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ここに収められているのは、おおむね、リン・カーターのクトゥルー神話である。すなわち、マニアックであり、儀式魔術スキーであり、「なるべく原典に忠実に、でもやっぱり自分の趣味嗜好が出ちゃうよ」的な作品であろうことは想像できるかと思う。なぜなら、リン・カーターとは、どうしようもなく「趣味の人」であるからだ。
従って読むのは楽しくもあり、マニアックすぎて大変だったりもするが、詳細な注釈がつけられていることで、すぐにリファレンスでき、便利であるだけでなく、注釈そのものが、読んでいて面白い。クトゥルー神話というものが、そもそもグロッサリー的な楽しみを含んでいる事を考えると、実に好適な作りであるのだろう。
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物語の熱烈なファン――geek(オタク)と言ってもいいかもしれない――であったリン・カーターは、年少の頃より数多の物語を読み、長じてからは数多の物語を研究し、先人が遺したものを元に続編や新編を書き続けた。
それはクトゥルー神話も例外ではなかった。先人が遺したものを体系化し、そしてネタにして神話の新たな構図、所謂《ゾス神話群》を生み出したのだ。
本書は、そのゾス神話群に連なる物語をまとめた連作集である。TRPGシナリオまたはクトゥルフ神話作品の創作で、イソグサの外見描写の詳細を知りたい人は『夢でたまたま』を、ゾス=オムモグの外見描写の詳細を知りたい人は『時代より』をお薦めする。
以下、少々ネタバレ含む各話紹介。
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『赤の供物』
その時、イソグサに仕える教団の、大神官の座は空位となっていた。その座を狙う神官のザントゥーは、座を射止める権威付けとなるものを手に入れるべく、弟とともに南に向かう。はたして、彼の頭の中で繰り返される言葉「〈赤の供物〉を捧げるべし。」の真意とは――?
(作中の時系列では最も古い作品だが、創作時期は他の作品の後である。過去作の要素を意図的に再利用することで繋がりを強調している、プロローグに相応しい小編。)
『墳墓に棲みつくもの/墳墓の主』
野心溢れるコープランド教授は自身が発見した古文書を元に中央アジア遠征を試みる。隊が遭難し、幾多の危難に見舞われ、孤立無援になっても歩を進め、ついに目的であるザントゥーの墓を見つけた教授が目の当たりにしたものとは――。
(中央アジアが舞台だからか、ロングの『恐怖の山』からの情報を散りばめさせてクトゥルー神話との関連性を強調している。)
『奈落の底のもの』
ガタノソアに仕える教団からの度重なる迫害に対し、イソグサに仕える神官ザントゥーは、イソグサの封印を解くことで権威の復活を試みる。首尾よく封印を解いたザントゥーだったが、その前に現れたのは――。
(一言で言うと「激情に駆られた結果やらかした」話。旧支配者は起こしちゃダメ。)
『時代より』
病院で狂死したコープランド教授の、収集品の管理を担当することになったブレイン。その中で最も特異だったのは、ゾス=オムモグと呼ばれる神の姿らしい、名状しがたい造形が彫られた翡翠の彫像だった。やがてブレインは夜毎悪夢に悩まされるようになり、衰弱していく――。
(なぜ旧支配者は、彼らにとっては取るに足らない存在のはずである人の信仰、または助力を欲するのか。その回答の一つが本作にある。登場人物を旧支配者とどう関わらせようか悩んでいる人にお勧めしたい。)
『陳列室の恐怖』
狂気に陥ったことで入院しているブレイン博士。彼の部下であるホジキンスは、一時的に正気に戻った彼から、翡翠の彫像の破壊を託される。
ブレイン博士の業務、ひいてはコープランド教授の研究を引き継ぐことになったホジキンスは彫像の持つ危険性を理解し、確実に破壊すべく、情報を得るためにミスカトニック大学へ向かうことに――。
(言わば『時代よ��』がゾス=オムモグを巡る物語の前編にあたり、本作が後編にあたる。ミスカトニック大学の教授陣が一堂に会する場面には、つい口元がにやけてしまった。)
『ウィンフィールドの遺産』
従弟のブライアンから叔父の死を知らされたウィンフィールドは、葬儀に参加するためにアーカムからサンティアゴに向かった。そこで再会したブライアンから、自分と従弟が叔父の遺産相続人にされていることを知らされる。全く面識がなかった自分が、なぜ相続人に選ばれたのか――?
(ダーレスの『暗黒の儀式』で事件を解決したラファム博士の秘書だったウィンフィールドを語り部に、決して終わらない連鎖を描いている。ラヴクラフト、ダーレス、そして自分がこの世を去っても、必ず誰かがその先を継いでクトゥルー神話を続けてくれるという願望を暗に仄めかしているともとれる内容。)
『夢でたまたま』
亡くなった祖父の遺品を取り出したことを契機に悪夢に悩まされるようになったパーカー。知人の紹介で面会したザルナック博士の求めに応じ、パーカーは彼に祖父の収集品を見せることにする。その中で、ある浅浮彫が博士の目を引く。それは、イソグサの姿を彫ったものだった――。
(過去作品のモチーフを集めて凝縮したような内容。創作順としては今作が最後であり、ゾス神話群の「おさらい」といった趣。)
『悪魔と結びし者の魂』
サンボーン研究所は、所有している故コープランド教授の収集品の、元々の持主であった人物の遺産を相続したウィンフィールドに対して、貴重な書物を譲るよう交渉することを、所属している助手のメイトランドに命じる。早速メイトランドはウィンフィールドに面会するが、彼の言動に不審や違和を感じ、知人のザルナック博士に相談することに――。
(カーターの作品集を出したプライスが彼の死後、彼の創作方法に則り、彼の作風で書いた『ウィンフィールドの遺産』の続編であり、締めに相応しい内容。)
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素晴らしき二次創作、リン・カーターの〈超時間の恐怖〉を完全版とした連作短編集、訳注と解題、解説が超マニアックで最高■「赤の供物」プロローグ「墳墓に棲みつくもの」秘境探検隊、俺かよ「奈落の底のもの」俺さま、やっちまった「時代より」遺品整理は難しいデス「陳列室の恐怖」ミスカトニック大学オールキャスト支援のもと〈ポナペの小像〉破壊セヨ「ウィンフィールドの遺産」前短編に引き続きダーレス作『暗黒の儀式』の後日譚連作「夢でたまたま」続きます、ザルナック博士の過分な報酬「悪魔と結びし者の魂」プライス作による完結編で締め