紙の本
先を見通せない不安感や圧迫感が見事に表現された作品です!
2020/06/18 13:01
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『6000度の愛』(三島由紀夫賞)、『ピカルディーの三度』(野間文芸新人賞)、そして同書『冥土めぐり』(芥川賞)といった傑作で純文学新人賞三冠作家となった鹿島田真希氏の作品です。同書には、表題作のほかに、根津に暮らす四姉妹とよそ者との遭遇を描いた「99の接吻」が収録されています。どちらもあえて狭い範囲に舞台を限定し、一種の閉塞感をもって書かれているようです。先を見通せない不安感や圧迫感を、見事に表現するのが鹿島田文学の真骨頂です。ぜひ、一度、読んでみてください。
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表題作より、99の接吻のほうが好きです。
4姉妹の、男を巡って変化していく物語。暗くて甘美的なお話でした。
田村君は出てくる必要あったのかなーとひっそり思いましたが……
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子供の頃、家族で行った海に臨むホテル。そこは母親にとって、一族の栄華を象徴する特別な場所だった。今も過去を忘れようとしない残酷な母と弟から逃れ、太一と結婚した奈津子は、久々に思い出の地を訪ねてみる…。車椅子の夫とめぐる“失われた時”への旅を通して、家族の歴史を生き直す奈津子を描く、感動の芥川賞受賞作。
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2つの作品が収録されている。
「冥土めぐり」
過去の裕福な暮らしを引きずる母と弟。
そんな二人の期待を裏切り、平凡な太一と結婚した奈津子。
そんな太一は病のため足が不自由になる。
ある日、奈津子は太一を連れて昔家族と過ごした思い出のホテルへと旅に出かける。
「99の接吻」
四姉妹の末っ子の菜菜子は、三人の姉を愛している。
一人の余所者の男性に恋をして嫉妬を募らせる三人の姉。
そんな姉たちを冷静に、時にはその男性に嫉妬しながら見つめる菜菜子。
芥川賞受賞作品ということだが、私にはちょっと難しかったかも。
2017.1.29
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第147回 芥川賞受賞作
読み終えて、どっと疲れました。
結婚後、脳の障害で不自由な生活をせざるを得なくなった夫との暮らしに幸せを見つけられない奈津子は、夫を連れ覚悟の旅へ。。。
向かった先は、子供の頃家族で止まったホテル。
今では五千円で泊まれるホテルだが、子供の頃のそこは家族の栄華を象徴する場所だった。
今では全ての財産を失っているのにもかかわらず、いつかまた元の暮らしが待っていると謙虚さの欠片もない母と、プライドの塊でうまく行かないのは誰かのせいと疑わない無職の弟。
その二人の存在こそ、奈津子を死に向かわせた理由だった。
奈津子の母と弟への嫌悪感は、ただただ陰鬱で気持ち悪かった。
感情の無い奈津子と、無邪気な夫との旅。
呪縛から逃れるための覚悟の旅から、奈津子の気持ちを少し動かしたものは。。。
いやぁ、それにしてもどう読み解けばいいのか、私にはよくわかりません。
なんとも言えない後味の悪さが残りました。。。
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3年前の芥川賞受賞作。主人公の奈津子さんの現在(いま)が、救われたものなのかどうか?最期までよく分からなくてモヤモヤした。作家ご本人の旦那さんがご病気で、ご自身がアル中にまで陥った経験をお持ちだとか。壮絶。わたしも、旦那に優しくしよう。しなきゃ。と思わせてくれた一冊。
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痛い。
痛いけど心地よい。淀んでる。
個々の細かい描写が好みだった。
シーン展開はいつもどおり(?)神話的。とても良い。
「今は、意味の分からない絵でも見ることができた。奈津子は、ただ、絵を見ていた。」
『99の接吻』も美しい。
「蛍光灯のようなもの」・・・
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「冥土めぐり」「99の接吻」の2編
不幸な境遇にあるが、半ば諦め、どこか他人事みたいに自分の人生を送っている女性が主人公という感じを受けた。
