紙の本
山火事と謎解き
2016/01/12 17:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
〔ネタバレ〕
迫りくる山火事に閉じ込められた、十二人の人々……。
そもそもなんでそんな人里離れた山のてっぺんに住んでいたのか、ゼイヴィア博士とその妻は!
ということが、結局、この事件のアルファであり、オメガであった。山荘は焼け落ち、ゼイヴィア家は、エドガー=アラン=ポーの『アッシャー家の崩壊』と同じ運命を辿る。
始めは、エラリー=クイーンとその父のリチャード=クイーン警視が、休暇で山中に迷い込み、山火事で進退窮して山荘に一夜の宿を請うたことから、連続殺人が始まったのだ、疫病神だ、こいつらは、と思った。山荘の人々は、クイーン父子に秘密を悟られてはならじと緊張するし……。
でも、それは、私の勘違いだった。クイーン父子は、まるで神に選ばれし者のように、事件の観察者、判定者として、そこにもたらされたのだ。
最初の殺人のあと、なおも秘密を隠し通そうとする人々と、憎悪と嫉妬から秘密を曝してやろうとする人との間で緊張感が最高に高まったとき、エラリーが、名探偵は行動も素早いのか、自力であっさりと明かしてしまう。そのあとの一齣は、明るく、和やかな、いい雰囲気になって、よかった。それにしても、クイーン警視、ひどいこと言っていたよね、カニとか、カニとか、カニとか……。まあ、その後は優しいおじさんぶりを発揮するようになったから、いいけど。
私は中学生の頃、確か、『シャム双生児の謎』という題で、この小説を読んだと思う。当時、既に、イギリスの女の子たちを主人公にした少女漫画で、シャム双生児について知っていた。初めは差別がひどいので人目を避けて暮らしていたが、やがて隠れて暮らすのをやめ、医師の診断を受け、テレビにも出て、国中の人々が、分離手術の成功を祈る、という話だったと思う。つまり、エラリー=クイーンがこの小説を発表した1930年代にはまだ、分離手術の成功例はなかったが、1970年代には、成功例があったのだ。
その後は、ベトナム戦争で撒かれた枯葉剤の影響で、多くのシャム双子の人々が生まれて問題となり、医学研究が進み、枯葉剤の影響でない同様の人々も含めて、分離手術を受けた人々もいれば、分離できない人々もいるし、また、あえて、分離しない生き方を選ぶ人々もおり、1930年代当時と比べれば、21世紀の今、シャム双子は、隠したり隠れたりしなければならないものでは、なくなっている。
この作品は、中学生のときでも、好きだったが、むずかしくてわからないところもあった。今、『シャム双子の秘密』という題で、新しい訳で読むと、とてもおもしろく、いわゆる国名ものシリーズのなかでも、最も気に入った作品である。『オランダ靴の謎』で触れられていた医学的な事実が、今回の謎解きの要素となって、エラリーらしい推理が見られるのもいいが、事件の進行と同時に、謎解きと同時に、徐々に徐々に極限状況へ追い込んでくる山火事の恐怖が、実に真に迫ってすばらしい。
ただ、訳語には、ときどき、気にくわないものがあった。「目線」という言葉が気になった。そこは「視線」でいいだろう、と思った。新訳には、ときどき、こういう、私が年を取ったせいか、新しい時代についていけない、と感じることがある。翻訳家も苦労しているのだろうし、必ずしも古いもののほうがいいわけではないが、古いものが読めなくなっていることが多いのは残念だ。図書館にも、なかなか、ない。出版社にも版権や経営のむずかしい問題があるのだろうが、新訳旧訳とも自由に読めたらいいのになあ、と思う。
紙の本
悪趣味と思われる向きもありましょうが・・・
2015/10/23 18:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
山火事に巻き込まれ山頂の一軒家に身を寄せることになったクイーン親子。
迫りくる炎,しかし逃げ場はなく、そんなパニックの中で家の主の博士が銃殺される。
博士の手の中には、半分にちぎられたトランプカードが握られていた・・・。
個人的感想 ネタバレ要注意!
題でお判りの通り、シャム双子が出てきます。特殊な障害のある方を出してくるのは悪趣味と思われる向きもありましょう。ただの双子でも十分だったのでは?と私も思いました。
しかし全体としては,2転3転のどんでん返しと謎解きで,ヒジョーに面白かったです。迫り来る死の恐怖と,その締め方も良し。超おススメです。
今回のダイイングメッセージに対してファンの間では議論があるようですが,私は別に違和感は感じなかったけどなあ??
紙の本
納得感のある読後でした
2016/07/24 16:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽの - この投稿者のレビュー一覧を見る
山火事の緊迫感が徐々に高まってく中で推理を組み立てるという状況によって,これまでの同名シリーズとは異なる独特の雰囲気を出していて楽しめました。
本作は「読者への挑戦状」はありませんが,これまで同様,フェアで緻密な論理構成になっていて読後に納得感が得られました。
ダイイングメッセージを中心にこれだけ推理が展開・発展していくのも面白かったです。
投稿元:
レビューを見る
レビューが間に合わない!
