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新刊本が出るたびに読むことにしている著者の一人が、この本を書かれた増田悦佐氏です、長い付き合いになります。
彼の論調は一定して、日本の素晴らしさを、具体的なデータやほかの国との比較、データを使う場合もできる限り長期間のもので説明されていて、とても楽しみにしています。
日本の特徴について具体的には、城壁のない都市が歴史的に栄えている、自動車社会よりも鉄道社会を選んだ賢明さ、どの業界も独占企業がなく複数の企業が良い意味で競合している、日本の金持ちは貪欲でない、日本のエリート(支配階級)よりも一般大衆が優れている等、彼独自の視点が多いような気がしています。
この本においては、インフレは一部の金持ちしか恩恵を受けない、経済学者は金持ちに気に入られる理論しか言うことができない、資源バブルで被害を受けるのは資源国、日本は有利になる、アベノミクスはダメ等が、再度強調されています。
私の理解したところでは、アベノミクスが進むと一部の人以外は厳しい生活となるが、個人はしっかりと仕事と確保できるように努力しましょう、という、ごく基本的なものでした。
以下は気になったポイントです。
・縄文時代が長きにわたって続いた結果、日本は他の国とは違う独自の発展を遂げている(p13)
・日本では木の実、草の実が大量に採れたら、それを積極的に増やそう(投資)とはせず、保管(貯蓄)をして万が一に備えた、保管する技術が磨かれた(p16)
・日本ならではの傾向として、同じ政治体制が長く続くと、権限が下の階級へ移って行った(p18)
・日本の庶民がそれなりに借金をしていたのは、お金を借りることのできる信用力のある庶民がいた、これは世界的にも珍しいこと(p20)
・16世紀以降、経済の中心地となったのは、ベネチア→アムステルダム→ロンドン→ニュウーヨークであり、城壁に囲まれていない無境界都市であった(p27)
・オランダ人は自分達はプロテスタントだが、カトリック相手でも商売するという姿勢を見せたので、経済覇権の奪取へつながった(p29)
・近代的な大規模生産工程の始まりは、奴隷労働と密接
不可分であった。イギリスは当初はポルトガルから黒人奴隷を卸売してもらっていたが、奴隷を積んだポルトガル商船を略奪したほうが良いと気づいた(p39)
・イギリスで工業生産が伸び悩んだのは、すでに植民地経営と金融に特化していたから(p61)
・南北戦争は黒人奴隷が焦点ではなく、南部諸州がアメリカ合衆国から脱退する動きに危機感を持っていたので、彼らを引き留めるためのもの(p62)
・デフレで本当に困るのは、借金をしている人や企業(p67)
・中国は、二本柱であった「アメリカへの輸出」がうまくいかなくなったので、ますます投資に傾斜していく。普通の国だと投資は20-25%程度だが、中国では45%が投資(p78)
・戦争の起きる原因は、1)食っていけない人が食糧を奪おうとする、2)エネルギー資源を収奪、3)���教等の理念の戦争(p80)
・征服欲にかられて歯止めが利かなくなったのは、アレキサンダー大王、チンギスカン、ナポレオンくらい(p84)
・日英同盟を締結している日本は、日露戦争前に英国に確認した。ドイツやフランスが三国協商を根拠に参戦したら、戦争を辞さない。しかし戦火を交えるのが日露両国にとどまる限りは中立する、軍事力の異なる二国間の条約はこのようなもの(p85、87)
・スコットランドがイングランドの傘下に入ったのは、負債を全額チャラにするので一つの国に纏まろうという経緯(p97)
・資本は豊かな国では必ず利益率が低下するから、世界中のあまり豊かでない国にいかないと利益率は保てない(p101)
・資本主義は、世界中の非資本主義的な国々を資本主義化する過程においてでしか稼げない(p102)
・ニューディール政策が大恐慌を解決させたのは疑問がある、不況のまま第二次世界大戦に突入し、生産設備の破壊があった。その復興の過程で景気が良くなった(p120)
・経済成長率が鈍化する理由は、企業の利益率が高すぎてもうけてしまうから、消費が減退するので(p124)
・旧通産省の3つの大きな間違いとは、1)工場制限法、工業制限法をつくり地方に人を定着させようとした、2)天然ガスを法外な値段で買い続けている、3)大企業を次々と統合させたこと(p128)
・ストックの量(一定時点での総量)は、フロー(一定の期間内に総量がどれだけ変化したか)は異なる。フローは変化するが、ストックは大きな変化がない、つまりストック量をコントロールしても、フローは制御できない(p132)
・アメリカ経済の成長率がいちばん高かったのは、1850年(19世紀後半)の年率4.5%、この時期は南北戦争あたりを除いて、ほぼ一貫してデフレの時期(p144)
