紙の本
精神医療史を越えていると思う
2016/10/15 21:49
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投稿者:十楽水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
よくこれだけのことを書きまとめたな、と感嘆。ラストの腰砕け的な所は、小説としてはまずいのかもしれないけど気にならなかった。
正常と異常の間に境界を作ることだけではなく、境界を取り除くことにも副作用はある。善良な動機が単純に肯定される話ではない。結局、何を選択しても、未来からは野蛮だ未開だと批判されるだけなのかもしれない。「精神医学の歴史とは、つまるところ、光と闇、科学と迷信の強迫的なまでの反復」だとして、矛盾は無くすべきか、不快であっても共存するのか。
ホッヘにヴァイツゼッカーにマズロー、トランスパーソナル心理学、霊性、ラスタファリアン、文化結合症候群-。著者の筆は縦横無尽。個人的には、ヴァイツゼッカーの「魂は不死であると信じ、生物学的な命を犠牲にして社会の相互連帯性を維持する」が恐ろしく、でも形を変えて現在でも息づいていると感じている。だから、どんなスピリチュアルな言説にも警戒を解けないでいる。警告の書としても読めた一冊である。
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第1作『盤上の夜』、第2作『ヨハネスブルグの天使たち』が連続して直木賞候補となり、それぞれ日本SF大賞、同特別賞を受賞した驚異の新鋭が放つ、初の書下し長編!
すべての精神疾患が管理下に置かれた近未来、それでも人々は死を求めた。
10棟からなるその病院は、火星の丘の斜面に、カバラの“生命の樹”を模した配置で建てられていた。ゾネンシュタイン病院――亡くなった父親がかつて勤務した、火星で唯一の精神病院。地球の大学病院を追われ、生まれ故郷へ帰ってきた青年医師カズキは、この過酷な開拓地の、薬もベッドもスタッフも不足した病院へ着任する。そして彼の帰郷と同時に、隠されていた不穏な歯車が動きはじめた。25年前に、この場所で何があったのか――。
舞台は火星開拓地、テーマは精神医療史。新たな地平を拓く、初の書下し長編。
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「火星の精神科医」のSF
DSM-47(2141年版)の診断基準が引用されていたり、フーコーからNIRSまでよく読んでいる、という印象。
が、治療はハロペリドールとサイレース、ロボトミーということで随分レトロ。
少し前の日本を舞台にした小説、ということにしたほうが座りがよいようには思うが、、、
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入植した未来の火星にある精神病院を舞台にした精神医療SF作品。
医療機材や薬などがない状態、つまり一から精神医療を考え直すために、遠く離れた地、火星が舞台にされた理由だろう。
その舞台をベースに、科学的側面、非科学的側面、両方から精神医療の在り方へのアプローチが面白い。
「精神疾患とは脳というハードウェアと政治というソフトウェアがもたらす非適応状態」という表現はある意味目から鱗だ。
精神疾患は環境や文化、社会によって変わっていくはずであろうから。
ただちょっと残念なのは、最後のまとめを端折られたように終わった所だろうか。
黒幕とのやり取りのクライマックスで、、、と思ったら次ではもう解決した後になってしまっていた。
でも一作目、二作目、今作と面白い作品を描いてくれる作家さん、次回作も非常に楽しみだ。
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精神医学
なかなかの展開なのに、後半戦というか結末が腰砕けに感じる。内なる宇宙ではないが、どうもこうしたインナーマインドの世界はわかりにくい。少し残念かな。
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エクソダス症候群 宮内悠介著 未来の火星に広がる心の闇描く
2015/8/16付日本経済新聞 朝刊
「湯の出ないバスタブ」「明滅する信号」「七人が暮らす六畳間」……宮内悠介の初長編『エクソダス症候群』は、こんな奇妙な言葉で始まる。精神科病院の患者が自由連想法で口にするフレーズ。それが随所に挿入されて、小説に絶妙のアクセントを与える。
著者は、今もっとも注目される新鋭SF作家。デビュー単行本『盤上の夜』と第2作『ヨハネスブルグの天使たち』が、ともに日本SF大賞を受賞(大賞と特別賞)、直木賞にも2作連続してノミネートされる快挙で、一躍、時の人となった。
書き下ろしの本書は、未来の火星が舞台。構想は、12年前、著者が早稲田の古いゲームセンターでアルバイトをしていた23歳の頃まで遡るという。
作中の火星は環境改造が進んでいるが、まだ大気はなく、人間は高分子ポリマー製の巨大な泡(直径数百~2千メートル)の中で生活する。泡の数は1万を超え、推定人口は約60万人。物資が足りず、交通網の整備もままならないため、住民は赤い大地に馬車を走らせる。まるで開拓時代のアメリカ西部のような光景が幻想味をかきたてる。
