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元キュレーターの著者らしい作。
絵画や着物、京都の街の描写はとても美しく、雅な雰囲気に溢れている。その雅さと、登場人物たちに見え隠れする影との対比がこの作品の味わいどころでしょう。
単純なストーリー展開ではなく仕掛けが施されていて、そこを面白がれればよかったのかもしれないが、いかんせん、私にはついぞ縁のない裕福な家庭の優美な遊びに気後れしてしまい、なんとなく楽しみそびれた感じ。
著者の美術テーマの作品は、その道のプロフェッショナルなだけに秀逸で、いつも楽しみにしていたのに今回は残念でした。
単に、自分に美術を理解し、鑑賞して堪能できるだけの素地がなかったと言ってしまえばそれまでだけれども。
うーん、でも詰まるところ、それが原因かもなあ。
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縁とは結んだり引き離したりしてしまうものですね。京都の凛とした美しさ強さも感じました。物語としてもおもしろかったです。原田マハさんの美術に関する小説は
いつも楽しませていただいています。
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震災の後の四月。たかむら画廊の専務・篁一輝が、初めての子を妊娠し、原発被害から逃れて京都のホテルに逗留する妻・菜穂を訪ねようと、深夜の京都駅に着いたところから物語は始まる。
幼い頃から祖父の蒐集した名画に親しみ、芸大で学んだ菜穂は、美に対する鋭い感性を持っていた。
ふたりがクレーの美術展会場で見かけた美しい後ろ姿の女性が、やがて菜穂の運命に大きく関わる事になる…
少しずつ変わる季節を背景に、一輝の視点からの章と、菜穂の視点からの章が交互に描かれる。
うーん、これは面白かった!
原田マハさんのアートに対する愛を描いた作品は、もちろんどれも面白かったけれど、今作は、アートに対する愛と欲と飢え、現実的な取引のかけひきや画壇のしきたりまで、ぐぐっと迫る生々しい迫力があった。
一輝の章は、社長の父に逆らえず、妻の母でありながら秋波を送ってくる義母・克子に悩み、そして美術品を扱う人間として足元にも及ばない審美眼を持つ菜穂に平伏し…と、かなり気の毒な、ひとりの男性の葛藤。
菜穂の章は、初めは京都に異邦人として訪れた女性が、才能ある作家・白根樹を見出した事から、夫も家族も振り捨てて、アートに対する自らの感性と欲望に従って生きようとする、羽化の過程のよう。
菜穂が、京都に磨かれ、樹との交流に研ぎ澄まされ、祖父の愛情に涙し、やがて京都に根を下ろし、母となる変化が鮮烈。
恐ろしく醜悪なのは、克子と志村照山。
そのふたりに、選びようもなく育てられたふたり、菜穂と樹が、それぞれに美に愛されたのは、本当の親たちのおかげなのだろう。
終章近く、菜樹が加わり、三人になった家族のおだやかな様子が、ひときわ美しい。
表紙の高山辰雄の絵が選ばれていた意味が、ここまできてようやくわかった。
最終章が、菜穂にも京都にも受け入れられず、虚無に打ちのめされた様子の一輝で終わる、ほろ苦さと寄る辺なさ、
だから、この題名なのかな…
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京都を舞台とした画家と画廊のお話。終わり方があまりすっきりした感じではなかったが、京都特有の、他を受け入れない感じの現れと捉えることも出来た。
絵を表現する文はさすがの一言。元キュレーターの経験が成せる業。原田マハさんワールドが随所に発揮された一冊。
ただ個人的には楽園のカンヴァスの方がはるかに好きだなぁ。
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実家が運営する美術館の副館長でするどい審美眼をもつ菜穂と
菜穂が見出した画家白根樹の物語。
めずらしいことに…私の中の響きが弱かったんです。
白根樹の謎が多いミステリー調になっているからなのか、
図書館の返却期限に追われて、倍速で読んでしまったからなのか。
菜穂の妊娠が東日本大震災と重なり、
原発事故のことがあり東京に住んでいた妊娠初期の菜穂が
一時京都に移り住むということで、京都が舞台でした。
菜穂がお世話になる、書道家の鷹野せん先生宅。
家の土壁の色、箱庭の表現。
白根樹の描く絵画たちの表現。
(私は特に「青葉」が好きです。
ホンモノのクレーの絵は私には高度すぎて、
魅力がちょっとよくわかりませんけど)
こういうところは、さすがマハさんと堪能しました。
その上、上品でやわらかい京言葉。
京の人々の凛とした所作、佇まい。
鷹野先生が着こなす着物の色の名前の
なんと豊かで素敵なことか。
憧れの京都。雅やかな雰囲気を堪能する
ただの観光客で終わってしまったような、
響きが弱かった自分に寂しい気持ちが残る一冊です。
絵画や芸術はこんなにもこんなにも貴重なものなのに
その時のお金の事情で誰もが見ることが出来たり、
皆の目から遠ざけられてしまったり…。
価値のあるものが辿る運命なのかも知れませんが
権力とは切り離された所で
最高の保存の状態で後世に繋げて欲しい。
そう願わずにはいられませんね。
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私の好きな作家のひとりである原田マハさんの
美術関係の小説。彼女の美術関連の小説がとても
気に入っていて、『楽園のカンバス』『ジヴェルニーの食卓』『太陽の棘』に続き4作目(私が読んだのは)。
彼女自身、キュレーターだったそうで・・。
今回の『異邦人』もストーリー自体は特にそんなに
感動モノでもなく、まあ普通かなあと思いますが、
美術(今回は日本画)に関しての表現はとても
秀逸な(いい)感じがします。
今回は京都の情景(各場所)の表現。日本画の表現の仕方。いい絵を見た時の感動する感じの表現などが
がとてもよかったと思います。
今回の主人公は、企業(不動産)の所有している美術館・美術品をめぐっての話ですが。私個人的に気に入っている日本画の美術館である山種美術館の館長さんと今回の主人公がオーバーラップするような気がします。
