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絵都さんは「女子供」向けのイメージが強いが実はそうではなく性別に捉われず硬軟自在に人間を真正面から描くことの出来る実力派。
だがそれにしても今回の舞台は釜のドヤ、そのディープさに西村さんの本?と表紙を見直すことも暫しの異質な作品。
設定は1995年でワーキングプア問題にカルトをも絡ませ更に震災前夜のハッピーエンドと盛り沢山、シンプルに礼二と結子のラブストーリーにしたほうが良かったのではと思わないでもないのだが面白くて夢中になれたからそれでいいのだろう。
いつも「前を向いて!」のメッセージをくれる絵都さんに惚れてまいそうです
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釜ヶ崎、とは、どこか。日本最大の日雇い労働者の街だ。おそらく日本に住む大多数にとって、その実態を知る必要がなく、けれどもたしかに存在している街。そこに住む人々、そこを出た人々、釜ヶ崎を舞台に繰り広げられる物語は、決してお涙頂戴の安っぽい人情物語ではない。
声をあげて彼は不幸だ、と叫ぶのでも、人権がどう、と主張するのでもない。自分の足で立ち、自分の目で未来を見据え、自分の手で自分の決めた幸せを掴もうとする。
作中出てくる、カルト教団に傾倒してしまう大学生 大輔の、自分の空っぽさへの恐怖には、残念ながら共感してしまった。芯というものがない、そう気付いたときの自分への失望。ただし、それが同時に甘えであることも、わたしは知っている。この女のように生きていきたいわけでも、この男のように生きたいのとも少し違うけれど、世の中は広く、人間は弱く、そして自分はいかようにも強く変わっていけるはずだ、と感じた。
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阪神大震災の前、釜ヶ崎を舞台にした小説。
ただ、差別的に感じていた大阪の治安を少し垣間見て、同じ日本でもここまで生き方が違ってしまう人達がいるんだと初めて知った。
生活保護費を不正受給したと問題になっているが、
この世界はやっぱり弱肉強食というか、経済力のある人の元で育ち、まともな教育を受けさせてもらえることが当たり前じゃないことを理解する必要があると思わされた。
と同時に、やっぱり差別してしまう心の弱さがある矛盾にかなり考えさせられる一冊でした。
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デビュー当初の児童文学作家から社会派?に転身しつつある著者の、バブル崩壊、釜ヶ崎のどや街、阪神淡路大震災、オウム真理教、カジノ特区…と多くの時事ネタを盛り込んだ、ちょっと疲れ気味の青春ストーリー。
社会派に転身しつつあるとはいうものの、夜の街を自転車で駆け、夜空を見上げて、寄り添う姿は、「宇宙のみなしご」や「つきのふね」と通じるものがあるように感じる。
以前の作品からは艶めかしくなったが愛でも恋でもない人と人としての寄り添い方と、憎むに憎めない登場人物たちの織り成すストーリは、なんとなく温かく、明日への仄かな期待を抱感じた。
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小説とは経験ではなく想像力から成るものだ。僕は自分の貧困な発想を呪った。語彙の乏しさを、構成力の欠落を、「あほんだら」を「亜本田ら」と変換するワープロの知的レベルを呪った。
価値のない過去なんかない。どんな人生かて、世界にひとつの物語を持っとる。物語にする価値を持っとるわ。
そう考えると、人の生涯を完全に掌握するなど不可能にしても、朧気ながら過去の道筋が仄見えてくる。自ら立てた荒波の力をもって強引に突き進むその航路が。見えないのは未来だ。
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金持ちの奥さんの話を小説にすれば三百万円という奇妙な依頼。でもその奥さんには不幸な過去が・・・。薄幸な奥さんを助けるハードボイルドと思いきや、むしろ彼女の勇ましさに、たくましさに救われる再生の物語。
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主人公が自分が小説を書いてる、、という目線で話が進むので、状況把握がし易い。知り合いから体験談を聞いてるような感じ。絵都さんのこの小気味よいテンポの良さ好きだな。序盤からなんとなく感じさせてくれた伏線 もきちんと回収してくれるおかげで読後はかなりすっきり。
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小説のキーワードとしては奇妙ですが「変化球投手」そんな言葉が浮かびました。
登場人物たちも、ストーリーも、物語のつくり方も一筋縄では行かない。そんな小説でした。
登場人物も十分に個性的です。嘘しか言わないヒロインと、キレまくるくせに甘い物好きのその弟、そして共産党幹部->右翼幹部->やくざ幹部をという経歴を持つ松ちゃん。
ストーリーも先の展開が読めません。特に最後に次々と繰り出されるエンディングは見事に期待を裏返されて、しかも心地良い。直球と言えるのは、釜ヶ崎の住人、松ちゃんの想い位のものか。
一気読みの楽しい読書でした。
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中学以来に読む森絵都。
懐かしくってうまく引き込まれていって序盤からわくわくしながら読んだ。
すごい。
