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文芸誌に連載が始まったときにちらりと出だしを読んで、「ふうん、どうなるのかな?」と、単行本になるのを愉しみに待っていた。
一読、「これ、絲山秋子が書いたの?」と言いたくなる。
薄いような、軽いような、届かない感じ、書き足りてない感じ、こだわり切れてない感じ、浅い呼吸の息苦しさを感じるみたいに読み終わりました。
もう一度読んだら、何か、舞い降りてくるだろうか?
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人は「離陸」の時を待っている。人が死にゆく時に離陸と表現してます。しっくりくるけど、離陸を見送るのはやっぱり寂しいですね。残された者はそーいえば空を見ることが多いね。
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「女優を探してほしい」。突如訪ねて来た不気味な黒人イルベールの言葉により、“ぼく”の平凡な人生は大きく動き始める。イスラエル映画に、戦間期のパリに…時空と場所を超えて足跡を残す“女優”とは何者なのか?謎めいた追跡の旅。そして親しき者たちの死。“ぼく”はやがて寄る辺なき生の核心へと迫っていく―人生を襲う不意打ちの死と向き合った傑作長篇。
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初めは、中央よりも現場が好きな国交省の若手キャリア・佐藤弘(ひろむ)とダムの話しだと思って読み進むと、いきなりイルベールという黒人が現れ、女優の行方を知らないかと問われる。どうやら女優とは、佐藤が昔つき合っていた乃緒という女性のことらしい。イルベールは、乃緒の息子を預かり、父親役をやっているという。調べてみると、乃緒らしい女はイスラエルの映画に出ていたり、戦中のパリで怪しい仲介人をしていたりと、なにやら得体がしれない。ダムの仕事をしながら、喜んだり悲しんだり、しあわせを感じたり、日常に倦んだりという現実的な物語だとばかり思っていたら、いきなり時空を超えて連れ去られたような浮遊感にとらわれる。確実に生きるとはどういうことか。死んでいくとはどういうことか。すっきりと真相が判ったわけではないが、なんとなく納得させられるものがある。人はいつでも移動中なのかもしれないと思わされる一冊でもある。
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盛り沢山。
スパイ小説…?乃緒の諜報活動はすっ飛ばしてしまった。
登場人物が全員魅力的。
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【生命の「離陸」を描いた新境地長篇】謎の暗号文書に導かれて「女優」を探すうち、主人公は幾つもの大切な命を失っていく。透徹した目で寄る辺なき生を見つめた感動作。
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取っつきにくい本というのがある。第一印象と違う本というのもある。私には本作がその両方に当てはまった。先月か先々月読み始めてすぐ挫折したものの、なんとなくそのままにはしたくなくて再度チャレンジしたら、まぁおもしろいのなんの。たまたま直前に読んだ『パリの国連で夢を食う』と一部シンクロしていて(フィクションとノンフィクションではあるけど)びっくりしたり、当然のようにサトーサトーに寄り添い共感している自分を不思議に思ったり。謎は謎のままでいい。そして、人生とは、人とは何かという問いへの答えが出なくてもいい。小説の世界を楽しんだ。12月も半ばを過ぎて今年のベスト(のひとつ)だったかなという本に出会えて嬉しい。
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失踪した女優の謎だけでなく、あちこちに謎があって、どれ一つ解かれることなく終わってしまった。離陸という概念だけが手元に残った。人生のひと時を共に過ごした人々が去っていっても、自分の人生は続く。
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「離陸」という言葉に含ませた意味が深くしみる。
帯からもっと軽やかなスリルに満ちた物語を想像していたのだけど。なんというか、とても静かな寒い冬の湖畔で読みたくなるような、そんな物語。
大声で自分語りをする者がいない。だれもがヒトの声にそっと耳を傾ける。大袈裟に感情を吐き出すモノがいない。だれもが自分の心にそっとフタをしている。
目の見えない茜が一番最初にこの物語の全てをつかんでいたのかもしれない。
「飛行機が自分のスピードに耐えきれなくなって飛ぶ感じ」なのだな、離陸というものは。
「忘れていても、棚上げしていても、物事は連続しているのだ」
「すくいとったものつもりのものの、手からこぼれ落ちて行ってしまう。失い続けたあとに残るむなしさだけが自分のものなのかもしれない」
「その滑走は悲しみを引きちぎるように加速していって、やがて地上を走ることに耐えられなくなり、ふっと前輪が浮くのだ」
「生きながら死人となりてなり果てて思ひのままになすわざぞよき」
「身近に水を感じながら暮らすのはいい。…りくち、そして人間の世界は決して無限なんかじゃないことを認識していられるからだ」
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淡々とした男性の生き方、やり方、自覚の仕方。巧いなと思う。
物語としては成立していない。
「カンジ」を読み取れる人にだけ有効。
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結末がいわゆるハッピーエンドではないので、読者からは賛否両論あったらしいが、この小説にはこの終わり方しかないように思った。
愛、友情、家族、そして死。
とにかく、色々と考えさせられる小説である。
