紙の本
孤高の天才という生き方
2019/03/07 21:37
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ボビー・フィッシャーは天才として認められながら、数奇な生涯を送ってしまった。
チェスの世界は、20世紀初めまで紳士の嗜みとして発展してきたため、勝負にギスギスしたところはなく、プレーヤーは本業でも地位を獲得している紳士としてのプライドをもって、トラブルも、金銭問題も解決してきた。20世紀になってソ連のステートアマが参入し、世界タイトルを独占するようになる。一方西側でも産業化の進展と、世界大戦による破壊の結果として、知識階級と富裕階級が分離し、チェスの才能は紳士の独占物ではなくなる。その結果として、ブルックリンで育った天才少年は、才能だけを武器にしてのし上がっていく夢を見るようになる。
もちろん才能を伸ばしていくためには、周囲の大人たちの庇護と協力があってのことだ。日本における囲碁や将棋では、徳川幕府の庇護により家元は家禄を与えられて専業棋士となり、家元同士の競争のために、天才少年を発掘して育成するというシステムも確立した。チェスの世界にはそんな仕組みは無かったのだが、フィッシャーの才能を見るや、多くの大人たちが旧来に縛られずに、その育成に力を貸していくようになるには、やはりアメリカという社会の柔軟さとダイナミズムなのだろう。
ただしそれによって全米チャンピオンになることはできても、ソ連に打ち勝って世界チャンピオンになるための指南をできるものはいない。そこからはフィッシャーの孤独の戦いになった。それでも少年は根っからのアメリカ人で、自己主張と信念の強さもアメリカ人の共感を呼んだのだろう。一躍ヒーローとして扱われ、それも彼を後押しすることになった。
フィッシャーの成長と活躍は、こうした世界の移り変わりの流れが生み出したと言えるが、彼自身はもちろんそんなことには気づいていない。それが周囲との軋轢を生み、また彼を愛した国は、フィリピン、ユーゴスラビア、アイスランド、日本と多様で、彼を放浪の生涯へと導いていった。
彼の挑戦によって、技術的な向上という面に加えて、チェスの業界構造をも見直しさせるようになったのではないだろうか。言動だけを取り出して見ると、なにかエキセントリックで理解不能な天才のように見えるかもしれないが、彼はチェス界の構造を相手に苦闘していたのであり、さらにチェスを愛するというだけで冷戦期の西にも東にも対立してしまうという、世界の歪みにとも戦っていたのだとわかる。
一つ一つのエピソードだけを見れば、天才だから「仕方がない」と思うようなことも、生涯を通じて見れば、時代を変えていく人間だけが味わうねじれるような苦痛の所産だったことがわかる。チェスに生涯を捧げるという生き方を、世界で最初に見せてくれた人間でもある。
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盤上を駆け抜けた天才
2020/07/05 22:31
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
才能に恵まれながらも破天荒な生涯を送った、チェスプレイヤーの素顔に迫っています。蒲田での亡命生活など、日本との不思議な縁も印象的です。
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やっぱ努力してるよ
2016/01/14 09:21
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投稿者:やまちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
普通とは違う人なんだろうけど、やっぱり何もしないで勝っている
わけじゃないよね。かなりストイックに研究・努力を重ねているし、
その道のプロになるには1万時間の練習が必要なことに例外は
ないと改めて知らされた
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チェスの名人、ボビーフィッシャーの生涯について書かれた書
天才とは努力のなせる技、また天才とは何かを引き換えにしなければいけないものなのか、と思ってしまう。
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チェスの元世界チャンピオン、ボビー・フィッシャーの伝記。
貧しい家庭に生まれ育ったボビーは、幼少の頃からチェスの才能に恵まれていた。チェスの世界で数々の最年少記録を打ち立て、ついに29歳になったボビーはアメリカ人初のチェス世界チャンピオンとなる。
と、簡単に記せばこんな話なのだが、彼の一生はそんなに簡単ではなかったようだ。
若い頃から天才にありがちな、試合中や私生活での傲慢な態度。世界王者になってからも、差別的な発言や奇行を繰り返すあまり多くの友人や支援者を失い、最後には母国までも敵に回してしまうという、我々一般人には理解し難い生涯を送る事となってしまった。
冷戦下の代理戦争として、当時最強だったロシア人プレーヤーと戦い、世界チャンピオンになるまでの前半は、とても華々しくエキサイティングで面白かったが、世間から隠匿して人知れずアイスランドで生涯を閉じるまでの後半は、なんだかもの悲しくて憂鬱な気分になった…
さらに、この作品間違って2冊購入してしまって、憂鬱さを増長させるという残念な結果に…
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お母さんの医学の学位への執念がすごい。
なんであちこちの国で取ろうとするんだろう??
