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紙の本
戦争で利益を得る小数の人に再び騙されてはいけない
2005/12/17 19:02
18人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は頬を打たれた。分隊長は早口に、ほぼ次のようにいった。
「馬鹿やろ。帰れっていわれて、黙って帰って来る奴があるか。帰るところがありませんって、がんばるんだよ。そうすりゃ病院でもなんとかしてくれるんだ。中隊にゃお前みてえな肺病やみを、飼っとく余裕はねえ。
見ろ、兵隊はあらかた、食糧収集に出勤している。味方は苦戦だ。役に立たねえ兵隊を、飼っとく余裕はねえ。病院へ帰れ。入れてくんなかったら、幾日でも座り込むんだよ。まさかほっときもしねえだろう。
どうでも入れてくんなかったら、死ぬんだよ。手榴弾は無駄に受領しているんじゃねえぞ。それが今じゃお前のたった一つの御奉公だ」
『野火』の書き出しである。この約半頁に日本軍の実態が要約されている。食糧の現地調達主義、兵が消耗品としてしか考えられていなかった体質、鴻毛より軽い命、御奉公の本質、これらの現実が引き起こした悲劇を予測させる。
フィクションではあるが、おそらく多くの敗残兵たちの話を聞き取り、まとめあげたのであろうことが推測できる。
食糧の現地調達主義が虐殺や強姦を日常化させたことは、今日までの研究であきらかになっている。また、敗残兵の約6割が餓死であったことも調査されている。
本小説は、軍からも病院からも追い出された兵が、山野をさ迷い、飢えに苦しむ、その姿と心理を克明に描き出している。最後は人肉を食すという行為への葛藤が描かれる。
人肉を食すまで追い詰められた兵たち。精神に異常をきたす人間がいたことが想像できる。
戦後60年、再び「戦争のできる国」にしようとする企みが活発になっている。経済界が憲法改悪を提言していることは、その狙いを浮き彫りにしている。そこに利益があるからだ。少数の人の利害に再び騙されてはいけない。著者はそのことを強く訴えている。
今も『野火』のような小説が読まれ続けている。著者は「戦争を知らない人間は、半分は子供である」と喝破している。戦争の現実を知らずに、9条改憲を軽々しく論じてはいけない。
紙の本
映画を見て
2017/09/04 22:35
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:玉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校生の時、現代国語の教科書にこの作品が載っていた。怖かった。原作を買った。今も手元にある。古い方の新潮文庫。怖かった。そして、二つ目の映画ができた。監督の思いが伝わってきた。あらためて、原作にあたろう。やっぱり、新潮文庫でなければ。重かった。ゆっくりと、考えてみよう。場面を想像してみよう。映画と重なっても。違っても。
紙の本
映画見てみたい
2017/08/21 10:45
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ライディーン - この投稿者のレビュー一覧を見る
新聞の戦後の特集を見て購入。
かなり重たい内容でした。
非日常における人間の精神状態が如何に凄いかわかる。 最後はかなり哲学的なモノに感じた。 「人間は神によって生かされている」という考え方もあるが、「死ぬ理由が無いから生きている」というのは最もな感覚だと思う。 この一文が響いた。
紙の本
戦争とは、人を殺すとか、殺されるとかということではなくて・・・
2022/01/10 21:57
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私が勝手に日本三大カニバリズム(人間が人間の肉を食べること)小説の一つに挙げていた(他の2作品は野上弥生子氏の「海神丸」、武田泰淳氏の「ひかりごけ」)この作品をようやく読んだ。主人公は戦地で永松という兵隊から「猿の肉を干したもの」を食べさせてもらう、もちろん、主人公はそれが猿の肉ではなくて人肉であることがわかっていた。主人公は人肉を食べたから気が狂ったのか、気が狂っていたから人肉を食べたのか、もちろん、私には戦地に行ったことなぞなく、極限の状況に置かれた人間の行動がどうなってしまうのか、私にはわからない。最近、右翼陣営の人は太平洋戦争で中国や朝鮮を除いたアジアの人は日本に好意的だったと主張する、でも、戦後すぐに書かれてる小説のほとんどに登場する日本兵はアジアの嫌われ者だ
紙の本
喰うか喰われるか
2020/12/27 14:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
空腹と暴力が支配する島で、人間としてのモラルを保つのがいかに難しいか考えさせられます。時代の流れが戦争に向かっている、今だからこそ読むべき1冊です。