サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

e-hon連携キャンペーン ~5/31

hontoレビュー

ほしい本の一覧を見る

『ボヴァリー夫人』論 みんなのレビュー

予約購入について
  • 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
  • ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
  • ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
  • 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。

みんなのレビュー4件

みんなの評価4.7

評価内訳

  • 星 5 (3件)
  • 星 4 (0件)
  • 星 3 (0件)
  • 星 2 (0件)
  • 星 1 (0件)
4 件中 1 件~ 4 件を表示

紙の本

「テクスト」としての『ボヴァリー夫人』を読むための手引書

2014/10/20 11:58

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る

『ボヴァリー夫人』とは何か、と聞かれた文学通が口にするのは、ルーアン近郊の田舎に住む免許医の妻であるエンマ・ボヴァリーが他の男と関係を重ねたあげく、男に捨てられて自殺する話、というあたりだろうか。では、「ボヴァリー夫人」とは、誰のことか。ボヴァリー夫人と呼ばれる女性は三人いる。まずは、夫シャルルの母、次に先妻のエロイーズ、最後がエンマである。

三人のボヴァリー夫人がいるのに、標題を読んだ誰もが、エンマのことにちがいない、と思い込むのは、それまでに語られてきた多くの言説に影響されているからだ。筆者は『ボヴァリー夫人』に関してこれまで語られてきた、無責任で信用できない言説から自由になり、目の前にあるテクストを読むというところから話に入ってゆく。実は、多くの作家・批評家が無批判に用いてきた「エンマ・ボヴァリー」という呼び名は、作品内で一度も使われてはいない。作家が使用していない固有名で作品を論じるのは「テクスト的現実」を無視している、と筆者は言う。

語られることもあれば、語られぬこともある。何故「ヒロイン」は、一度もエンマ・ボヴァリーと呼ばれていないのか。そこには意図があると考えるのが、テクストに基づいて批評する者のとるべき態度なのだ。一事が万事、このスタイルで貫かれている。先行する批評、論文の至らぬ点には批判を、すぐれた論考には同意を唱えながら、ゆるゆると持論を展開してゆく。

その映画批評で、大柄な西部劇俳優で政治的にはタカ派として知られるジョン・ウェインを、柱にもたれたり、ライフルでなければコーヒー・カップを、と常に何かに触れていないと大地に佇立できない「接触の魔」と喝破して見せた手際に、手もなくひねられたのを覚えているが、テマティスムというのだろうか、ストーリーとは無縁に、「手」、「足」、「塵埃」、「毛髪」といった事物が何度も作品中に登場する場面を吟味し、それが登場する場面の前後で、人物のとる行動にどのような変化が見られるか、を微細に読み込んでゆく。相変わらずの鮮やかな手並みだが、初めて見せられたときのようには驚かない。ふむふむ、なるほど、といった感じ。

それよりも、従来の小説を読みすぎて、現実世界をそれととりちがえた夢見がちな女性としてとらえられてきたエンマ像や、妻の心理や行動の変化に気づくことができない鈍重で無神経な夫と見られてきたシャルル像の読み替えに蒙を啓かれた。いかに、われわれ読者は「テクストをめぐるテクスト」に影響を受けてテクストに対しているか、そのために読むべき文章を読み飛ばし、勝手な人物像を創りあげてしまっているか。筆者があたらしく取り出してみせるシャルルのなんと、生き生きした人物であることか。

この小説を「エンマ・ボヴァリーは自殺した」と要約してみせた批評家がいたそうだが、思い出してみよう。小説は転校生のシャルルが「僕ら」の前に登場する場面から始まっているし、エンマの死後も小説は続いている。最後は薬剤師オメーの受勲の知らせで終わっているのだ。出版当初は「地方風俗」という副題が付されていたこの小説をよく読めば、エンマは「自殺」などしていないことがよく分かる。なんと、自殺を認めるはずのないカトリックの司祭にみとられて最期を遂げているではないか。

あまりにも有名な『ボヴァリー夫人』を読むという作業に待ち受ける陥穽にはまることなく、手垢のついたボヴァリー夫人像にも染まらず、ほこりを払って目も覚めるようなエンマやシャルルに出会える、フローベールが書いた「テクスト」としての『ボヴァリー夫人』を読むための待望の手引書である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

2014/08/06 02:31

投稿元:ブクログ

レビューを見る

2014/10/20 11:39

投稿元:ブクログ

レビューを見る

2019/02/25 16:28

投稿元:ブクログ

レビューを見る

4 件中 1 件~ 4 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。