主人公は、火星で生まれ育ち4歳で父と地球に移住した若き精神科医カズキ。地球では、多剤大量処方とカウンセリングにより、あらゆる精神疾患が完璧に制御されているのに、突然なんの理由もなくみずから死を選ぶ“突発性希死念慮”が蔓延(まんえん)。それによって恋人を亡くしたカズキは、恋人の父親である担当教授に疎まれて大学病院を追われ、故郷に戻ることに。着任したのは、亡父がかつて勤めていた火星唯一の精神科病院、ゾネンシュタイン病院。10棟の建物は、カバラの“生命の樹”を模して斜面に配置されている。
題名のエクソダス症候群とは、強い脱出衝動を伴う妄想や幻覚に悩まされる病。火星開拓地に広がり、カズキ自身も罹患(りかん)する。その病理の解明と病院内の不穏な出来事が並行して進む。
25年前、この病院でいったい何が起きたのか? カズキの父の過去もからんで、物語はミステリー風に展開する。鍵を握るのは、この病院最古参の患者にして第五病棟の長チャーリー。精神医療の歴史をめぐる彼とカズキの議論がかなりの分量を占め、舞台劇(たとえばピーター・ブルックの「マラー/サド」とか)っぽい雰囲気もある。通電療法、ロボトミー、薬物投与、画像診断。やがて起きるカタストロフと、驚愕(きょうがく)の真実。
270ページのコンパクトな長編だが、他にはない味わいが、読後に強い印象を残す。
(東京創元社・1700円)
みやうち・ゆうすけ 79年東京生まれ。作家。92年までニューヨークに在住。早大一文卒。
《評》翻訳家
大森 望
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近未来の開拓地火星を舞台にした話。地球の大学病院を追われた医師カズキは、火星で唯一の精神病院に着任する。そこはかつて彼の父親が勤務した病院だった…
地球とちがって薬や機材が不足した過酷な地で、精神医療はどこに向かうべきなのか。歴史を俯瞰しつつさまざまな側面から未来の可能性を考えさせられた。
過去にこの病院で何が起こったのかという謎もあって小説としても面白いのだが、全体的にあっさりしすぎなのがちょっと残念。でもこの著者の本は3冊目だがどれも面白い。
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正統派のSFでありながら、麻耶雄嵩を思わせるような突き刺さる心理ミステリの側面も見せる。終盤でもたらされる「精神疾患とは何か?」という問いに対する答えに衝撃。「チーム・バチスタ」のようなシリーズ化も出来そうな世界観だが、おそらくそこに留まることは無いのがこの作者だろう。
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「盤上の夜」の著者による初長編ということで楽しみに読んだのだが、さほど目新しさは感じず拍子抜け。
出版社はSFとして売り出したいのかも知れないが、舞台や人物設定に説得力なく、種明かしのインパクトも弱い。
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舞台設定は開拓中の火星ではあるものの内容はSFというよりは医療、特に精神医療に対する医師の闘い。
雰囲気は少し暗いが、地球に見放されている感が出ていてリアルに感じることが出来る。
リズムは淡々としているが、精神医療に関する部分はよく調べていると感じるとともに引き込まれた。
非常に面白い。人に勧められる。
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うーん。
SFなのだが、なのだが、各章のタイトルが展開そのままで、章タイトルを読むと先が見えてしまうのが残念。
そのせいか、いまいちテンションが上がらなかった。
もし文庫にするなら章タイトルは削除してほしい!
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舞台は火星開拓地
テーマは精神医療史
未来感希薄
終わりも盛り上がりに欠ける。
しかし
作者の精神医療史に対する造詣は深い。
登場人物も魅力的で
続編を期待してしまう。
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これは面白い。今までの単行本3冊で一番しっくりきました。火星の精神病院(ゴルディアスの結び目を想起させます)と精神医療史という題材の妙とそれらを踏まえたSF的なビジョン、ミステリーの味付けもあります。
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小難しい理屈や内省的で陰な登場人物といった、悪しき日本SFの伝統(個人的な意見です)の正当な継承作品(笑。SFというのは、やはり読者をドキドキさせなきゃならんと思うのです。
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ちょっとすごそうなテーマとハードタッチな筆致がかっこよかったけれど、結局誰に何が起こって何が解決したのかしなかったのか、その辺りが曖昧なままに物語の終焉を迎えてしまったのが残念。もっと神秘主義的な方向へ進むのかと思いきや、脳科学でもなく、心理学でもなく、社会学でもなく、みたいな中途半端な印象しか残らなかった。
チャーリーは結局何がしたかったのだ?