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国交省のエリートの主人公(佐藤弘)は、出向中のダム事務所のほとりで屈強な身体をしたフランス人のイルベールに出くわす。彼は弘のかつての恋人、乃緒を探しているといい、弘に協力を求めてくる。怪しすぎる相手と要望に突っぱねる弘だが、次第に乃緒の謎の探求に巻き込まれていく。
出向先の矢木沢ダムを舞台とした一部、フランスのユネスコで過ごす二部、そして日本に戻って管理職として過ごす三部の三章構成で進む。
1930年代の文書に出てくる「乃緒らしき人物」と乃緒を取り巻く謎。そして弘本人をめぐる環境。二つが重なりながら物語は進む。
自分は主人公と同じような職業なので、弘の感じていること、受けた衝撃は仕事の部分に関してはとても共感できた。
この本にも東日本大震災が現れる。この出来事は本当にいろいろなものひとに影響を及ぼしたのだと思う。
「離陸」という言葉はこの世からの旅立ちを表している。死とは有限の世界からの旅立ちで、生きている自分たちは有限の陸地から飛び立つ飛行機を眺めている。
印象的な物語の結び。
「実際のところぼくら役人はそれほど自然の力を信用していない。信用するほどの長い期間、任地にとどまることだって少ないのだ。それに時間は一方向にしか流れないと思っている。物事はプラスオンされるばかりだと思っている。(中略)プラスオンしていくことが、地域の人に役に立つことだと思い込んでいる。」
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とてつもない作品ということは間違いない。
初めは色彩豊かだったのに段々と色が薄まり(褪せるのではなく)気が付くと表紙のような静謐な世界にいた。
逸脱を繰り返すミステリアスな展開はリアリティが根底にあり揺るぎない。焦らない。慌てない。惑わない。
離陸を待つだけのではなく離陸する時から来るのだ。
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冬山の仕事先に突然パリから黒人イルベールが訪ねてくる。
「失踪した君の元恋人を探して欲しい。」
導かれるかのようにパリ赴任が決まり、必然的に元恋人を探すが、次第に時空を意識せざるをえない追跡へと変わる。
元恋人の関係者たちの事件、ブツゾウとの交流、イルベールの病気、色々なことが片付かないまま赴任期間が切れて帰国する。
パリの恋人と結婚して日本で暮らし、儚い幸せに気付き大切に思う主人公の身近にまた死が訪れる。
そしてそれは元恋人へと。
謎がたくさん残っているのに消化不良な感じがしないのは、きっと質量が違うからだ。
ほどよい濃厚さが心地よい。
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なんだ!長編書けるじゃないか!しかも群馬を抜け出してパリを舞台にして~僕,佐藤弘は東大を出て国交省に勤めているが,まだ越冬隊が存在していた時分に独立行政法人に出向し矢木沢で黒人の訪問者・イルベールを厳寒期に迎えた。女優探しの最中だという。女優とは大学時代に堀内の紹介で付き合った乃緒という女だが,息子を残して失踪しているのだという。友人のフェリックスもフランスの海外県カリブ海のマルティニークの出身だ。堀内から乃緒の情報を引き出す内に,国交省からユネスコ本部に出向という話が舞い込む。リュシーという電気技師と知り合い,ギョームという勤労学生とも友達になったが,乃緒の息子・仏造とも親しくなった。日本では震災が起こったが,15年下の眼に障害を持つ妹・茜は四日市からやってきて,物造ともイルベールとも親しくなった。イルベールは古物商から10ユーロで買い取った1950年代の書の謎を解けと佐藤に押しつけるが,それはローマ字書きした日本語を暗号化した「未来から来たと自称するマダム・アレゴリの記録」というサミュエルという人物が書いたもので,1930年代に乃緒はパリでユダヤ人をアメリカに逃がす仕事をエジプトから来てやってる様子だ。誰かに狙われているという不安を抱えたギョームが連続殺傷事件の4人の被害者になって,リシューは落ち込むが,やがて休暇を利用した日本旅行にも従った。帰国中,イルベールからの電話でギョームを殺害した犯人が,サミュエルという老古物商を殺して逮捕されたという。仏造を育てているイルベールの元の職業は陸軍の参謀で,結腸に癌が見つかって手術するという。仏造を預けたいという見通しは暗いの断った。佐藤は帰国し目黒の官舎でリュシーと暮らし始めるが,慣れない仕事にストレスが貯まる。熊本八代の国道事務所勤務では,リュシーが田舎暮らしにストレスを溜める中,イルベールが入院先で死亡したことを本人の手紙で知らされる。震災時から失恋が元で失踪していた須藤が会津からメールを寄越し,古川侘景という坊主に世話になっていたと妻が妊娠の報告をするため帰国する妻を送りに来た博多で聞いた佐藤は,実家のリュシーが急死した。自棄を起こして八代の飲み屋街を彷徨き,貞方乃緒を見掛けたが,次の連絡は衰弱して金しか認識できない入院先の病院からだった。盲学校の先生になる茜の点字だけに反応する。ブツゾウが母親に会うために来日して,福岡で逃げられたが,別ルートで五島の福江島で追いついた。ブツゾウのことはうっすら判るらしい…~さてSF路線なのか,怪し話路線なのか,終盤まで判らない。予想は,考えても判らない怪しい不思議の物語。当たりかな? 過去形で書いているので,何時書いている想定かと思ったが2025年とは!! 珍しい単行本での後書きで彼女は「女スパイもの」「つくづく短編書き」って書いているが,この本って女スパイものだったの?
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絲山秋子氏らしい、そこはかとない寂しさが漂う。けれど、一方で絲山秋子氏らしくない、ゆとりのなさ、あるいは心理的な広がりのなさをもった主人公。絲山氏の小説での主人公たちは、切迫しているのだけれど、どこか一方で心の逃げ場所を持っているというか、どうでもいいやと諦めたような感じがあるのだけれど、本編の主人公はそれが感じられない。1→2→3→4と順番を追って心が動いていくような。2の次は3しかこない、そういう限定された感じが漂う。読んでいて、この点が絲山秋子氏作品を読んでいる感じがしない要因だと思った。長編、だからだろうか?