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紙の本

インディオたちが暮らす始原の村への旅は、現在時から太古への時間の遡行の旅でもあった。旅人の目に映る新大陸アメリカの「驚異的現実」

2014/07/20 15:51

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る

実際に車を走らせるときは、カーナビに頼ってばかりいるくせに、海外小説を読んでいて気になる地名が出てくると、わざわざ地図を開いて確かめたくなる。作中の地名は架空のものだが、手記の最後にカラカスと記されているからには、ベネズエラ。オリノコ河を遡った密林や茫漠たるパンパのなかに繰り広げられる秘境小説である。

時は1950年代初頭、ニュー・ヨークと思しき都市に住む音楽家の「わたし」は、本来の自分と今在る自分に引き裂かれていた。純粋に音楽を極めることを要求するもう一人の私が、映画音楽の仕事で日銭を稼ぐ私を責めるのだ。女優業に忙しい妻とはずっとすれちがいの生活で、満たされぬ気持を酒と女で紛らわす毎日だった。

そんなある日、「わたし」は偶然街で旧師である器官学博物館長と出会う。館長は、原始的な楽器の蒐集を目的とする旅に「わたし」を誘う。一度は断った「わたし」だったが、愛人のムーシュの甘言に惑わされ、南米の都市に向かう。ホテルに滞在中の二人を襲ったのは、突然始まった革命騒ぎだった。はじめは旅行気分だった二人は偶然に追い込まれるようにして本来の目的であった古楽器探索のためオリノコ河上流への旅に出る。

大都会からインディオたちが暮らす始原の村への旅は、現在時から太古への時間の遡行の旅でもあった。移住者の子であった「わたし」は、母語であったスペイン語に接し、宗主国の風習を色濃く残す植民地の風俗や自然に触れ、現代的な都市生活で見失っていたかつての自分を取り戻してゆく。病を得たムーシュを途中の町に残し、旅中知り合った現地女性ロサリオ、ギリシア人ヤヌスや「先行者」と呼ばれる金採掘人と一緒に上流にある部落にたどり着いた「わたし」は、ロサリオとともにこの地に留まる決意をするが、そんなとき、突然啓示を受けたように曲想がひらめくのだった。

何もない土地で見つけた「裸」の自分のなかに湧き上がる音楽を書き留めるためには文明の象徴ともいえる紙が必要だった。始原の土地でエピファニーを得ながら、それを形あるものにすることができない皮肉。発表する手段も機会もないのに、ノートに草稿を書き続ける「わたし」を不思議そうに傍らで見つめるロサリオ。作曲に必要な紙欲しさの一心で、突然現われた捜索ヘリに乗り一時帰国をする「わたし」だったが、帰国した音楽家を待っていたのは意外な顛末だった。

文明化された都市からさほど離れていない土地に、誰にも知られない隠された市(まち)があり、そこへ行くには樹幹に刻まれた秘密の目印を頼りにカヌーで何日もかけて河を遡行してゆかねばならない。旅人の目の前に次々と現われては消える珍奇な動植物、嵐や雷雨、真昼でも夜のように暗くなるほど空を埋め尽くす蝶の渡りのような自然現象、「驚異的現実」を描くカルペンティルの筆は冴え渡り、秘境小説ファンを充分満足させる。その挙句、約八ヶ月にわたる旅の最後にはアイロニカルな幕切れが待っている。

「魔術的リアリズム」の創始者の一人とされるアレホ・カルペンティエルだが、ガルシア= マルケスの『百年の孤独』が見せるような目くるめくような時空間、ラテン・アメリカ特有の土着的な匂い、土俗的な語り口を期待すると裏切られる。そこにあるのは、あくまでも異邦人の、旅人の目で見られた新大陸アメリカの異国情緒溢れる風物である。それらが話者の主観的な時間の遡行により、ロマンティックな、或は中世的な、果ては創世神話的な光景に変貌を遂げる様を、詩的な文章で描き出した巧緻な工芸品のような作品である。

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2014/07/15 14:15

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2014/06/28 09:07

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