紙の本
ヴェトナムの名将ザップ将軍による、自らの戦略を振り返り、なぜ、フランスに勝利できたのかを綴った貴重な名著です!
2020/07/27 09:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、1944年に武装宣伝解放軍を作り、ヴェトナム人民軍の基礎を創設し、8月革命後のインドシナ戦争において同軍最高司令官としてディエン・ビエン・フー作戦など数々の戦いを指揮したヴォー・グエン・ザップ氏の古典的名著です。同書は、ディエン・ビエン・フーの戦いで勝利を収め、祖国を独立へと導いた名将ザップ将軍が、なぜ大国フランスに勝てたのかということをテーマに、自らその戦略を振り返った書です。同書の内容構成は、「第1章 人民の戦争・人民の軍隊」、「第2章 党は武装蜂起の準備と1945年8月の総蜂起を成功裏に指導した」、「第3章 党はフランス帝国主義者とアメリカ帝国主義者との長期抵抗戦争を成功へと導く」、「第4章 党は人民の革命軍の建設を成功裏に指導した」、「第5章 ディエン・ビエン・フー」、「第6章 勝利への道」となっています。
投稿元:
レビューを見る
小国ベトナムが、大国フランスを敗北させて勝利するまでの歴史を、作戦責任者が語る作品。
翻訳が古くさいのか?私の能力不足?青臭い学生運動の様な過剰・過激な文章と感じてしまい、残念ながら消化不良となってしまった。
唯一理解できたのは、天才的な作戦発想・実行力ではなく、組織作りや基礎作りを相当な準備した結果、大国であるフランスを破るという目標を達成できたのだと理解できた。
今後、この偉大な国を研究する機会があるとしたならば、イザというときに徹底抗戦し、自らより大国の脅威を、克服する国民性を学びたいと思う。
投稿元:
レビューを見る
ヴェトナムは、その軍隊の精強さで知られる。まだ仏領からの独立の戦い、インドシナ戦争(1946-1954)ではフランス軍に勝利して独立を勝ち取り、東南アジアの共産化ドミノを恐れたアメリカと戦ったヴェトナム戦争(1955-1975)にも勝ち、それに続き、カンボジア・ヴェトナム戦争(1975-1977)、中国との中越戦争(1979)にも勝利している。
本書の著者、ヴォー・グエン・ザップ(1911-2013 : Vo Nguyen Giap / 武元甲)将軍は、ヴェトナム軍の草創期からヴェトナム戦争に至るまでヴェトナム軍を総司令官として率いてきた名将で、敵からは”赤いナポレオン”と恐れられつつも、国民からは102歳で世を去るまで、救国の英雄として広く敬愛を集めた。
ザップ将軍は、元々はハノイの高校(リセ)でフランス史を教えていた教師で、ホー・チ・ミンと出会って側近となってから軍事方面を担当することになったため、専門的な軍事教育は受けていない。彼は「薮の軍事学校に通った」いわば実地と独学でその知略を得て、後年は優れた軍事戦略家としての評価を得ることとなった。
無論、全く軍事方面に興味がなかったわけではなく、『彼は孫子を尊敬し、ナポレオン・ボナパルトのリーダーシップについて研究し、トーマス・エドワード・ロレンスの「知恵の七柱」に感銘を受けた。これは後年、彼の指揮官としての能力を発揮させる大きなきっかけとなった。(Wikipedia:ヴォー・グエン・ザップより引用)』とある。
さて、この本『人民の戦争・人民の軍隊』は、前半(1~4章)ではヴェトナム共産党の(日本敗戦後の独立闘争からインドシナ戦争~ヴェトナム戦争までの)戦争指導の経緯や意図そして意義を、共産党の無謬(むびゅう:理論や判断に誤りが無い)を前提とした麗々しい筆致で、そして後半(5,6章)ではインドシナ戦争でフランスの敗北を決定的にしたディエンビエンフーの戦いについて各作戦レベルまで細かく記述されている。
---
敵の弱点は、その戦争の不正義な性格にあった。それによって敵は隊伍内の分裂を起こしたり、人民の指示や世界の世論の参道を得ることができなかったりしたのである。(p.81)
---
何故、冒頭挙げたように、ヴェトナムの軍は精強なのか?それは、上の引用にある敵側に内在する問題、そしてその裏返しでもある「ヴェトナム軍は、”人民の軍隊”であり、その戦いは”人民の戦争”」だったからではないだろうか?
