紙の本
猫のロード・ムービー
2007/04/27 21:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次大戦下のイギリス。疎開先に馴染めない猫ロード・ゴートは、空軍パイロットである主人を追って家出します。猫は様々な人間に出会い、しばしの時間をわけあい、また別れ、旅を続けていくのです。
物語は時にロード・ゴートの視線で、時に彼女が出会った人の視線で描かれます。夫が戦死し絶望の中にいる未亡人、軍人になるべくして生まれたような軍曹、兵の宿舎に屋敷を提供する将校婦人、空襲によって住みなれた町を焼かれた老人、ロード・ゴートを幸運の使い手と信じる若い兵士などなど、これが驚くほどに自然で、まさに七変化という感じです。
ロード・ゴートも雌ですが、特に女性の内面がしっかり書き込まれていて、著者が男性であることを、すっかり忘れてしまいました。物語に戦場の描写はほとんどないないのですが、戦争という特異な状況が、普通に生きている人々の暮らしや心を、どう変えてしまったか、この本は語ります。
破壊も死も恐怖もありながら、読後感は静謐でした。同じ著書による「弟の戦争」を読んだ時のようなやりきれなさが残らないのは、主人公の猫、ロード・ゴートに負うところが大きいでしょう。この猫は、決して愛想の良い可愛らしいばかりの猫ではありません。気まぐれで、時にずるく、ふてぶてしく、利用できそうな者には擦り寄って行くくせに、猫特有の傍観者的立場を崩さず、ふらりと突き放す。
人と馴れ合わず、けれど主人をひたむきに追う姿に、何とも言えない魅力があって、ロード・ゴートが、長い旅の上でようやくたどり着いた場所へ、読者もほっと腰を下すことができるのです。この作品、ロード・ゴートがいなくて、ただ戦時下の人々を描いたオムニバス短編集だったら成り立たなかったと思います。でも、ウェストールは、どうしてこんなに猫の気持ちがわかるのでしょう。
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第2次大戦中のイギリス。猫のロード・ゴートは疎開先からご主人のジェフリーを探して旅に出る。猫の旅を通して生きることの素晴らしさが描かれる。これはオススメ。ベストセラーになっていい本だ。訳文も素晴らしい。
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第二次世界大戦時の英国が舞台。「英国は戦勝国」のイメージが強いが、英国はナチスドイツの空爆を受け、一般の人々は耐乏生活を強いられていたことも分かる。戦争によって心が荒んだ人、大事な人を失った人、住み慣れた街を、職を失った人、様々な「被害者」の間を、猫はしなやかに、力強く生きていく。
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猫に国境は関係ない。もちろん戦争だって、人間の都合にすぎない。この物語は、出征した主人の後を追う黒猫の物語です。彼はただ、第二次大戦の中を歩んでいきます。吉兆だとか、凶兆だとか理由をつけられながらも、足を進めていきます。主人を求めながら。そうして帰り着くのは…。戦争文学の良書です。
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出征した主人を追って旅を始めた黒猫は、戦禍のイギリス各地でさまざまな人と出会う。
戦争によってゆがめられた人々の生活、絶望や挫けぬ勇気が、猫の旅によって鮮やかに
浮き彫りになる。厳しい現実を描きつつも人間性への信頼を失わない、感動的な物語。
戦争文学の第一人者ウェストールによる忘れがたい作品
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スマーティー賞受賞
出征した主人を追って旅を始めた黒猫は、戦禍のイギリス各地でさまざまな人と出会う。戦争によってゆがめられた人々の生活、絶望や挫けぬ勇気が、猫の旅によって鮮やかに浮き彫りになる。厳しい現実を描きつつも人間性への信頼を失わない、感動的な物語。戦争文学の第一人者ウェストールによる忘れがたい作品。
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擬人化され過ぎない猫の表現が何といっても良い。人間の思惑とは別にどこまでも自分の欲求で、とどまったり歩き出したりする猫の姿は、これぞ猫!と思える。