・経済記事で使われる完全失業率(U3)ではなく、それに不本意就労率を足したU6という指標は、GDP成長率低下の被害を国民の大多数が受けていることを示している(p155)
・今ではFED自身が、自己資本に60倍以上のレバレッジをかけて、米国財務省債、資産担保証券で手広くヘッジファンド顔負けの運用をしている(p164)
・中国は2012年に日量100万バレル目前でピークアウトし、資源浪費バブルは2012年で止まった。生産者物価指数(PPI)のマイナスのままがそれを示している(p166)
・2014年7月に始まった、バレルあたり100ドル台から40ドル台への原油価格暴落は、中国資源消費バブルの崩壊により、需給が大幅に緩んだことを象徴している(p169)
・採掘生産設備を大幅に拡大してしまった国として、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ブラジル、インドネシアがある(p171)
・円安が進んだにも拘わらず、アメリカの対日赤字のシェアはほぼ横ばい、つまり円安が対米輸出を拡大するという議論は机上の空論であった。円安政策が成功するとは、輸出相手国の通貨ベースで輸出額が増えている必要がある(p175、188)
・支払われる金利が、インフレによる元本の目減り分を下回る、すなわち実質金利がマイナスになってしまったら、則利回りを求めて債権を買う投資家は売ることになるだろう(p178)
・企業の自社株買いには、解散価値の前払い以外の意味はない(p180)
・実質賃金を左右する最大要因は、総労働時間の増減である、インフレやデフレはそれほど重要な因子でない(p192)
・日本の株式総額は2014年には、478兆円にもなったが、これはほぼ全面的に外国人投資家によって演出されたもの、日本では個人も機関投資家も売り続けていた。日銀や年金運用法人の買いをあてこんだ日本機関投資家は買っていた(p197、200)
・アメリカやイギリスで技術進歩が効率性の低下を呼びやすい理由として、不要になった人材を簡単に切ることが正しい経営の在り方とされているから(p231)
・積極的に移民導入をしたスウェーデンの都市圏は荒廃、ほとんど受け入れなかったノルウェーは平和で落ち着いた雰囲気(p240)
2015年7月12日作成
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アダムスミス賞賛。自由放任主義最高!って著者の思想が透けて見える。
欧米のやり方に従うんでなく、日本独自のやり方で経済発展を進めよう、は合意できるが、その方法論が結局は地方切り捨てで、効率性の追求は欧米と変わらない気がする。
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「官製相場」と言われる株高の一方で、一般家庭の家計は物価上昇で苦境に陥っている。
やせ細る一方の実体経済と活況を呈する金融市場との乖離。
こうしたアンバランスな経済状況は、日本がいま非常に不確実性の高い時期に差し掛かってしることを示す。
目一杯大きな視野から世界と日本の経済史を振り返ることで経済の原理、資本主義のカラクリ。
経済史をひもとけば、日本の進むべき道と私たちが今後生き残る術も見えてくる、ということで、
第1章 経済覇権を城壁のない都市が握った経済史の黎明期
第2章 16世紀以降は戦争とインフレ・デフレの関係で
経済史を総括できる
第3章 経済思想家は経済をうまく導いてきたのか
経済学で言うべきことはアダム・スミスが
言い尽した
アダム・スミスのラデイカル精神はどこから
来ているか
アダム・スミスよりも権威主義だったマルクス
マルクス経済学からなぜ卓見が生まれたか
アメリカの大国化を予測したアダム・スミス
<略>
経済学者が「官僚統制型」を支持する理由
<略>
1930年代不況を深刻なものにしたのはGM
国がお金を使った分だけ庶民の消費の余地が
失われる
企業の独占はなぜ市場に悪い影響を与えるか
ケインズ主義と旧通産官僚にある共通の性質
第4章 20世紀はばぜ金融業の時代になったのか
第5章 アベノミクスでは日本経済は復活しない
第6章 日本経済が今後その隠れた実力を発揮する方法
というような内容です。
最後の章で、「全生産要素」なる新たな観点の指標で、日本の未来は明るいということを予言している。
日本経済復活のカギを握るのは、国民が勤労倫理の高さを持ち続けることが重要であるという主張でした。
そして、日本は技術革新と効率性の追求が両立する国であると。
全世界を見渡しても、それは、ドイツにもない日本だからの特性であるとしている。
自分たちの職業が奪われないよう官僚と結託するエセ経済学者のわけのわからない学説にはくれぐれもだまされないようにいたしましょう(笑)・