表面上の兵力や装備、兵站維持能力はヴェトナムに遥かに優る国に対して、ヴェトナム軍は勝利してきている。しかも、第二次世界大戦後のいわゆる”現代の戦争”においては、最新技術を取り込んだ兵器がふんだんに投入される、彼我(仏米等とヴェトナムと)の兵器の性能差が格段に大きい戦争において、である。
(本筋を外れるが)これは、仏米ができるだけ兵士の死傷を減らすことが世論からも強く要請される(あまりに戦死者が多いと、反戦世論が高まり戦争継続が難しくなる)のに対し、ヴェトナムにとっては”人民の戦争”、即ち自国や自宅、家族を守る為の戦争であり、それを拒否するという選択肢が無い、という、いわば”士気”の差が大きいと言えるのではないだろう���?このことを鑑みるに、今後、昔のような領土侵略戦争というのは”割りに合わない”戦争であり、かつ、少子化が進む先進国にとっては、戦死者を厭わない敵との戦争は忌むべきもので、かつ政治家が、(湧き上がるであろう)反戦世論に抗しきれないのではないか?と思う。
閑話休題
ザップ将軍の優れた戦略眼が発揮された事例は、やはりディエンビエンフーの戦いだ。
それは、それまで重視していた「速戦速勝」の、いわばゲリラ戦から、重砲陣地を厚く構築しての包囲戦で敵を殲滅する「漸進的攻撃」に戦術転換したことであろう。
フランスが構築したディエンビエンフー要塞の周囲の高地に105mm砲20門、75mm砲18門、12.7mm対空機銃100丁、迫撃砲多数とその膨大な数の銃砲弾を人力で担ぎ上げ、フランス軍が想定していない規模の火力での包囲網を形成し、56日間にわたる包囲戦の末、1954年5月7日に要塞は陥落させた。
この戦いでの戦死者は、フランス軍2,200人に対して、ヴェトナム軍は8,000人だった。
ザップ将軍の、この戦術転換というのは、口でいうほど容易くない。日本軍の事例で言えば、栗林中将による硫黄島守備の戦術転換(水際防御から全縦深防御へ)がある。
”従来やってきたやり方”に馴染んだ組織にとっての戦術転換は、組織全体が持つであろう正常性バイアスによって指揮の徹底が難しくなる。
ここでヴェトナムのような一党独裁で、無謬の共産党からの指導には絶対服従を躾けられている組織は、このような戦術転換にも柔軟に対応が出来る、というパラドキシカルな状況が現出する。
このメカニズムは、コロナ対応の中国でも現出したことは記憶に新しい。
本書は、このようにいろんな視点で読み込むことが出来る本であり、何より、普段はあまり馴染みのないヴェトナムという国の、そう遠くない過去の出来事について思いを致す良い機会になると思うのだ。
投稿元:
レビューを見る
小集団を率いて大事を成し遂げようとしている人。巨大な難敵に立ち向かう人。勝利や成功の要素を学びたい人に読んで欲しい一冊。
ヴェトナム軍には、ゲリラ戦を行っていた初期の段階から、
人民のためというビジョン
軍事的な勝利というミッション
国家の解放というゴール
が明確であり、それを貫いた。
ビジョン、ミッション、ゴールは現代でビジネス的に組織に必要とされる要素として挙げられる要素だが、これによく当てはまっていると感じた。
戦略的には大きな計画を最初から固めるというよりは、漸進的に勝利を積み重ねていく進め方であり、これは現代でプロジェクトマネジメントの方法論で言われるところのアジャイル的な手法と近いものがある。
ゲリラ戦を貫く過程では、機が熟するまで粘り強く小さな勝利を積み重ね、準備と教育を進め、決起のタイミングをよく見定めていた。
小集団単位でやるべきことや価値の高い活動を見つけ行動する性質もあり、これも現代でのアジャイル経営、スクラム経営といった文脈で語られる小集団の価値創出と近いと思われる。
ゲリラ戦から正規軍に発展する過程では、規律や制度の構築に苦労もあったように読み取れるが、そこを乗り越えることで、ビジョンの一貫性を維持しながら、また軍事的には機動性も残したまま、フランス軍、アメリカ軍と戦える軍隊に発展した。