紙の本
児童虐待という社会問題
2019/06/16 11:17
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は柚月裕子のミステリー小説である。冒頭で殺人事件発生が記述される。主人公はアラフォーの女性ライターで出版社から依頼を受けて記事を書いている。テーマも自分で探すのだが、その殺人事件を追うことにした。実際に容疑者の自宅に行ってみるが、特に派手であるとか、高級車が駐車しているとか、目立つ点はなく、普通のアパート住まいであった。
ストーリーが複雑なのだが、その並べ方がやや凝り過ぎで、ストーリー自体が分かりにくくなっているのは残念である。容疑者の幼少時代の育ち方が示されているが、小学生の姉妹が父親に虐待されるシーンが描かれている。それを周囲の大人が精一杯助けようとする姿で全体が中和されているように思える。
その姉妹は成長する過程で施設に入るなど、親からは切り離されるのだが、その過程が何ともやりきれないのである。主人公がそれを追跡していくが、そこに刑事が加わり容疑者の意外な行動の軌跡が浮かび上がってくる。
姉妹の結びつきの強さが逆に残念な結果を生んでしまう。柚月は、その共生を外国の『蟻の菜園』になぞらえてタイトルとしている。この残念な結果は幼少期の虐待に源を発しているが、本書が出版されたのは5年前である。その5年の間も虐待はなくなっていない。柚月が本書の中で問題点を挙げているのだが、それが一向に進展していないことを痛感させる社会派の小説として読了した。
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今、世間を騒がせている、夫や交際相手の男性を次々殺害した疑いで逮捕されたおばさんがいるけど、初めはそんな話かと思い読み始める。
読んでみるともっと深い内容だった。児童虐待や多重人格など考えさせられるものだった。人は一人では生きていけない。どんな人も助け合い、支えあい生きているけど、それには、自分という人間が確立していないといけない。でも、過酷な毎日を支えあった姉妹は共依存しながら生きてきたのだ。
事件を追う主人公・今林由美が、特ダネ欲しさに事件を追う嫌なライターではなく、二人の姉妹の人生を通して、社会に問題定義して終わろうとするところがいい。
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次が気になってどんどん読めてしまうのだが、読みながらなんとも言えない落ち着きの悪さも感じていた。
「なぜ今この描写なのか」「なぜここでこのエピソードが入るのか」が今ひとつしっくりこなかったためである。
たとえば、冒頭では、主人公の由美と友人の康子の関係が描かれる。女性の生き方の格差についての話なのかと思うと、そこから片浜という事件記者との話になる。
合間合間に、いろんなところで食事をしたり、着ている衣服についての言及があるので、本筋に関係あるのかと注意していると、別にそんなこともない。
なぜだろうと思ったら、掲載媒体の関係だとわかった。女性誌に連載していたから、そういう事柄もサービスとして入れたんじゃなかろうか。
テーマが次々に入れ替わっていくような感じで、最初は「美人なのになぜ結婚詐欺を?」という疑問だったのに、いつのまにか児童虐待、性的虐待の話になり、そこから殺人の話、姉妹のかなしい絆の話にうつり、ついにはある精神疾患の話も出てきて、いったいどこへ行こうとしているのかわからなくなる。
メインのテーマは「結婚詐欺による連続殺人」ということだったが、いつの間にかそれがどこかへ行ってしまった感じがする。タイトルの由来も、ちょっとずれてるような気がするし。
幕の内弁当のように、いろんなモチーフが少しずつ詰めあわせてあるので、いろいろ考えるきっかけにはなるかもしれない。
話がどんどんずれていく感じはわからなくもないんだよなあ。書くことはいくらでもあるから。
児童虐待に関してはよく調べてあると思う。虐待を受けている側の無力感がリアルに伝わってきて胸が苦しくなる。ほんと、どうすればいいのか、やりきれなくなる。
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物語の背景は予想通りの重い嫌なものだったが、重松清ほどの陰鬱さはなかった。「臨床真理」の時に似た安易な展開がかなり見受けられたのは残念。「臨床真理」はデビュー作だったので手法が甘くても将来性を期待していたけど、困ったときに安易に手を差し伸べてくれる便利人の登場はそろそろ卒業してもいいのではないか。あと、実行犯が不能犯と言うのはどうかと思う。
そこそこ面白かったので、星はみっつ。
