紙の本
老姉妹のおもてなし
2017/05/05 15:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
ゴミ屋敷に住まう高齢姉妹の話に魅かれて。『金粉』なぜこのタイトルなのか。もちろんすぐには分からない。姉妹はふたり仲良く暮らしている。気心分かり合えるのはこの二人だけだから。家を出れば敵ばかり。元は薔薇屋敷、今はごみ屋敷。嫌われる理由は正当にある。でも姉妹にも理由はある。誰も分かってくれないけれど。生活を守るため他者は寄せ付けない。それでも来訪者あればおもてなしの心は忘れない。それが「金粉」。余韻がたまらない一編。東京タワーとスカイツリーの往復書簡、東京タワーが感じる哀愁。これはまさに残された昭和の悲哀。
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かわいらしさとノスタルジーの間に、そのどっちも含まないとことんまでの現実が挟まっている印象。
タイトルと物語の関連性は分かるような分からないような・・・。スカイツリーと東京タワーはそりゃ見晴らし良いだろうけれど、その間で右往左往する人間たちは見晴らしの良い世界を生きているのだろうか?
少なくともこの8つの物語に登場するのは近視眼的な人間ばかりに思える。それが物語にリアリティを生んでいるともいえるけれど。
自分を含め、だいたいの人は半径何メートルとかの範囲だけを見て生きているのではなかろうかしらん。それが悪いとも思わないし。
そうするとこの「眺望」って何なんだろうなぁ。
裏表紙の解説にある「世界はもう、自分の知っていた世界ではなくなりはじめているのかもしれない。」というのはなるほどこの物語をなんとなく言い表していて、その点で考えると「世界を先入観なく眺望しよう」という試みの結晶なのかな、と思った。
東京タワーが野球をしたいというのをついつい想像してしまって、そこがいちばんおもしろかった。
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パスティーシュ系ではなく人間観察系。
若きスカイツリーと先達東京タワーとの往復書簡のあいだにはさまった8つの短編は、老若男女、どこかに孤独を抱えた物語。遠景にタワーが見えているという程度で、登場人物たちがとくにタワーを見上げたり登ったりすることはなく、むしろそのゆとりもないほどあぶなっかしいところを生きている。
そんな人たちをはるか上から(一見)しずかに見下ろして、何が起ころうと起こらなかろうと、ただ立っているタワーたちの存在感。そして、タワーにはタワーなりの孤独。
藤野可織の解説まで読むと、そのへんの関係性もなるほどと思えてくる。
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中島京子さん”眺望絶佳"読了。スカイツリーと東京タワーの往復書簡に挟まれた、東京を舞台とした八つの物語。相変わらず素晴らしい‥やるべきことをやる‥大丈夫‥
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東京タワーとスカイツリーの往復書簡。
私が東京にやって来たとき、
スカイツリーは建築中で
職場の新宿の高層ビルから
日々、伸びるさまを見ていたなあ。
わりと長く、東京にいるな、私。
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東京の空の下に繰り広げられる、8編のストーリー。
一見何のへんてつもないように思える生活の裏側に、不思議やらトゲやら毒が埋まっている。どの話も、ひとすじ縄ではいかず、読んでいるうちにいつの間にか別の場所に連れていかれたような気分になる。
それをもったいぶらず、さらりと描いているところが魅力的。
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前後にスカイツリーと東京タワーの往復書簡が置かれ、その間に東京に暮らす人々を描いた8つの短編が置かれているという構成です。中の短編は雑誌に書かれたもので、それに前後の往復書簡を足して一冊の本に仕上げられたもののようです。
正直言って、ちょっと戸惑いながら読んでいました。作品もバラバラ感がありますし、いつもの中島さんの、なんとも言えないユーモア感が感じられなくって、どこかまとまりの無い短編集だなと思っていました。
しかし、最後の東京タワーからスカイツリーへの復信で物語全部がワッと立ち上がるような気がしました。やっぱりその辺りは上手ですね。
