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タイトルと表紙に惹かれて借りてきたら、著者の状況にびっくり。
表紙だけ見たらおしゃれな英国紳士が、日本滞在中の興味深い出来事を、ユーモアとウィットと毒舌で切り取ったエッセイだと思うじゃないですか。
まあ、ほぼそうなのですが、でもそれだけではない。
著者は2011年にALSを発症し、2012年に日本人と結婚し、2013年の1月に二度と帰る事が叶わないことを承知で来日し、その年の12月に亡くなりました。
ALSとは、進行性の病気で、徐々に筋肉が衰えついには呼吸もできなくなるという難病。
だけど全然悲壮感はない。
本人は若いうちに仕事を辞め、悠々自適の年金生活。(これがイギリス人の理想の生活らしい。羨ましい)
奥さんの仕事の都合で日本に来ることになった時は、既に車いす生活だったので、医療や福祉に係わる手続きから日本生活が始まったと言っていい。
小石川植物園のそばに住み、東京の下町の生活を楽しみ、息子の結婚式のため軽井沢まで出かけていき、奥さんが所用で渡英した期間は入院生活を楽しむ。
ジャパンタイムスを愛読し、世界情勢、金融関係、日本の政治や憲法問題、東日本大震災や原発問題についてなど、あらゆることに興味津々。
元々は日記として書いたものを、少しまとめては知人にメールで送っていた。
日本と欧米の違いだったり、日本食についてだったり、今現在興味のあるあれこれを。
「ブログにしたら?」と言われたこともあったけれど、本人としてはメールでやりとりするのが良い、とこのスタイルで通す。
ブログだと通り一遍の短いコメントを貰って終わりなので、それでは面白くない、と。
いかにもコミュニケーションを大切にするイギリス紳士。
ほんの数行の短い文章の中に、「うーん」とうならされるものもたくさんありましたが、それを拾い上げていってもきりがないので、そこは割愛するとして。
私の知人でもALSに罹った人が2人います。
一人は直接一緒に仕事をしたことはないのですが、3歳年上の頼れる先輩。
最期まで明るくて、お見舞いに行った人の方が励まされたくらい。
もう一人は一緒に仕事をしたこともありますし、奥さんは保育園時代の次男の担任の先生でした。
「なんで俺が」と嘆く彼を、奥さんが明るく支えていたと聞いています。
無理して明るさを装うことはできませんが、多分どこかに明るさがないと病気と闘っていけないのでは、と自分の経験も交えて思いました。
著者は、たくさんの友人に囲まれて、奥さんの腕の中で息を引き取ったそうです。