紙の本
この年になってSFing
2016/06/22 20:40
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投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
突拍子もないSFものというよりも、現代社会の病巣的な面やファンタジックな面を風刺したような短編集。今読んでも色あせた感じがしない。
紙の本
好きです
2018/09/16 15:27
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:リョウ - この投稿者のレビュー一覧を見る
傑作選と銘打っているだけあって、全ての話が面白いです。
フィリップ・K・ディック、最っ高に面白い!好き!
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「短編集なんですね」
「うん」
蛹が頷くと、葉月は待っていましたとばかりに目次を開いた。
「またこのパターンなの?」
「万有引力や質量保存の法則を、パターンとは言わないでしょう?」
「君が言うほど、物理法則は自明じゃないよ」
ふたりは蛹の家の居間で、ソファに座って向かい合っている。テーブルの上には、コーヒーが入ったマグカップが二つ。
「物理でもなんでもいいんですけど、とりあえず一つ目いきましょう」
そうして、短編のタイトルを読み上げる。手短に紹介してくれ、ということだ。
「『地図にない街』」
「ええと、過去が書き変わることで今が絶え間なく変わっていく感覚。こういう世界も面白いんじゃないかな。手にしているものが次の瞬間には失われるかもしれない、手にしていたことすら忘れて。いい世界だ」
それから、蛹は少し首を傾げる。
「今回は前からいくの?」
「ご不満でも?」
「いや、どちらかというと、俺が思うディックっぽさの強い作品は、後ろの方に集中している印象だったから」
「ああ、シビュラの目とか、タイトルからしてそれっぽいですもんね。じゃあ頑張って最後まで行きましょう」
蛹は少し疲れているらしく、面倒くさそうにコーヒーに手を延ばした。
「次、『妖精の王』? 童話?」
「うん。妖精の王さまになって妖精王国に行く話」
「可愛いですね。次。『この卑しい地上に』」
「神だろうと天使だろうと、この世界に取って変わるものではないんだよ。全世界の人間がみんな君になったら迷惑だろう?」
「ホラーですか?」
間違ってない、と蛹は言う。
そしてコーヒーを一口飲む。
「『欠陥ビーバー』」
「ビーバーがコインを集める話だ。よくわからないけど浮気をしたり文通したりもしてる。正直一番よくわからなかった」
「そうですか。じゃあ、『不法侵入者』」
「なんていうか、ストレートにSFっぽいSF。宇宙人との付き合い方について考えさせられる作品だった」
「多いですもんね、お知り合いの宇宙人...じゃあ次、『宇宙の死者』」
「『ユービック』の世界観だから、そっちが既読なら、するっと入っていけるかも」
「ああ、あれ面白かったですね。『父さんもどき』」
「身近な誰かが、そっくりな何かとすりかわるというのは、一般的には恐怖だってこと。もちろん、そこには日常に安心や安定が存在していたという前提があるけれど」
「『新世代』」
「昔はもっと色々な匂いがして、まあ、汚かったと言うね。何世代か先に、都市が無菌室のようになれば、俺たちのような人間は獣臭くて仕方ないと思われるようになるのかもしれない」
「うっわあ...」
「実験動物のような匂いがする生き物か、実験動物のように生きる生き物か、どっちがいいかというと、まあ、俺としては死にたい」
「それ、選んでませんよね。別にいいですけど」
ここで葉月は一旦顔を上げ、一息ついた。
「作品数、結構多いですね」
「うん。内容も濃い。一つ一つ丁寧に読むと、結構時間がかかると思う」
「じゃあ、気を取り直して」
「あ、今の、ここで諦めるっていう意味じゃなかったんだ……」
「次、『ナニー』」
「お手伝いロボットたちの飽くなき抗争を描いた作品、かなあ」
「いや、戦っちゃダメでしょ。家事しましょうよ」
「飽和した市場において需要を作り出すには、他社製品を壊してしまうのが早いんじゃない?」
「……正論ですね」
「『フォスター、おまえはもう死んでるぞ』」
「別に死んでなかった」
「そうですか」
「死ぬかもしれない、という恐怖に勝るステマはないっていう話」
「『人間以前』」
「子供は人間以前の存在だ。大人によって許された子供だけが生きられる。そうでなければ処分される。そういう世界だ。人間が人間以外の存在について決定権を握るという傲慢さの、なんていうか、亜種かもしれない」