山種美術館の山崎さんって写真などでしか見たことがないのでどういう人かは知りませんが。
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いやあ、やっぱ原田マハはいいね。
勝手に下世話な展開を想像していた自分がホント恥ずかしい。
純粋にただひたすら絵を描くこと、それを認めること、そして愛すること。芸術っていうのはそこにいろんな思惑がからむと芸術ではなくなっていくのだろう。だから芸術っていうのは、やはり人を選ぶんだろうね。
読み終わってから表紙を見て、あぁそうか、と納得。
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菜穂と一輝ふたりが交互に語る物語
想像を裏切る展開の連続
ミステリーではないのだけど
まるで先が読めない展開
そして、外部の人を、歓迎したり、包み込んだり
静かに拒んだり口を閉ざす、古都・京都の街
美しく、静かに、静かに流れている
これが自然の川の流れだったのだろうけれど
それでも、驚愕してしまった感じでした
後半は、途中で本を閉じることができなく
一気に読んでしまって、もったいないことしました
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京都が舞台だからだろうか、宮本輝の小説のようなテースト。
主人公の女性の心理描写と自然・風景描写が映えるところもまた宮本輝のよう。
そこに原田マハらしく、絵画を絡めての展開はストーリーに奥行きを与え、さらに絵画の色使いが、京都の風景にシンクロする。
読んでいて美しい。
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心が打ち震える。とにかく、引き込まれ感が凄い。うっかり読み始めて後悔する。もう少し、あとちょっと・・・と、頁をめくる手をなかなか止められない。読み進めたい欲望を断ち切るのに一苦労w 続きは、寝食そっちのけで、一気に読み上げてしまいました。美を解するとは、恐ろしく崇高なことであるなぁ、と。拍手喝采。
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読んでいて、残りのページが少なくなって来たときに、ずっと読んでいたいと思いながら、最後のほうを読みました。
映画の終わりにエンドロール
が流れても席を立たず、ずっと余韻に浸っていたいのと似た感じです。
原田さんの作品で、アートが主題になっている作品は、どれも好きですが、この作品は、これまでと何かが違っていました。
京都が舞台で、そこに暮らす人たちの個性や、文化、風景、言葉、芸術などが小説の雰囲気を上手く作っているように感じました。
物語の展開自体は、わりと予想した範囲の仕掛けではありましたが、そんなことより、文章から出てくる雰囲気は、あまり他の作品には無いものでした。
原田さんの作品に続編やシリーズ物は無かったと思いますが、菜穂、樹、菜樹達の出てくる作品をまた、書いて頂いたら嬉しい。
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「いままでも、これからも、誰のもんにもならへんの違いますか」もとより、芸術家の造った作品は、永遠の時を生きる。この言葉に菜穂と同じくはっとしたし、樹の「睡蓮」も実際に観てみたい。
でもラストはちょっと…。原田さんにしては物足りないかな。
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原発事故がきっかけで、京都に一時的に非難しそこで偶然出会った絵画から始まるおはなし。
芸術に対して理解とセンスがある人間はやはり感覚が一般階級と異なるところがあり、お金がなければ生きていけないのだなと感じた。
万人が持てるセンスではないので、大切にしなければならないと思うし、大切にすべきだと思うけど、やはり主人公の感覚には理解しがたいものがあった。
ただ、主人公の母親と夫もちょっとおかしかったので、なんともいけないけど。
芸術というのは難しいな。
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京都の風景、文化、その妖艶な在り方をとてもよく描いている。
しかし、話を何回も同じところで繰り返すくどさと、菜穂のキャラクターは最後まであまり好きになれなかった。
もう少し潔い作品になれば傑作だったのに。少し足りないなにかを感じた。
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一枚の絵が、ふたりの止まった時間を動かし始める。
たかむら画廊の青年専務・篁一輝(たかむら・かずき)と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗の画廊で、一枚の絵に心を奪われる。画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失くしていた――。
京都の移ろう四季を背景に描かれる、若き画家の才能をめぐる人々の「業」。
『楽園のカンヴァス』の著者、新境地の衝撃作。
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惹きこまれるように読んだ。京都の古より続く暮らしの美しさ、暮らす人々の立居振舞の美しさ、日々の暮らしに根づいた風流を肌で感じられる気がした。そこに、声を失ったという謎めいた未開拓の画家の登場である。惹きこまれないはずがない。東京での篁家と有吉家の関わりや、それぞれのお家事情などが絡みあって、セレブリティの内幕を興味本位で覗くようなミーハー的悦びもあり、純粋に美に没入する菜穂を応援したい気持ちにもなる。画家・白根樹(たつる)の謎が解かれるとき、それまでの不可解が腑に落ちる。ただ、菜穂を京都に長逗留させるのに必要だったのだろうとは思うが、原発事故の影響から胎児とともに逃れることを理由にしたのには少し引っかかるものがあったのも事実である。美しく純粋で残酷な一冊である。