「私をリーダーに導いた250冊」に乗っていたので、読んでみるが何故?推薦理由が気になる。
話が分からないわけでも無く、文章に味も感じるが、どうも物語に入っていけない。少なくとも読んでいて楽しい気分にはなれなかった。
#私をリーダーに導いた250冊
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★2.5、おまけなし。
2作品ともキャラ設定の際どさとか結構なブラッシュボールを投げている。そうすると確かなストーリーというか強固な骨が無いと単なるあざとさで終わってしまうと思うけれど、多少物足りない感じ。芥川賞受賞作はもう少し性悪の要素が強くって良い、毒の使い方が甘いかな。もう一方の作品は完全にデットボール、これ以上のコメントは要りませんな。
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芥川賞受賞作で興味のある作品だった。
しかし、少し感情表現が激しく、オチがないものに感じた。ストーリーの終わりが感じられない。
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表題作と、「99の接吻」を収録。大人になった娘に寄生し依存する母弟と、脳機能障害による障害を負った夫。奈津子がそれに囚われている。ある日、思い出の保養所に夫と旅行に出る。そこで自殺してしまうのではという予感をもち恐る恐る読み進めたが、最後は薄明かりの見える結末でよかった。
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「冥土めぐり」「99の接吻」の二編。どちらも中性的な登場人物と癖のある登場人物との対比が面白い。冥土めぐりでは、純粋で鈍感でかつ前向きな太一。99の接吻では、中性な観察者で感性ですべてを理解する菜菜子。他の登場人物がコントラスト豊かに浮かび上がる。面白いと思いました。
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第147回芥川賞受賞作。表題作の他、『99の接吻』を収録。
受賞当時は特に注目していなかったのだが、文庫化されて読んでみると、予想以上にストレートな内容だった。『ゼロの王国』もそうだったが、鹿島田真希は時々、ド直球を投げてくるなぁ。
『99の接吻』は女ばかりの家族の不思議な愛情を描いていて、どちらかというとこちらの方が好みだった。但し愛情としてはかなり行き過ぎてで、執着とか執念に近いものがあり、読者を選ぶかもしれない。重ねて個人的な好みを言うと、もう少しマンディアルグ的な硬質のエロティシズムを感じさせる作品の方がいいなぁ、とは思う。
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表題作は簡単に言えば、アダルトチルドレンの治癒の話。主人公の感覚は分かるものが多かった。個人的に凄くハッとさせられたのは芸術作品を鑑賞してるときの感覚で、これは自分もまったく同じなので驚いた。同時に、客観的に見るとこれは芸術を味わう感性と真逆の思考回路だなと気づいた。自分の芸術を見る目がないことがすとんと納得できた瞬間でした。
最後のシーンは感動した。蝕んでいたものが根本からなくなると、日常が変わるんだなあと。旅行自体は単なるお祓いみたいなものだけど、人間にはこういうプロセスが必要なんだよなと思う。
さて、めでたく歪んだ家庭という足枷から心理的に脱出できたわけだけど、その実際のきっかけが難病と頼りない夫というのが面白い。不幸を排斥したのは別の不幸だったという。ある意味奇跡なんだけどまったく奇跡感がなくて、読後もなんだがそわそわする。不思議な感覚だ。
不思議な感覚がするのは『99の接吻』も同じで、読んでいて終始どこか不安定な感覚を覚える。一見安定してるんだけど、いびつな重ね方をした積み木の上にじっとしているような感じ。そして独特なのが、結末の後も不安定感が残ることだと思う。始めの不安定点から確かに良い方に向かうんだけど、そこはまた別の不安定点であるようなしこりが残る。うまく言えないけれど、この作者にはいままで読んだものと違う異質なものを感じたので他の作品も読んでみたい。
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裕福だった過去に執着する傲慢な母と弟。彼らから逃れ結婚した奈津子だが、夫が不治の病になってしまう。だがそれは、奇跡のような幸運だった。車椅子の夫とたどる失われた過去への旅を描く芥川賞受賞作。