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1940年、第二次世界大戦中のイギリス、黒猫のロード・ゴートは不思議な第六感に導かれ、出征した飼い主を追って旅を始める。ロード・ゴートは様々な人々と出会い共に生活し、戦争で傷ついた人々の心に希望を与える。
戦争の真実がよく現れていて読みやすい本だと思います。
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第二次世界大戦中のイギリスのお話。
日本からすればイギリスって敵国で、そして戦勝国で、さぞかし余裕ぶっこいていたんだろうと思いきや、本国はナチスドイツからの空襲にさらされ、食糧は配給制で、男たちが次々と戦争に取られて死んでいくのは日本とまるで同じ。日本は自分の国についての戦争教育ばかりを問題にしているが、そのときよその国がどうだったのかはあまり学んでこなかったと、自分の学生時代を振り返って思う。
奔放なロード・ゴートがかわいい。国境とか、敵味方とか、名前とか、人間の決めるものはわりかしどうでもいいものばかりだということに気がつく。
原題:Blitzcat
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あらすじを聞いて猫版名犬ラッシーかな? と思ったがさにあらず。猫と犬くらいは違う。なんだかんだタフなロード・ゴート。知り合った人間たちは勝手にがんばったりふっきれたり。猫ってそういうもんかも。
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猫もの、児童文学を選んで読んでいた頃知りました。
見つけたのは、図書館の児童書コーナーの本棚
いずれにせよ、優れた作品というのは
読み応えがあり、読後の余韻も響いています。
これもそうした一冊。
第二次世界大戦下のイギリスで、疎開先から、出征した飼い主を探して
黒猫ロード・ゴートの長い旅は始まります。
行く先々で様々な出会いがあり、新たな飼い主たちとの束の間のふれあい、
別れを重ねて旅を続けるのですが、緊迫した情勢の中で、それぞれの
人々の心と生活に希望と救いを灯し、確かな足跡を残していきます。
児童文学の定石というか、結局は
邦題タイトルのとおり、帰還する猫の物語なのですが
長い深い道中の出会いと別れのひとつひとつが、
心に強く響く傑作だと思います。
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猫好きなら読んで楽しめる、猫の主人への愛。
主人を捜し求めて旅をする猫。
結構悲惨でしんどい道中なのに、
エンディングはゆっくりと物語が終わります。
猫はその波乱万丈の生涯も、しなやかに淡々とのりきり、
スマートに旅を終えます。
犬が題材だと、さもお涙頂戴の演出が
そこかしこに挟まれそうですが、
本書では、とても上品なご主人様への愛が物語られています。
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主人を探してさすらう猫が、第二次世界大戦、ダンケルクでの敗戦後、ドイツの侵入に怯えるイギリスでいろいろな人間たちと出会う。
戦争が、普段の日常生活を変えていくさまを豊かな切り口で描いていく。
日常生活を送る市民と非日常そのものである戦争が邂逅するすぐれた小説。ただし短篇集なのでちょっと展開が急かな。軍隊が戦争で恐怖や無秩序をもたらすだけでなく、秩序と救済をもたらす場面も出てくるのがリアルな戦時体制という感じ。
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第二次世界大戦中、イギリスがドイツに劣勢だった頃の物語であり、放浪の物語という点で『海辺の王国』に並ぶ作品だと思う。こちらが先に書かれている。
ウェストール初心者には『海辺』をおすすめする。読みやすい。少年が語る物語だから。こちらは猫が主人公とはいえ、安易に語らせたりはしない。より読解力を要する。
これを小六の推薦図書にしている教科書もあるけど、『海辺の王国』が教師に嫌われるのは、性行為を暗示する描写があるため。
ゴート卿という戦争の英雄の名をつけられた雌猫は猫らしい賢さと愛情とクールさを併せ持つ最高にかっこいい猫。
猫にわかりやすさを求めない人にぴったり。
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ヤングアダルトコーナーにあった本だけど、大人向けな気もする…?
軍曹とスマイリー夫人のつかの間の愛と、老馬車屋・オリーが難民達のモーゼになる話が素敵だった。