この時代の背景と、主人公、結子、大ちゃん、松ちゃん、敦、ビリケン男たちの葛藤と強さが交差して面白かった。
強くてかっこよくて憧れる。
最後まで読んだあとにエピローグを読んでもう一回12章まで戻ってまた読んだ。
エピローグにもあるし、作中にも言われてるけど、この本はこの女ではなくこの男という題名がぴんとくる。
でも、この女っていう題名でよかった。
気がついたら私も泣きながら読んでいた。
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森絵都のこの女を読みました。
大学を出ていながら、釜ヶ崎のドヤ街で暮らす主人公礼司に奇妙なバイトの依頼が来ます。
ホテルの経営者二谷からの妻結子の自伝を小説として書いてほしいという依頼なのでした。
早速その依頼を受けて、その結子という女性へのインタビューを始める礼司なのでしたが、結子は自分の生い立ちについてデタラメの作り話をするだけなのでした。
しかし、しつこくインタビューを重ねるうちに少しずつ結子は自分のことを話すようになってきます。
なぜ、結子の自伝が必要なのか、二谷と結子のなれそめ、といった謎を解いていくうちに、礼司の持つハンデについても明らかになって、礼司の小説はその様相を変えていきます。
結子という女性の印象が物語の前半と後半で大きく変わってくるのもこの小説の魅力だと思いました。
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消化作業で読み始めたつもりがなかなか面白かった。謎解きものかと思ったら、人間の力強さを感じさせる話だった。最後まで読むと冒頭に戻らずにはいられない。戻ってきて、良かった。きっと彼は、そしてこの女は生きている。
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久しぶりに一生懸命読む本に出会いました。森絵都さんは前に一度何かを読んだ記憶がありますが、その時こんな感じはありませんでした。ブラリぶらりとあっちこっち揺れながらどこかに向かうこの二人はとても魅力的です。
映画にするなら結子は誰なんかな?不良っぽさがあって色気があって…上野樹里さん、完璧じゃないですか?
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震災後15年して見つかった小説
そこに書かれていたのは震災前日までの一人の青年と
彼を変えた女性の話が綴られていた。
大阪の釜ヶ崎で日雇い労働者として暮らす礼司は
ホテルチェーンのオーナーの二谷啓太から妻である
二谷結子を主人公にした小説を書いて欲しいと頼まれる
手付金は100万円、小説が出来上がったら200万円
破格のバイト代に訝しながらも受ける事となる。
礼司はバイトを紹介してくれた大学生の大輔の部屋へ
居候し結子の取材を始めます
しかし彼女はかなりエキセントリックな女性で
過去を偽ることへの躊躇を見せず、すらすらと嘘を吐く
礼司は聞き役に徹し積もった嘘の中からそれなりの
真実を導く、そのひとつが彼女が語る少女時代は
例外なしに皆、寂しいという事。
そして、結子は壊れているけど空っぽではなく
乱れているけど汚れてはいない
同じ女性として理解できない部分もありますが
惹きつけられる女性です。
結子に振り回され小説は一行もかけないまま
3か月が過ぎる頃、見るからにカタギではない
風貌の結子の弟の敦が登場し、結子が元夫の所に
置いてきた子供の太郎にも会い少しずつ小説は
進み始めたが、二谷啓太は妻結子の波乱万丈な
人生の小説を欲していたのではなく
ある計画の為だった、それは礼司が日雇い労働者として
働いていた釜ヶ崎地区をめぐる陰謀の取引材料として
結子の人生の一部が必要だったのだ。
礼司が釜ヶ崎で働いていた理由に
結子は「人生いろいろやな」と一言でまとめてしまった
礼司はその言葉の足りなさに不満なようだったが
彼女は過去に興味がない、意味があるのは
「今だけ」で、生きるために必要なことは
忘れ去ること、結子はそうやってたくましく
生きてきたのだろうと思う。
礼司にも結子にも何かしらの救いはあったと
思えるような最後でしたが読後感は何とも複雑でした
結子の変わった恋愛観に礼司も包み込まれ
とても脆く儚げだけどこんな愛のかたちもありなのかな。
小説内小説という手法で描かれた作品でしたが違和感なく読めました。
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とても面白かった。叙述的でおもしろく構成されていて読み応えありました。今までの森さんの作品とかなり違う印象を受けましたが、読後の余韻もよくとてもよかったです。
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釜ヶ崎のドヤ街(あいりん地区)で生活をする青年、礼司がある一人の女性について小説を書いて欲しいと依頼される。
ドヤ街とは??と余り知識のない私には衝撃的な一冊となりました。
どんな生活をしていようとも、生きるというのはやはり大変だ。
食べなくてはいけないし、何よりお金がいる。
初めは礼司がドヤ街で暮らしている事に違和感を感じていたのですが、その答えはしっかりと終盤で語られています。
礼司と結子に幸あれ。
他の方のレビューを見ると、関西弁がおかしい!と多く書かれていますが、東京育ちの私には全く分からず。
『言葉の違和感』とはどんな感覚のものなんだろう、と想像してみても今一理解できず。
外国の方がヘンな日本語使ってる感じかしら?
方言憧れるなー。縄張りみたいで何か格好良し。