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あらすじ的なことは省略するとして。
凄まじく超絶技巧が凝らされた実験小説で、大傑作だと思う。
視点人物が移動するのは「春の庭」でも素敵だと感じだが、本作はその前哨戦か。
とはいえ「春の庭」の唐突さではなく、「伝聞の中に、視点人物にしかわからない内面や感情やが入り込んできて」、あれ、あれれ、と徐々にわかる仕組み。
ただの実験ではなく、わたし→中井→葛井夏、と、「観念だが情念だかが移行する」という話の筋ともリンクしているので、正しい実験でもある。
次は自動販売機の小道具に着目して再読すること。
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平尾砂羽がめんどくさい。人に期待してない感じでめちゃめちゃしてる。口を開けば余計なことを言う。社会に適応してるようで、微妙。なかちゃんと連絡してるのも自分になかちゃんが興味ないからのように見える。夫と別れたこともそれほどダメージうけているようには見えない。でも、それなりに傷をうけていて、戦争や紛争のドキュメンタリーを視ながらなぜ自分がここにいるのか、それをぐにぐに考えている。あの人たちはあそこにいるのに、わたしはここにいて、生きている。死んだ人と生きている人との違いとか。めちゃめちゃめんどくさいけど、すごく、共感できるところもある。子供の頃、核戦争が怖かったとか。葛井夏は若くて、なかちゃんに影響されて変な女になりかけてるけど、ずーっと大阪にいる。時々旅行には行く。でも基本的にきちんと自分の居場所を持っている。平尾砂羽との違いは年齢、それから離婚家庭の子供。平尾砂羽は自分が離婚した。間をとりもつのはなかちゃんとクズイ。クズイはふわふわと主人公たちの周りを方則を無視して漂う衛生みたいなものだ。明日には通りすぎていく。ひとは、結局ひとりだと強く思った。
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自分が今存在していて、過去には存在していなかったこと。自分以外の人になれないこと。時間は遡れないこと。当たり前に聞こえるが、それらを意識することで、日常は少し違って見えると思う。
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単行本で読んでいたので、通して読む前に、適当なページを開いてその部分を読んでみる、ということをやった。どこを読んでもハッとする言葉が書かれていた。
会いたい人に会いに行くことができるなら、行けばいい。知りたいなら、聞けばいい。私は毎日、ここで生きてる
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柴崎さんの小説に時々出てくる、見ず知らずの人と話をする人が、ここにも出てくる。
私は、そうしたいとよく思っていて、できるときとできないときがある。
そう、よく分からないことがこの世にはたくさんある。
そう、話したいなら話せばいい。
そう、世の中つながりすぎている。
そう、終わりは何かの始まりだ。
そう、私に近い人は必ずいて、その誰もが私ではない。
共感と違和感が交差する。
私はその時、どうしていた?
考えること。それはおそらく、すべきこと。
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これ、あらすじはとっつきにくかったけど、言ってることはすごくよくわかってよかった。
なかちゃんにまた会えてうれしかった。
最初のほうで、神様についての女の人の話で、神様には何かを決めるときはいつも相談するっていうの。神様は答えないのに相談するっていう話に、それ日本では「道徳」っていう感じかな? てきいたら、日本でいうと「よりどころ」だって教えてもらった、っていう話をしていて、この本の中でいちばん納得した。
でもちょっと長い。「ここで、ここで」に気がまわらなかった。でもたしかに、「わたしがいなかった街で」といっしょに読みたい話だった。
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柴崎さんらしい雰囲気の文章だった。(どことなく『フルタイムライフ』を彷彿とさせる)
物語の行き先は私にはちょっと難解だったなぁ。
主題を見つけ損なってしまった><
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主人公を途中で一人加えたことにより、小説の構成に厚みを持たせ、主人公の存在価値を高めている。
実験的といえば実験的なのだが、不思議な読書体験ができた。
また、今年は戦後70年という節目の年にあたり、戦争体験のない世代にはピッタリと符号できる小説なのではないかと思った。
そして、辻原登氏の解説も秀逸でした。
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これは純文学。でもとても読みやすいし、登場人物達が魅力的で感情移入しやすいと思う。
時間の経過を強く意識しながら、人と人との間に起こる争いが、女性らしい細やかな視点で表現されていると思う。大きな戦争を主人公は意識しているけれど、その底にある、争いのもとになっている自身の感情を意識しているようないないような、何とも味わいのある表現が秀逸だと思う。
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現実の自分と、自分が存在していなかった過去の出来事との間に、何とも言えない違和感を感じているような女性の日常を淡々と描いた作品。なのかなぁ。
愛嬌ある脇役たちの魅力と、1人になった時の主人公の屈折度合いにギャップを感じながらも、柴崎さんらしい繊細な描写に惹かれます。
解説に書いてあるような複雑な分析は自分には無縁でした。
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苦戦しました。
ストーリーの起伏というより、一つ一つの場面の中での主人公の心の動きや、それを記す文体を楽しむ本。いわゆる純文学です。
しかし、しかし、どうも戦争ドキュメントにはまり込む主人公の性状に付いて行けず。
文章は素晴らしい。
ただ好きかと言われれば、それほどでもなく。ついつい目が文字の上を滑るような感じがしました。とは言うものの、何か所も思わず引き込まれる表現があり、それだけでも読んだ価値はあると感じました。
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どうも今の私には合わなかったようです。文字がなかなか頭に入ってこない。でも時々ハッとしたりグサッときたりする表現があったので、何年か寝かせて再チャレンジしたい。
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二度と会わない人と毎日出会っている
1年前に離婚した砂羽は、物流会社で契約社員として働きながら、家では戦争のドキュメンタリーを見たり、戦中戦後に残された日記を読んだりしている。何のために、何を求めて見ているのかもわからないまま、毎夜見続けていた。
大きな事件も出来事も一切なく進む展開だが、主人公の砂羽のことがわかってくるにつれて、どことなく自分と重ねていってしまう。今、ココで生きるということを、過ぎ去る日々の中で、一瞬考えさせられた一冊。
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人と人とが出会えない瞬間のやるせなさが大変よかった。人生のとても悲しい部分をよく切り取れていると思う。淡々とそれを受容する主人公がまたいい。
コミュニケーションの苦手な主人公は同じようにして正社員という地位ともすれ違い、バーでは同僚の女の子とすれちがい、別の登場人物に物語の語り手を任せて消えてゆく。イヤミスに似たしんどさだけど、エキセントリックでないほどよい苦味。どろどろの水たまりで転んで尻餅をついてしまい、そのまま曇った空を見上げてぼーっとしているようなここちよさ。
もう一つ収録された短編もよかった。端の上にたって橋が流されていく感覚にとらわれてしまうのってすごくこわいよね。
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すごく良い本でした。
日常のありふれた経験をこんなにも感受性豊かに捉えることができるなんて、本当に素敵な感性。
ある経験をするのがなぜ私でなくて、この人なのか。なぜ私はこの時代に生まれて、この環境で、この人間関係の中で、この生活をしてるのか。きっとその不可解さやあるはずのない可能性に想いを馳せる「うわの空」さが、私の根幹にあるのだなと思った。他者の人生の奥ゆきを想像する根源はそこなのだなと。それこそが他者への思いやりや想像力につながってゆく。