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日本の石油は大丈夫なのか? 須藤繁著 価格急落の背景と行く末探る
2015/1/4付日本経済新聞 朝刊
原油価格が急落し、様々な分野に影響が広がっている。その背景を理解する手助けになる一冊だ。著者は長年、石油市場を見続けてきた石油輸出国機構(OPEC)ウオッチャー。転換点にある石油の行く末を、過去の変化と比較しながら論じる。
石油市場では主要なプレーヤーが10年ごとに代わった。国際石油資本(メジャー)からOPECに主導権が移り、2000年代に入ると投機資金が市場を動かす金融商品化の道をたどった。後世の歴史家は10年代を「シェールの時代」と振り返るかもしれないと、著者はいう。
原油急落の背景には北米で生産量が急増するシェールオイルの存在がある。シェール革命は原油生産がいずれ限界を迎えるとする「ピークオイル論」を少なくとも50年、視野から消したと見る。
中東から日本への原油輸送路の安全を確保するために国際協力の重要性が増すと指摘する。中国の海洋進出に伴い、東南アジア諸国との紛争が表面化している。紛争事例を紹介しながら、中国の過剰な自信が周辺諸国の連携をもたらし、自らの優位を脅かしかねない土壌を醸成しているとの分析は興味深い。
タンカーに乗り込み、ペルシャ湾やマラッカ海峡を自分の目で見た著者の主張は説得力がある。(同友館・1600円)