エラリー・クイーンとその父リチャードは、休暇の締めくくりに訪れたアロー山で山火事に巻き込まれる。
命辛辛逃げ込んだ屋敷には、奇妙な秘密を湛えた住人たち。
父子が感じた予感に狂いはなく、翌朝書斎で射殺死体が発見される。
山頂に位置した屋敷の周囲には燃え広がった炎が渦巻き、彼らを世界から断絶していた。
迫る生命のタイムリミットまでに、クイーン父子は事件を解決することができるのか。
最近のマイブームがエラリー・クイーンシリーズです。
このままいくとあっという間にあらかた読みつくしてしまいそう。
バーナビー・ロスが作者の『悲劇の四部作』のうち、2作に手を付けた上で読んだこの『シャム双子の秘密』ですが、一風変わった作風ながら非常に楽しく読めました。
解説の飯城さんも言っているとおり、探偵役のエラリーは、推理以外の場面では役立たずでなんとなく頼りない。
練りこまれた筋書きと緊迫した舞台、そして意外性のあるオチ。
ミステリー小説の読者が期待するものすべてがさらりと盛り込まれたすばらしい本でした。
投稿元:
レビューを見る
ダイイング・メッセージを中心に置いた異色作。メッセージの示す人物は固定ですが、メッセージの真偽が二転三転するという、なかなかユニークな使い方をしていて面白いです。
しかし、エラリーの推理に物的証拠が殆どないので、最終的に出した推理も「まだ何処かに穴があるんじゃないか」と思ってしまいあまりスッキリしません。
また、クローズド・サークルものなのに緊迫感とか山火事の危機感があまり感じられないのも残念なところです。
読者が心理的に真犯人を候補から外してしまう巧妙なストーリー展開はとても良かったと思います。
投稿元:
レビューを見る
国名シリーズでは珍しい、ダイイングメッセージ・クロサーものです。さらに、今回は事件に「乗り出していく」のではなく休暇中のクイーン親子が事件に「巻き込まれて」いきます。カナダからの休暇帰り、車中で言い争う二人を突如山火事が襲います。山頂まで逃げた二人はそこの屋敷に世話になることになりますが、翌朝殺人事件が、握りしめられたスペードの6。異端作だと言われる所以として、読者への挑戦がないことが挙げられますが、これは推理のタイミングが分かってしまうと大分つまらなくなりそうな。謎解きというより話そのものがgood
投稿元:
レビューを見る
シリーズ第7弾。唯一読者への挑戦状がない作品であるらしい。クローズドサークルものなのが意外だった。毎度のことながら、これだけ推理を間違えたら誰も信用しなくなると思うのだが。推理の着眼点は面白い。山火事の生み出す緊迫感が先を読ませる。なかなか面白かった。
投稿元:
レビューを見る
2018年1月21日、読み始め。
2018年1月28日、読了。
以前より気になっていた作品だが、「シャム双子」というタイトルの一部にひっかかるものがあり、手にすることがなかった。
実際に読んでみると、なかなか凝った謎解きになっており、読後はウ~ンとうならされた。
投稿元:
レビューを見る
何度読んでも感じるんだけど、時代による風習の違いって大きいんだなって。
今回は最後がいまいちスッキリしない終わりかたでした。
投稿元:
レビューを見る
鶴書房のミステリ・ベストセラーズ『シャム兄弟のひみつ』亀山龍樹訳。
これは少年少女向けの縮約版です。
少し分からない部分があったので、完訳版と読み比べてみました。
新訳版である本書には、飯城勇三氏の解説が付されています。
この解説が充実しています。これでこそ紙の本を購入する付加価値というものです。
私は以前、クリスティー文庫『そして誰もいなくなった』に解説がないことについて不満を述べました。
早川書房は「翻訳権独占」の地位にあぐらをかいているのではないでしょうか。
少年少女・ネタバレ談話室(ネタばらし注意!)
シャム兄弟のひみつ ネタバレ検討会
http://sfclub.sblo.jp/article/184314049.html
投稿元:
レビューを見る
二転三転のプロットには唸るし、何よりこの舞台の設定がいい。
絶体絶命のクローズドサークル。
犯人が分かっても、圧倒的な命の危険があるというのが新鮮。
が、おそらく翻訳もの(特に少し時代が古い作品)の宿命なのか、とにかく読みづらい。
しかも私的にはエラリーになんの魅力も感じないので、すべてが「ふーん」という感じ。
シャム双子という設定、途中差し挟まれた司法的な問題点は非常に興味深かった。
なるほど……!
