紙の本
長編のほうがうまい。
2015/09/27 21:57
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投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
武士の決まりや階級、お役などが詳しく書くのに長けている作者だが、そういった知識が長編の中で読むと邪魔にならないが、短編だとやや出しゃばり気味。話の筋のおもしろさや情緒を楽しむ余裕を読者に与える前に、知識を前面に押し出してきているという印象を受けてしまう。今回の短編集ではどれもが刀にまつわる話でもあり、この刀についてもまた様々にうんちくが傾けられる。結果、読むのが正直ちょっとしんどくなる。
また、「かけおちる」などでは許せた一種強引な展開が、短編だと無理があるように感じられる。読後感に空虚さが残り、清々しい感動やしっとりとした情緒に繋がらないのは残念。
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清廉で涼しい、細やかな短編集。
読了し、しばし余韻にひたるとき、目に入ってくる、白をベースに、すこし手触りの残る質感のカバーまでもが心憎いばかりに爽やかである。
男性の手になる時代ものというと、わりと硬質なものばかり読んでいて、勝手にその文脈で世界に飛び込んだもので、まずはその細やかさにはっとした。
まるで、イェーイ!とかいってカジュアルに飛び入り参加したパーティーが、実はドレスコードバリバリのジェントルな会で、でもわりと優しめに歓迎されちゃったような?
あれ違うか。
ただ、ジャケ読みした場合はたまに、そんなこともある。計算外、想定の範囲外のエア感。
そしてその場合往々にして怪我するのだが、今回は想定外の大成功。
正直、最初の作品は、あれって思った。すみません。主人公の日常とそこに投げ込まれた老人との邂逅までは本当に丁寧にたぐられて美しかったけど、え、そのおち?
それはないよね安易よね、って思ってしまった。生意気ですみませんが。
ところが、次の作品で、またその先で、静かにじわじわ世界に引き込まれていった。足から沈んで、気がついたらどっぷりと。
90と70の老親子。釣りで親が落水で命を落とす。家督を譲られない息子の仕業なのか、しかしなぜいま?
夫の不在に、閉塞感から逃れようと密かに小さな贅沢を望む妻が感じる違和感の正体と、その意外な結末。
短編のそれぞれになにごとかの事件、時には人の死を伴う事件が起こるが、それがまとまりよく、かつめりはりと説得力を持つ。その理由を考えた時、すべての作品で際立つっている、小道具の存在がそうさせるのかな、と思った。登場人物の思いと細かい描写があいまって、物語に一本、筋を通している。
もしかしたらこの人は、長編の推理小説をも書ける人なのではないだろうか。
短い中にしっかりと書き込まれた人物描写、そこに投げ込まれた小道具の細密な表記、俯瞰された背景、そのひとつひとつが最後につながり、謎がとける論理性。重厚な推理小説の条件がすべて満たされているように、おもうのだけれど。
もちろん、論理性だけではない。矛盾だらけで愛おしく間違いだらけのわれわれの、そんな綻びもそこに、正しく投影されている。作者の愛に溢れたあしらいとともに。
姿勢を正して、折り目正しく読みたくもなる、そんな本。
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武家を描いた短編集。
青山さんは本質的には短編作家なのかな。
背景にページ数が割けないはずなのに、多言を費やさずどの作品も見事に背景を描いて見せます。
そして声高ではなく描かれる主人公たちの生き様の清冽さ。
こういう作品を読むと、藤沢周平の衣鉢を継ぐ人という気がします。
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青山文平の時代小説は、百何十年も前の話を描きながら、当時、武家や百姓が何を考え、どのように生きたか、日々の様子を、まるで今日か昨日の出来事かのようにリアルに再現してくれる。人々の息遣いや感性が、自分がその場にいるかのように伝わってくる気がして好きだ。どれも面白かったが、「乳房」は心に響く話で一番よかった。「約定」は、少し収まりが気になったかな。「夏の日」も少し説明臭いところが感じられたが、他の時代劇小説では経験したことがなかった武家と百姓のリアルな現実が迫ってきて、非常に内容として面白かった。
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6編の短編集。
どれも刀にまつわる話し。
どの物語も最後にはガラッと風景が変わるかのような結末を迎える見事なストーリー。
この夏は青山文平を読みふける。
コロナ禍が続く夏の過ごし方として良いモノを見つけたな。
以下Amazonより
真剣仕合、藩命、果し合い、介錯。刀が決する人生の岐路を鮮烈に描く武家小説。小さな道場を開く浪人が、ふとしたことで介抱することになった行き倒れの痩せ侍。その侍が申し出た奇妙な頼み事と劇的な顚末を描く「三筋界隈」。果し合いの姿のまま、なぜか独りで切腹した侍の謎を追う「約定」。武家としての生き方に縛られながらも、己れの居場所を摑もうともがき続ける武士の姿を浮き彫りにする本格時代小説。