投稿元:
レビューを見る
著者テンさんの人生はいろいろと覗き見させてもらっていたが、既知の事実でも別の観点から開示されると、また違った感慨深さが湧いてくる。絵はかわいらしいが、ところどころに使われている汗とシルエットによる演出で強い苦悩が伝わってくる。
ご主人ツレさんの鬱だけではなく、若い頃からのテンさん本人による迷走ぶりも痛々しい。「こんなの何度も経験してるよ、大したことないよ。」という方々もいらっしゃるだろうが、トラブルの受容体質には個性がある。鍛えればそうしたものも形成されてくるものだろうが、そうなる前に潰れてしまうこともある。「何をするにも困難がつきまとう。それを乗り越えていくことで本当の人生を味わうことができるのだ。」キレイゴトではあるが、その通りだと思う。
もし笑って済ませられるのならば、それもいい。しかし、そうした誤魔化しを続けていくうちに後戻りができなくなり、取り返しがつかなくなることもあるのではないか。相手に働きかければ自らに不利益がおよび、第三者に相談すると強烈なお説教をされた後に「がんばれ」で終了する。運も左右するだろうが、八方塞がりの状況は生きる気力さえも失わせる。誰でも経験することなのかもしれないが、常に綺麗なカタチで克服することができるとは限らない。
絵の道に進むまでにテンさんが経験してきたことは、自分が欲していることを得るための困難ではなかった。それを乗り越えることによって得るものは、あえて言えば「辛抱強さ」というもの。辛抱強さは生きていくうえで強力な武器にはなるが、自分の目的に向かってそれが発揮されなければ、他の人にとっての「おいしいもの」あるいは「嫌がらせ」となってしまう。そしてそれは限界までくればポッキリと折れてオシマイ。限界はどんな屈強な人間でも必ず存在するのである。
フィナーレでテンさんは自分の道を見つけた。おそらくそれ以降も似たような困難はいくつもあったはず。しかし、それは以前に経験した「やりたくない困難」「やっても意味のない困難」ではないものだったと思う。テンさんは同じエピソードを何度もカタチを変えて発表している。ネタの使い回しのように思えなくもないが、それぞれのテーマに「声を大にして主張したい」という意欲が見て取れるのである。
個人的に、おカッパ頭のお母さんが好き。