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以前からこの柚月裕子は気になっており、読む前から期待をしていたのだが私には作風が合わなかった。婚活(出会い系になるのだろうか…)サイトを利用した殺人事件というのは昨今では珍しくもなく、このように小説のテーマにもなるほどなのだがこの作品はなぜか、うーんと言いながら首を傾げてしまう感じ。もうちょっとひねり的なものが欲しいような気もしなくはない。
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ずしんと重く、息が詰まる。
途中で先がなんとなく分かるけれども、それでも徐々に真相に迫っていく由美と一緒に気が焦っていく。
事件の背景・当時の状況など色々考えるとさらに重くなる。最後、少しだけ浮上。
やりきれない思いでいっぱいになる作品でした。。
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いつもキッチリと書いてくれているイメージの柚月氏ですが、また今回も姉妹の壮絶な生い立ちをしっかりと書き込んでくれてありました。
おかげで虐待を受けた父親に対し思いっきり憎悪を募らせることができました。
それだけに最後は「多重人格」ってことででかわされたようなちょっと残念な気がします。
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現在と過去をはさみながら、途中から出てくる「あなた」と語りかける第三者…。こういう構成は好き。
虐待シーンは痛々しかったけど、児童福祉の現実を問題提起する結びには、救われた。
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#読了。婚活サイトで知り合った男性を殺害したとして、逮捕された円藤冬香。彼女には完璧なアリバイがあった。美貌の裏の隠された彼女の影を見抜き、ライターの今林が彼女の過去を探ると・・・姉妹の心理には手に汗握るといった感じを受けたが、先が見えてしまったのが残念。最後はなるほどと思いつつも、なんかとってつけたような・・・
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非常に凝った作りのミステリで、確かにこの結末は予測できませんでした。ただ、犯人の動機に今ひとつ説得力が感じられなかったので★一つ減点。
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連続不審死事件の裏に浮かび上がった、一人の女性。ありがちな結婚詐欺事件かと思われるものの、彼女には鉄壁のアリバイが。しかも彼女のような美女がなぜ結婚詐欺をしなくてはならなかったのか。その謎を追い求めるミステリ。
これはもうこれ以上感想書けないなあ。どんどん思いがけない要素が現れ、意外なところで繋がって。結果残ったのは、なんともいえず哀切な物語。本当に、誰か救うことはできなかったのかなあ、と思いました。ラストで明かされるタイトルの意味も印象深いです。
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良かったですけども・・柚月さんってもう少し評価高くてもいいのになーと、よく思います。
近々きっとブレイクする!はず。横山秀夫好きな人とか・・・気に入ると思うんだけども・・。
女性ながら緻密で骨太な作品は好きです。
でもでも、せつないな。冬香の身におこったことって
絶体絶体ダメだけど、最近の時世では全くありえないと
思えないところが嫌です。
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面白いなぁ♪、、断片を覗かせながら本編を進める。苛烈な過去と鬼畜の連鎖には無駄なく、だけど深く斬り込んで…冬香が徐々に鮮明に浮かび上がってくる。太く重く進みながらも終焉はやや拙速感!?、メッセージ性も強いサスペンス・ミステリー。初芝と由美もなかなかの絶妙コンビぶりだ。
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幸せになりたい。大切な人を守りたい。と思うのは普通のこと。
でもその方法を間違ってしまうと元に戻れなくなってしまう。
「大切なこと」を教えてくれる大人の人がいれば違う結果になったのではないか。そう思えて仕方がなかった。
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保険金目的の結婚詐欺というテーマはこれからも増えそうなテーマだ。犯人として逮捕される女性を追うことで出てくる過酷な真実。真実が見え始める後半からどんどん色が変わった展開になっていった。衝撃的ではあるが前半からの違和感なのか多少浮いてしまった気がする。