
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隠居してからの第二の人生。退職、引退してから老後をどう楽しむか。仕事に精を出して職場や取引先との付き合いを重んじた会社生活がある日一変し、どう生きるかと迷う。現代にも通じるテーマに対して、伊能忠敬が隠居してから取り組んだ測量事業は良い模範になる。歳を取っても、自らのロマンに生きる事ができるのだと、勇気を与えられた。
伊能忠敬の偉業、精緻な日本地図を教科書で見た記憶はあるが、彼自身がどのような人生を歩んだのかは、義務教育では省略されてしまった。父子の関係に象徴されるように、決して恵まれた生い立ちではなかったようだ。しかし、誠実さと実直さと生まれ持ったセンス、これらによる実証主義の論弁は、苦労や課題を一つ一つ突破するのに役立った。
実は伊能忠敬のルーツとなっただろう、もう一人の隠居後に事業を収めた伊能家の先祖がいた。伊能景利は、田地の境界、御用向きの事、村里、村法、家風など、日記だけではなく、記録できるものを可能な限り記録していくという事業に取り組んでいる。本著でも紹介され、私も初めて知ったが、伊能忠敬はこの記録により奉行所での交渉を乗り切っている。自らの人生に大きく影響を受けたのではないだろうか。
仕事を中心に考え、引退後にどう生きるかなど、考える必要がないような生涯現役の時代が来るかも知れない。それならばその様に生きるだけだが、そもそも、自らの可能性に線を引く必要は無いのだ。
ポジティブになれる本。