紙の本
実はマジックワードになっている「抑止力」について、軍事安保の知見から切り込む本。
2022/02/03 17:48
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投稿者:bank - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょっぴりセンセーショナルなタイトルに比して、大変ストイックな本。軍事・安全保障を専門とする研究者・ジャーナリストを中心に、「抑止力」の一言で分かった気になっている米軍・自衛隊の実相を解説している。
出色なのは屋良朝博氏(ジャーナリスト・2022年1月現在では前衆議院議員)及びマイク・モチヅキ氏(国際政治学者・元シンクタンカー)の論考。沖縄に駐留する米軍の主力が「海兵隊」であること、その「海兵隊」が沖縄に実際いる期間は一年の半分に満たないこと、南西諸島有事の際に在沖海兵隊が果たせる役割はほとんどないこと、、、、沖縄の米軍基地を論じるにあたって本来不可欠な、しかしちっとも知られていない「常識」を押さえることができた。
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軍事力の配置は軍事戦略の手段であり、軍事戦略は国家目標の手段である。アメリカの国家目標が冷戦時の兵力水準の維持から対テロ戦争へ、さらには全体の兵力削減、合理化の中でのアジアにおける軍事バランスの確保へと変化している中で、もっとも下部の手段である基地の配置が一貫して変わらず、それがアメリカの目標である抑止力の不可欠な用意であり続けている。
抑止とは相手が侵略した場合にこれを阻止して目的に見合う以上の損害を与える意志と応力を認識させることによって侵略を思いとどまらせることwいう。
安全保障分野における日本の更新世ゆえに日米同盟は未成熟。
軍事力の均衡は重要であるが、抑止力の実際の動きは抑止する側の国家と抑止の対象となる国家との間の心理的関係に依存している。
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この本は「柳澤協二」氏の執筆した論考を類っているうちに見つけた本なのですが、この本を通して知った「新外交イニシアティブ」という団体について知ることができたことが一番の収穫だったかもしれない。屋良朝博氏、半田滋氏は別の論考・鼎談集で語られていたことを概ねたどっていたので、読んだ(出会った)順番としてすでに目新しい論考ではなく、復習をしているような感じだったのだけれど、マイク・モチヅキ氏の論考は、アメリカ側から見た日米同盟体制のことが伺えるお話もあって、大変面白いと思いました。
何より良かったのは猿田佐世さんのお話で、なぜ、新外交イニシアティブが立ち上がっていったのかというお話にはとても感激しました。外交関係も一面的なものではないはずで、アメリカの国内における世論というものがあるなら、おそらくそれだって多様なはず(最も、認知していない、という層が圧倒的に多いのでしょうけれど)なので、その様々な層に向かってきちんとアプローチを掛けるために必要な人と人のつながりを土台にした外交、「国家という後ろ盾をもってする」外交ではなく、人と人の相互の関わりとして広げ深めていく外交というもののあり方の一端を見せていただいたような気がします。数少ないお友達とだけ話をするのではなく、様々な立場、見識、経験、背景を持った人たちと、オープンに語り合い、知り合い、お互いを理解し合った上で、お互いの将来を一緒に考える、これが本来のWin-Winの関係を作り上げられるのであって、相手の言う事だけを聞いてそのままオウム返しのように(バカの一つ覚えのように!)口にするような阿呆には「外交」なんてことは夢のまた夢なんだろう、と強く思わされたのだった。
外交は日米同盟だけじゃない。たくさんの国と「平和」をキーワードにして語り合うことができるのは日本だけ、平和こそが日本のキーなのだから、その軸足が揺らぐことなく、日米同盟の(深化ではなく)進化を強く願わずに入られませんでした。
ちなみに一言付け足しておくと、安倍晋三氏は「深化」という言葉を使われることがしばしばありますが、相手の言うことをそのまま自分の口から出しているような人に深みなどあるわけはない。極めて浅薄な、おもてずらだけの言葉遊びに夢中になっている低レベルなお話しかできない頭空っぽの政治ごっこをしているようにしか見えません。己を知れ、という言葉こそが彼にさし上げるにふさわしい言葉であろうと強く思う次第です。
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抑止力論の概念(拒否的抑止と懲罰的抑止)をわかりやすく説明し、在日米軍と自衛隊の役割を論じたマイクモチヅキ氏の論考はやはり学者の議論で一読に値する。ポールヒュースの抑止の概念にも納得させられた。それ以外の日本人識者は残念ながら木をみて森を見ずの議論で、全体としては少し期待外れの一冊。