「えっぐいですねー。んじゃ、最後。『シビュラの目』」
「今あるこの世界は、過去に生きて歴史を積み上げてきた人たちにとって、救いと成りうる世界だろうか、って」
「私たちは、過去のために何かなすべきだと?」
「いや。そんなものは一切顧みるべきではないと言われているような気もするね」
「シビュラって、結局何なんです?」
「観察者はね、審判者ではないんだよ」
そして蛹は、これでおしまい、と、残っていたコーヒーを飲み干して席を立った。
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図書館で申し込んで買ってもらって読んだ。
これは表紙のデザインが良い。ジャケ買いしたくなる。
最初の短編、おもしろかった。
短くて。星新一みたい。
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表題作が興味深いのだが、巻末収録短編のタイトルが「シビュラの目」である…
私はSFを完全に誤解していたなぁ、だから手を出さなかったんだろう、SFは全てにおいて「無機質なもの」と思い込んでいた。人間の在り方も科学的に進んでしまう事で精査され、人間味が薄れ、設定の奇抜さを楽しむもんだと思い込んでた。設定の奇抜さで競う、と言うのはBLにもある側面だ。
収録作の『ナニー』に差し掛かっているが、ほぼ球体のアンドロイド家政婦ロボットの話。旧式は新式と対決すると、性能の差、と言う絶対値を打ち破る事は出来ない。人間の様に「火事場のクソ力」なんてものはスペックになければ出すことが出来ない。旧式のロボットは修理するより買い換えた方が安いと言うのに何故人間は「修理してでも直してくれ」と思ってしまうのか。機械が機能として行った事でしかないのに、それにたいして感情を生み出してしまうのか。機械を通して人間が人間であるが故の人間味を表現できるのがSFと言うジャンルかもしれん。旧式は新式に勝てない、と言うスペック差を凌駕しトム・フィールズ家のナニー(ロボット)は新式と闘って勝ち、自身もボロボロになってしまった訳だが、トムは新型に買い換えた方が安いと散々言われても愛着のあるロボットを修理に出すがトム自身はなぜ自分の家のナニーが壊れかけているのかの本当の理由を知るのは後になってからだが、旧式なのに新式に勝てたのがナニー自身に(家を守らねば)を言う使命感があったのか、と思い、その部分で私の好きなアンドロイドものじゃねぇか、となったのだが、その辺はスルーの着地点だった(笑)俺ん家のナニーを傷つけたやつは許せない、これは俺の家のナニーなのだ、だからおいそれと新品と取り換えるなんて出来ない、と言う気持ちは「役に立ってくれる機械」に対する愛着なのだが、その愛着が高じるとこういう結末になる訳だ…人間って愚かで可愛い生き物だと言う事もSFには書いてあるなぁ。
ホラーありSFありダーク・ファンタジーあり、実にバラエティ豊かな短編集だ。『宇宙の死者』を読んでるんだが、死んでからも「半生期」が残っていて冷凍保存された遺体にプラグを繋いで精神活動が呼び出せるとか、設定が面白い。
「新世代」、無論SFであるが、子供の成長に悪影響を及ぼすのは幼少期の環境・親との関係であるとされ、生まれた直後から教育機関で子供は育てる人間には接触させず、アンドロイドが子供の成長に携わる。9歳になるまで絶対に親は子供と接触してはならない、会う時は許可申請、そして開拓者精神でたたき上げで生きて来た主人公が子供の初めて会った後、子供は親(つまり生身の人間)が実験動物と同じ匂いがする、と言う…どちらが幸せなんだろう…ディック自身、親がきちんと愛情を注ぎ親の責務として子供を育てない人間がいると言う現実に対し憤りを抱いているからこう言う作品を書いたんじゃなかろうかと思うが、人間が人間に触れないで人間として育つ筈がなかろう、と思うよ。
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人間以前目当てに買ったが、どの短編もまさにSFという話で面白かった。相変わらず世界観とそこに生きている人々のキャラに引き込まれていく。
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図書館で見かけて。「人間以前(まだ人間じゃない)」と「父さんもどき」が既読。「地図にない町」「この卑しい地上に」は好きですね。完成度が高いと思う。
「ナニー」とか「フォスター、… 」とか、広告、宣伝、行きすぎた資本主義を批判する作風のも多いですね。ファンタジックだったり社会風刺的だったり、どちらも面白い。中途半端だと失敗するけど、突き抜けると傑作になる。