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東京の片隅でおきたエピソード8編をあつめたもの。冒頭スカイツリーの【往信】、巻末に東京タワーの【復信】が入っているけれど、スカイツリーは書き下ろし。
東京タワーは東京に建ち、東京を眺めているけれど、「私」にできるのは「立つ」ことだけ。でも、それがなにより大事だと「彼女」は言う。この擬人化されたツリーたちのそれぞれの感覚が面白い。やはりスカイツリーはまだ若いから、なんて思ってしまう。
物語は東京に起きた現実や、ファンタジー、ありそうなこと、なさそうなこと、ハッピーエンドもあるし、不安も。どれかひとつは、心に触れる話が見つかると思います。
どの話も短いのに、描写の巧みさに感心しながら、物語の世界がどんどん広がっていく気持ちがしました。
どの話もよかったけど、私は「よろず化けます」や、「亀のギデアと土偶のふとっちょくん」「おさななじみ」好きでした。
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スカイツリーが「小説」の世界に登場している!単行本が刊行された、2012年前後の東京を実感する短編集。
それぞれの人物を描く小説のテーマとしては統一感がないようにも思える。けれども、ブログ形式だったり誰かに話しかける風で話を展開していったり、書簡形式だったりと、表現形式が面白い。
そしてなんといっても時代性!ちらっと出てくる、スカイツリーに新しくなった羽田空港、地震の津波の話、ゴミ屋敷やLGBTなど、確かに最近話題になってるよ、知ってる、目に浮かぶし、ほんとに都心の片隅にひっそりと開かれているお客のほとんど来ないギャラリーってあるある、などとあまりに身近な東京の姿に嬉しくなってしまう。
冒頭と末尾に、スカイツリーと東京タワーがででーんと安定感を出して締めているのも良い。
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ゴミ屋敷に住まう高齢姉妹の話に魅かれて。『金粉』なぜこのタイトルなのか。もちろんすぐには分からない。姉妹はふたり仲良く暮らしている。気心分かり合えるのはこの二人だけだから。家を出れば敵ばかり。元は薔薇屋敷、今はごみ屋敷。嫌われる理由は正当にある。でも姉妹にも理由はある。誰も分かってくれないけれど。生活を守るため他者は寄せ付けない。それでも来訪者あればおもてなしの心は忘れない。それが「金粉」。余韻がたまらない一編。東京タワーとスカイツリーの往復書簡、東京タワーが感じる哀愁。これはまさに残された昭和の悲哀。
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なんとも風変わりなスカイツリーと東京タワーとの往復書簡。その間に挟まれた8つの短編は、それぞれにまったく別の様相を呈し、相互に繋がりがあるわけでもなし。
ダイエット中の顧客とその相談に乗る社員。ある出版社の倉庫番だった男との恋を思い返す女社長。なんでも屋の兄弟が関わった老女。地震にあった少年とその両親。ふと足を踏み入れたギャラリーで妙な体験をする女子大生。薔薇屋敷と呼ばれるゴミ屋敷に暮らす老姉妹。初恋の相手と再会して結婚を果たした人。キッズ対象の英会話教室を始めた女性。
すべてを繋ぐのはただ東京の空。スカイツリーと東京タワーが見つめる空の下、人はあたふたしながら生きています。
同年代の小川洋子と似た雰囲気を持っていますが、静謐さや円熟味を感じる点で、私は小川洋子のほうが好きかも。だけど、不思議な余韻は残ります。
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ひとつひとつ、後味が悪かったりよかったり、ふしぎだったりいたたまれなかったり、それぞれ読後感の異なる短編、
それぞれも面白いのだけれど、
往信と復信がとても良い具合に包み込んでくれている
復信が何よりもぐっと掴まれるし、
それを読んだ後にもう一度読む往信もいい
毎日毎日みているスカイツリーが
さらに愛おしくなったよ
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淡々と、さまざまな人々の暮らしを断片的に覗き見た感じ。感情移入することも特になく、けど、それなりに想うことは抱きながら。
ただただ傍観した気分。まさに東京にあるあのタワーのお二人が、目下の人々や、そこでの出来事をただただ見ていたように。
何ができるわけでもなくただそこにいて、
じっと見ていた。