本人は変わり物
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1900年代、チェス界の天才と呼ばれたアメリカ人、ボビー・フィッシャーの伝記。馴染みの少ないチェス界の話だが、チェスの技術的な話は一切なく、チェスのルールを知らなくても退屈しない。逆にチェスに詳しい人にとっては物足りない本かもしれない。
フィッシャーが有名なのは、チェスの実力だけではない。チェスの天才でありながら、社会性のないトラブルメーカーであるというのが、この人の魅力だ。競技をドタキャンしたり、対戦相手にクレームをつけたり、亡命したりと、自分が納得できないことは、絶対に譲らない。誰かれ構わず、露骨に不満を表す。それがユダヤ教や米国、ソ連であっても。晩年はアメリカ国籍を捨てて、日本人と結婚、アイスランドに移住する。
正直、彼の行動は理解し難い。当時、チェス界のトップを占めていたソ連のプレイヤーに次々と勝利したことが、米ソの冷戦に例えられた不運もあったとしても、行動は異常だ。が、チェスの能力が飛び抜けていたために、その精神異常性も伝説となったのだろう。
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おもしろい、おもしおくないじゃない。長い!!!ボビー・フィッシャーが近くにいたら大変。
天才は遠きにありて思ふものそして楽しく愛でるもの
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文字通り、チェスの天才の生涯を追った一冊。
翻訳独特の読みにくい箇所はあるものの、全体としてはとても面白かった。
彼の波乱万丈な人生、そしてそれ故に猜疑心旺盛で金の亡者になってしまったというのが物悲しい。
また冷戦構造化の時代の中で、旧ソ連のチェスの強豪に勝つのは痛快な反面、彼らが談合してたというのも時代性か。
今ではありえない話みたいだけど。
最後にチェスの強豪としても有名な羽生竜王が解説で「チェス界のモーツァルト」と書いてたのが至言。
その心は、誰もが認める天才、天才性がわかりやすい、その能力と別の部分のギャップ、だとか。
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6歳の時、姉が買い与えた1ドルのチェス・セットが彼のその後の
人生を決めたのか。
ボビー・フィッシャー。若くしてチェスの才能を開花させ、東西冷戦の
時代に歴代世界チャンピオンの座を独占していたソ連からその座を奪い、
アメリカ国内に一大チェス・ブームを起こした稀代の天才。
本書はフィッシャーを直接知る著者による詳細な評伝だ。
天才と言うのは本人が積み重ねた多大な努力によって作られるものなの
なのだろう。フィッシャーも多くの時間をチェスに割き、世界のトップ
に君臨するのだが、その才能を無にしてしまうような問題行動も多い。
金銭への執着は貧しかった幼い頃のトラウマなのだろうが、引退と復帰
を繰り返したことや、自分の思い通りにならないと感情が爆発する様子
は、何かしらの心の問題を抱えていたのではないかと思わせる。
それでも、チェス界は彼が戻って来るのを待っていた。傍若無人とも
思える振る舞いをしても、彼を愛したチェス仲間もいた。
だが、フィッシャーは長い長い隠遁生活の後、日本から出国しようと
して入国管理法違反の疑いで身柄を拘束される。この時も彼を支援
する人々が八方手を尽くし、アイスランドが彼を受け入れることに
なった。
このアイスランドが、フィッシャーの終焉の地となる。奇矯と映る
振る舞いと辛辣な言葉、他を寄せ付けないチェスの才能を持った男は
その死後に遺産相続の問題を残してアイスランドの地に眠っている。
面倒な天才だったんだなと思う。それでもチェスの神様は彼を愛した。
そして、1972年の対局でフィッシャーに世界チャンピオンの座を奪わ
れたボリス・スパスキーは彼の訃報に触れ「私の弟が死んだ」との最大級
の哀しみを記したメールを知人に送った。
フィッシャーを知る著者ではあるが、美談仕立てではなくフィッシャー
が引き起こした数々のトラブルも丁寧に描いており、チェスが分からな
くても十分に楽しめる評伝だった。
でも、でも…。フィッシャーのような知り合いがいたら嫌かも。
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冷戦の時代に翻弄された天才。プロバガンダとしてのチェスを余儀なくされたことにより、荒野の時代に突入したのではないか。純粋にチェスを楽しんでいた子供の頃のフィッシャーが歴代最高のチェスプレーヤーかもしれない。