紙の本
地方女子のリアルな心情が秀逸。
2018/11/30 21:55
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投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は短篇集。
前作よりも脚色が少ない分、落ちついて読めるし、
作者のセンスがびしばし伝わってくる。
大化け期待大の作家さんではなかろうか。
ネットで検索したら、本人のブログや地元とのタイアップ企画の
ページなどがヒットして、この人のベースが分かって面白かった。
楽しませることが好きな人らしい。でも観察眼は鋭いよ。
自分も田舎町出身だから、この作品の感覚は手に取るように
分かる。人間は自分の身の回りをものさしにして判断する。
だから田舎の人は、TVの世界を横目で見つつも、
まあこんなもんでいいんじゃね的な馴染み感を持っている。
別に都会に勝とうとも思っていないし、有名デパートがなくても
悲惨な気分になることもない。でも、うらやましくは思う。
だから都会は憧れる対象であって、自分の町がダメだと
評価するものさしではない。
この作品にも出てくるが、田舎から都会に出た人のほうが、
よほど地元を田舎扱いする。ずっと都会に住んでいる人は、
田舎には関心が薄い。自分の感覚で申し訳ないが、
そんな感覚が多数派ではないかと思う。
「でもあんた、スゴいよね、東京とか」
「……」
「まさか本当に行くなんて思っていなかった」
主人公にそう語りかける昔の友人は、なんだか充実している
ようにも見えるし、都会にコンプレックスを持っているようにも見える。
でも、じつは、田舎という守られたバリアの中でぬくぬくしている、
そんな感じを作者は見抜いている。
だって田舎は楽だから。
田舎が人里離れた山の中なんてのは民話の世界。
田舎といっても都市部と周辺町と散居村があり、人数的には
市街地に住んでいる人が多くて、可もなく不可もなくの生活を、
刺激が足りねー給料やすいーなんて言いながら
ぬるま湯につかっている。
もちろん、田舎のバリアの中の居心地が悪ければ、
都会という憧れの地に飛び出したくなる、そんな感覚か。
でも、大都市部から見ると田舎なんて十羽ひとからげだし。
いいとか悪いとかではなく、そんな真実をえぐってくるあたりが、
そしてそんな状態をいろいろと考えてしまう登場人物たちが、
なんともリアルで面白いのである。
海外に行けば、日本で都会ぶっているのなんてまさに
島国根性なんだよなと思っちゃうのだが、
上から目線すぎる感覚だけど、
自分のアイデンティティーにもつながるような気がして
意識してしまう。
オールニッポン、自分の中では都会も田舎もないんだけど。
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ここは退屈迎えに来てで好きだなって思った人はこの作品も絶対気にいるはず。山内さんはこのくらいの短編が一番上手に面白く書けるんだなと再実感。アズミハルコ〜が個人的にはイマイチだったので。地方都市小説第二弾といったところかしら。わたしは東京生まれ東京育ちなので見方が違うかも知れないけれど、燻ってる感がとにかく巧妙。いいねいいね、と思いながらひとつひとつを読みました。おすすめ!
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地方都市に住む若い女性のぐるぐると行き場のないうっぷんを描かせたら右に出る者はいないだろう、山内マリコ。
11の短編のそこかしこに、若かりし頃の私や友だちがいる。
ナニモノかになりたくて、いつかきっとナニモノかになれると思っていて、だけど、ナニモノにもなれないかも知れないと諦めたりもしていて。
常に不機嫌で、傲慢で、孤高で、それでいて不安いっぱいで。そんなあの日に欲しかったのは、やっぱり私の名前を呼んでくれる誰かだったのだろうな。
山内マリコの短編には寂しがり屋なのに素直になれないたくさんのハリネズミたちがいる。
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最後の書き下ろしの二編は『ここは退屈迎えに来て』に近しいと思うので一作目から読んでいる人にはおお!みたいな感じになると思う。雑誌とかに書き下ろしたショートストーリーが収録されているがやっぱり山内さんの小説はバランスや自意識の書き方がちょうどいい痛みと優しさがあるなあと思う。こういうショートの作品をいろん媒体で書いていてひとつの本になるとすごくいい。
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軽い、けど、キライじゃない。好きではないけれど、キライじゃない。そんな感じで山内マリコは読み続けてしまいそう。そんな作家が前にもいたなぁ。
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デビュー作が気になりつつ、読んだら切なくなりそうだと後回しているのだが、ついこちらを先に読んでしまった。好きだわ。
同じ歳ということもあり、出てくる用語とか諸々いちいち分かりやすくてやっぱり切ない。いよいよ読まなきゃか。うう。
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「さみしくなったら名前を呼んで」
