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18の詩から構成される詩集。
「指差すことができない」「ラ・カンパネラ」など。
(詩の読み方を知らないので)
ずいぶん空想的だと思う。
(言葉と言葉のつながりがわからないので)
なにを差しているのだろうかと、考え考え読む。途中でたまらず投げ出す。
(読み進めていくと)
井伏鱒二の小説や寺山修司の短歌、新渡戸稲造の言葉が引用されていき、原発事故やハリケーンのニュースを扱った作品が続く。現実世界に引き戻された。
その中で気に入っているのは2作品
「夜が静かで困ってしまう」書下ろし
『夜がこんなに静かで
ずいぶん苦労してしまう
闇のなかで桜が咲いていることを思ってしまう(引用)』
と、始まること詩は、読み進めていくと、長い一続きの文章が出てくるのだが、そこがなんともここちよいリズム。
「知らない人と話す」書下ろし
『この人はいまとてもいい空色のぽろしゃつを着ている(引用)』
とてもいい空色のぽろしゃつってどんなだろうと考えているうちに詩を読み終わった。茄子の浅漬けや黄色い辛子、木綿豆腐もでてきて、カラフル。
私にとって、この詩集は、白い木綿のワンピースを着た清潔な女の子が、女性が、風を受けてすっくと立ち、世界と対峙している様子を頭に描かせた。
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『群像(8月号)』で、高橋源一郎がこの詩集に収められている「夜が静かで困ってしまう」という詩を激賞している。
夜がこんなに静かで
ずいぶん苦労してしまう
闇の中で桜が咲いていることを思ってしまう
亡霊みたいにコブシが咲いていることも思ってしまう
昼間歩いた道に変態がいないか気になるし
・・・(「夜が静かで困ってしまう」より)
こんな具合に、夜が静かだと、いろいろなことが浮かんでくるもので、私もかつて「妻のいない夜」という詩を、私にしては珍しく、一気に書き上げてしまったことを思い出す。
この人の感性は面白そうと、早速ネットで注文して読む。
期待を遙かに超えて、キラキラ光る言葉たちが飛び込んでくる。詩という形式でなければ表現できないものがここにはある。だから、詩の題にも「指差すことができない」「ここにないものについての感情」「知らない人と話す」と、<ない>が付いてしまう。
言葉そのものへの根源的な問いを内包した詩「うるさい動物」は、高らかな宣言で始まる。まるで田村隆一が女性となってここに甦ったと錯覚するほどだ。
言葉を信じるな
「青い空」を信じるな
「輝く大地}を信じるな
「希望の光」を信じるな
わたしはうるさい動物である
・・・(「うるさい動物」より)
この詩の末尾には、こんな言葉も添えられている。
*言葉は人間がさいしょに被る震災です。言葉は人間が毎日受け続けている暴力です。被災 し、暴力をふるわれて、黙っていることができずに、赤ん坊は言葉を喋り始めます。誰かの言葉はそのまま、誰かの被災のかたちです。何から何までが「今回の被災」なのか、私はずっと、わからずにいます。(「うるさい動物」より)
「詩が被災した」と言ったのは荒川洋治(『詩とことば』)だが、そもそも言葉そのものが震災だと感じているこの「うるさい動物」は、これからどんな言葉を吐き出すのか、目が離せなくなってしまった。
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詩についても詳しくないので、なんとも言えないけど、この作品は自分の世界観を築き上げる途中という印象と、感覚と技術の結びつきみたいなところが上手く行っていない気がした。でもあまりハマらなかったのは僕の調子も悪かったのかもなぁ。
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大崎清夏さんは、ふと目にした映画評の文章に惹かれ、ネットでお名前を検索。
同世代の詩人の方だと知った。
透明感があり凛とした言葉が素敵だと思った。
この『指差すことができない』は彼女の中原中也賞受賞作である。
ロックバンドくるりの楽曲、『ワンダーフォーゲル』と同名の詩(たぶん、オマージュされている)。
高橋源一郎氏に激賞されたという、『夜が静かで困ってしまう』のラストの文章「寂しさに舞いあがってしまう」は、私にとってしっくりくる言葉だった。
あの状態を的確に表す言葉に出会えて幸せ。
『知らない人と話す』は、飲み会とかでちょっと気になった人に声をかけようとする様子を描いているのかな。「この人は今とてもいい空色のぽろしゃつを着ている」なんて、そう思ってる時点で捕われちゃってるよね。
「○○を信じるな」のリフレインが力強い『うるさい動物』。言葉を扱う詩人として、人間としての覚悟のようなものがみられるような気がする。
あと、井伏鱒二や寺山修司の言葉を引用した詩もある。
平易な言葉で綴られる詩は、詩に対するこちらの心の鎧を優しく脱がし、詩の世界に誘ってくれる。
わからないことも多いけど、詩って素敵だな、と、改めて感じました。