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ペシミスティックで、哀れと悲哀が全編に漂うなあと思った。時代なのか、それがディックの特徴なのか。
翻訳の仕方があまり好みじゃなかったというのもあるかも。原書読んでないのに偉そう言えないけれども。
短編集で読みやすかった。
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近代社会の大量消費社会への警鐘を鳴らすような説教じみた話がいくつかと、ファンタジーのような話がいくつか。
「この卑しい地上に」が不気味で好きです。
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SF。ファンタジー。短編集。
SFはわりと好きなんですが、これは合わない。
よく分からない話ばかり。
映画の『トータル・リコール』も苦手だったし、この作者とは相性が良くないのかも。
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ファンタジー色が強いものから、古典的なディストピアの話まで、全部趣向が違っていて粒ぞろいの話が集まっている。
表題作の「人間以前」がやはり面白い。フェミ的に反発があると思うけど、批判的な側面に偏らないで、もしこんな世界があったら、という空想で生き生きと描いているのが良い。
あとは、「地図にない街」「新世代」あたりが、先の読めないSFもといファンタジーでよかった。
ただ、SFは短編じゃなく長編が好きだと思った。
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「地図にない街」★★★★★
「妖精の王」★★★
「この卑しい地上に」★★★
「欠陥ビーバー」★★★★
「不法侵入者」★★★
「宇宙の死者」★★
「父さんもどき」★★★
「新世代」★★★★
「ナニー」★★
「フォスター、お前はもう死んでるぞ」★★★
「人間以前」★★
「シビュラの目」★★★
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これまで読んだフィリップ・K・ディック作品とは少し毛色が違うものが多かったような印象を受けます。
「妖精の王」はファンタジー要素が強く、珍しくしっかりとハッピーエンド!
「欠陥ビーバー」はビーバーが主人公の作品だし、「父さんもどき」は子供たちが主人公(私の頭の中ではスタンドバイミー的な雰囲気でした。いや、内容は全く違いますが)です。
ほかはいつものPKD作品ぽい、不思議な終わり方やディストピア的作品です。
個人的には「宇宙の死者」が面白かった。
「フォスター、お前はもう死んでいるぞ」は命を金で買う的な時代。主人公はいささか過敏というか過激な気もするが、周りの状況と自分の置かれた環境を考えるとああいう気持ちになってしまうのも分かる。
「人間以前」は誰が人間であるということを決めるのか?というひとつの問いが示されている。内容的に中絶問題の関係者から抗議もあったようですが…。
ところであの終わりはどういうことなんでしょうかね。
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表題作と『地図にない町』を読んだ。
・表題作:12歳未満の子供は人間とみなされず両親の希望があれば中絶トラックによって回収、処分されてしまう。かつての中絶の概念が拡張され、人間とみなされるかどうかは、産まれてくる前かどうかではなく、代数(高等数学)を扱える年齢以降の世界となっていた。
表題作は後ろの解説を読むと中絶批判の作品として取られることが多いらしいが、全然そんな風には受け取らなかった。人間として人権を与えられる根拠、基準は何かといった普遍的な問いが題材だったと思う。私の考えは本書で扱われた内容とは違うがそれはまた別の機会に。
・地図にない町:ある日駅員に定期を買いに来た男が降車駅として指定した駅は存在しない駅だった。駅員がそれを説明しても、男はそんなはずは無いと強弁するが、地図を見せられ駅が存在しないことが示された瞬間、男は忽然と姿を消してしまう。
最近映画『メッセージ』を観たばかりだったので、似た主題を感じた。記載したような導入部がキャッチーで面白かった。
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【由来】
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【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
・
【目次】