というタイトルに猛烈に惹かれて購入した1冊。
いくつになっても女子の不安定さっておもしろいなぁ。女子にしかきっとわからないけど、女子なら誰でも思い当たる。
そんな11種類の不安定さがつまっている。
装丁もすてき。
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山内さん前作の「ここは退屈迎えに来て」より好きだった。
文章から絵が想像できるような、逆に絵から物語が語られているような、不思議な本だった。
なんとも言えない懐かしさとか、空虚感とか、切なさの表現の仕方にとても共感しました。
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ラストの「遊びの時間はすぐ終わる」で★4つに。
前作2冊に続いて、どれもタイトルが秀逸。
そして、装丁が気に入った人にはきっと小説自体も響くと思う。
本文の文字色も好き。一瞬、視力が落ちたかとも思ったけれど。
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読み始めたら止まらなくなり、久しぶりに一日で読み終わった本。文体はかなり軽く、すらすら読める。内容も良く言えば今風、悪く言えば俗っぽい。
しかし、しかし。一番始めの作品のタイトルを見れば、その痛切すぎる薄っぺらさはわかってもらえるだろう。「さよちゃんはブスなんかじゃないよ」である。うっ、うっ(涙)。
見える世界が全てだったあの頃の閉塞感と絶対感、でも振り返ってみると全てがあまりにフラットでびっくりしてしまう。そこに懐かしさなんてものはなく、けれど自分にはあの時間しかなくて、まだ何物かの存在を探し求めている。
寄りかかることを軽蔑しつつ、自分の存在に疑いを持ったまま、いつの間にか大人になっている、今の私。そんな青くて狭くて、でも必死だったあの頃がひりひりと身に染みるとともに、もう自分はあの頃とは違うんだな、ということにほっとする気持ちも覚えた。
許されていた、と言えばいいのだろうか。夢を見ていてよかった、自分もいつか……と思っていてよかった、そんな時間があったからこそ、今の私がいるのかもしれない。当時の私は、それを「許されて」いた、などとは考えもしなかったが。
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素晴らしい! あねもね組の中でも、今後をもっとも期待する存在です。
短編って、物語世界に入るまでのエネルギーを要する割には、やっとエンジンがかかってきたと思ったら、もうばいばいの時間、みたいなのがあって、最近はほとんど読まなくなってました(読むのはもっぱら長編か、短編でも連作短編ばかり)。でもこれはひとつひとつが、まるで違う世界でありながら、山内マリコの世界の住人というゆるい共通点を持っていて、みなが個性的できらきら輝いていて、ぜひ全部長編にして欲しいというくらい。
どれも好きだったけれど、いちばん印象に残ったのは、年長者との恋におぼれてセンター入試をさぼっちゃうお話(大人になる方法)。「遊びの時間はすぐに終わる」は、「ここは退屈、迎えにきて」とほぼ近い世界観で、そういう意味で短編集の最後として、知っているところに戻ってきた感じです。繰り返し読みたくなる本でした。
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ケイコの東京での生活を満喫しつつも、川越出身という後ろめたさを感じつつも川越への愛に溢れた「ケイコは都会の女」がショートショート並の短さに凝縮されていて一番よかった。
全体的に芸能人や映画のタイトルだとか、リアルなモノが出てくるので想像しやすい。
あと、タイトルがすごくよいのに、それにつながる表題作がないのが残念。
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15/02/24
山内マリコさん三冊目。このひとはほんとすてきなタイトルつける。
・主婦の座にどっしりとあぐらをかいている女性たち。わたしも早くああなりたい。あんなふうに半径ニキロ圏内の安全な世界でちんまり暮らしたいなぁと、密かに憧れていました。(P10『さよちゃんはブスなんかじゃないよ』)
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短編集。女子の恋愛感情が火山の噴火のごとく激しく噴出している。何で女はこんなに恋愛に必死になれるのか。異性への依存度が高いからなのか。こういうのは男の作家には書き切れない感情だと思う。
最後の章のセフレには笑った。これは地方の小都市の恋愛事情みたい。これではまるで結婚して子供産んでというパターンをなぞるように生きるしか道が無いみたいだけど、自らを振り返れば二十歳の頃に結婚などは一番あり得なかった。地方は選択肢が限られているのかな。人と違う生き方だと排除されそうで怖い。
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女子高生、田舎から都会へ出た女性…など若い女性のショートストーリー。
冒頭の「さよちゃんは~」から女子の心情描写がリアルだった。気詰まりな空気感とか。
装画:山下陽子「星の誕生」