万が一そういう事態になったら、果たしてどんな裁きが下されるのか。
とはいえ、シャム双子という設定そのものがすでに非凡なせいか、物語としての飛躍は望めないのかなと……
言葉は悪いが、雰囲気的装置に過ぎないのかな……
その点、乱歩の「孤島の鬼」は凄かった…(
投稿元:
レビューを見る
国名シリーズ第七作。「読者への挑戦」のない異色作、とよく紹介されている。その他にも、これまでに読んだ同シリーズ他作品とはずいぶん印象違うなあと思ったポイントはいくつかある。
まず、“山火事で陸の孤島と化した山頂の館”という、外部から遮断された状況での殺人事件であること。ミステリー小説界ではこういう状況を「クローズド・サークル」というそうだ。雪山や無人島や列車などに探偵が訪れてなぜか殺人事件が起こるなんてよくある設定じゃん、と今でこそ思うが、長編ミステリーではこの『シャム双子』がクローズド・サークルものの元祖という説もあるらしい。山火事で誰も近寄れないので、いつものお馴染みの警察仲間たちも登場しないし、鑑識だ弾道学だ張り込みだといった科学的/組織的捜査も行えない。普段は、論理をこねくりまわして考えるのはエラリー、部下たちを指揮して緻密な捜査を実施するのがパパ・リチャードといった役割分担だが、今回はパパもけっこう推理する。
次に、★ここからどうしてもややネタバレになりますが★、二転三転する迷推理(なんか今回エラリーもパパも冴えなくてね・・・)のなかで、真犯人にたどり着く前に「犯人はお前だ!」を三回もやること。芸風変わった・・・?という違和感だけでなく、名指しされた人は冤罪であればそれだけで堪らないし、ショックで気絶しちゃう人もいたし、動揺してつい逃げちゃった人を(警告したうえでとはいえ)パパ撃っちゃうし、瀕死の重症に陥らせるし、しかも第二の殺人まで引き起こしちゃうし、それほどの結果に見合うほど悪びれもせず相変わらず偉そうだし、ちょっとこの辺はいただけないなあと思いました。推理を間違える点も人道的にどうなのと思える行動をとる点も、「探偵は神様じゃない」といえばそのとおりなのだが、ミステリー小説批評界ではこうした問題は「後期クイーン的問題」という名前までつけられた一大トピックとなっており、ミステリー作家やファンの間でしばしば話題となるらしい。
最後に、サスペンス/サバイバルものとしての緊迫感。まず冒頭でこの山頂の館にたどり着くまでも命からがらで、いつもは澄まし顔のエラリーも登場シーンから衣服はずたぼろだわ顔は砂ぼこりまみれだわ絶叫するわ、いきなり絶体絶命のハラハラ感で幕開け。続いて、いかにも怪しい館、いかにも怪しい登場人物たち、異形の人影、世間から身を隠す高貴な麗人…。物語終盤では激しさを増す山火事がすぐそこにまで迫り、できる限りの手を尽くすもののついには皆が死を覚悟するに至る。こうしたハラハラ感は個人的には特に好きではないのだが、この極限状態がエラリーの心理・行動・もしかしたらキャラクターにも影響を及ぼしているように見て取れた点が新鮮だった。というのは、死を座して待つのみという状況でいつものように謎解き披露が繰り広げられるのだが、それは迫りくる死の恐怖から皆の意識をそらそうとするエラリーの深遠な意図によってなされているということも描かれている。思わせぶりな口調は相変わらずなのだが、これまでの、父を含めた警察関係者を出し抜いての事件解決の栄光に酔いしれた鼻持ちならない自惚れショータイムのそれとは一味違い、クイーン後期のライツヴィルシリーズ第一作『災厄の町』のエラリー像にちょっと通じるところがある。
その他キャラ小説観点では、父と息子のやりとりが(ほかの知り合いがいない分)濃厚であるとか、いろいろおびえる父がかわいいとか、父が亡き妻について語るシーンが貴重とか、そういった見どころもあった。
(既読国名シリーズランキングでは最下位かな・・・とは思ったものの、タイトルにもなっているシャム双生児に触れなくともこれだけ感想書けるくらいには楽しんだ。)
投稿元:
レビューを見る
山火事の脅威とクローズドサークル化した屋敷での殺人事件で、二重苦なクイーン父子。私は『アメリカ銃の謎』しか読んだことがないので、本作がシリーズ物としてどれほど異色かは判断できない。でも、山火事による疲労困憊で人間味が出て、探偵以外の表情も見せてくれたのが良かった。一般的とは言い難い状況下で、人はどれほど論理的に行動できるのだろう。じわじわと迫りくる焼死の危機に、最後まで目が離せなかった。
投稿元:
レビューを見る
クリスティの「そして誰もいなくなった」にも先行するという、最初期の〈クローズドサークル〉もの。エラリーらを閉じ込めるのは犯人の奸知ではなく天変地異で、窮地から脱しようとするエラリーらの苦闘にもかなりなページが割かれる。この設定なら、生還するに決まっているエラリー・クインものにしない方が、サスペンスが盛り上がっていいような気もする。ミステリとしてはダイイングメッセージもの。クイーン父子によって間違った指摘が何度も行われて、真相が二転三転する展開で、やっぱりダイイングメッセージって難しいなあ、というのが素直な感想。最後の犯人当てにはもうダイイングメッセージは関係なくなってるしね。とにかく楽しい。
投稿元:
レビューを見る
国名シリーズ初のダイイング・メッセージもの。意外といえば意外。犯人とエラリーのせめぎ合いが面白かった。