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六車さんの著書第2弾!
デイサービス「すまいるほーむ」での聞き書き。
利用者も職員も本当に生き生きと描写されていて、「介護するーされる以上の関係」というのはこういうことかと感じた。
あと、六車さんの著書の魅力は、介護現場での試行錯誤、戸惑いや疑問、後悔などが書かれていることだと思う。食事介助の話がとても印象的だった。介護職員としてまだ出来ることがあると気付くことができた。
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介護民俗学。あまり聞き慣れない言葉である。
この本には前段がある。同著者による『驚きの介護民俗学』である。著者は元々、民俗学を専攻しており、民間企業の学芸賞を受けるなど、気鋭の研究者であったのだが、さまざま事情があったようで(この辺の詳しいことは前掲書でもあまり深くは触れられていない)、研究畑から介護の仕事に飛び込んだという異色の経歴の持ち主である。前掲書では、著者は、比較的大規模の介護施設で働きながら、利用者のお年寄りから昔話を聞く、「聞き書き」を始める。聞き手は昔の暮らしを「驚き」ながら聞くことで、利用者のバックグラウンドを知り、理解を深めることになる。一方で、語り手もまた生き生きとしていた時代を思い出しつつ、一方的にサービスを受けるのではなく、能動的な「知識の宝庫」、語り部となることができる。語り手が描き出す世界は、教科書からは抜け落ちる庶民の暮らしであり、民俗学的にもまた、肥沃な世界観を広げるものだった。
本書は、前掲書の後、小規模デイサービス「すまいるほーむ」に移った著者による、施設利用者と介護者の物語である。
前作同様、利用者の「物語」を共有しようとする著者の姿勢が温かく、また利用者それぞれの人の話が本当に興味深い。
挺身隊に行って風船爆弾を作った経験がある人。ポリオで少し麻痺が残ったけれど青春を謳歌していた女の子。朝鮮の京城で料亭の子として生まれ育ち、終戦とともに引き揚げてきた人。「遠野物語」ばりに、父親が謎の大男に襲われた武勇伝を語る人。
それぞれの人はそれぞれの歴史を背負う。
小規模施設の管理者となった著者は、一方的に介護者がサービスを行うのではない形を探る。利用者それぞれの思い出の味を再現してもらい、踊りの師匠だった人には行事の出し物の振り付けをしてもらう。「聞き書き」によりわかってきた利用者の人生をすごろく仕立てにして、皆で共有する。
著者だけでなく、施設職員も、そしてまた利用者も、「すまいるほーむ」をより「心地よく」「よいものに」するにはどうしたらよいか、智恵を絞る。
もちろん、何かを変えようとする際に、障害や反対・批判は付きものである。
こうした活動の中で、ストレスからか、一時的に体調を崩してしまった認知症の人もいる。著者が利用者を「だし」にして「金儲け」をしているという批判もある。
利用者は「すまいるほーむ」を気に入っていたが、諸般の事情で別の施設を利用することになり、もう来られなくなった人もいる。
制度の壁でどうしても超えられない問題も多々ある。
何がより「よい」介護なのかは難しい問題だが、より「よい」介護を求めていく、著者らの真摯な姿勢が胸に残る。「聞き書き」のある介護の風景は、そうした目標に近づいていくように見えるのだ。
この著者の本を読んでいると、思い浮かぶのは、そっと差し伸べられる温かな手である。
押しつけがましくはなく、けれど、「あなたを思っている」というメッセージ。
読んでいてとても心地よい。この先、「聞き書き」の活動がどう展開していくのかわからないが、この心地よさを信じて、私は陰ながら応援していきたいと思う。
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前著で「介護民俗学」という著者の造語で介護現場に新しい方法論を生み出した著者の第二弾。前著の実践が大規模な特養であったが、本書では小規模のデイサービスに場所を変えての実践集である。民俗学の聞き書きの特徴である「語り手と聞き手の関係性」が介護現場に導入されることで、利用者とスタッフの関係が逆転する。そして、そのことによって、人と人との関係が回復し、介護という営みをもっと豊かにすることにつながると著者は述べる。本書は実例を交えて述べられている。最後に介護保険制度では高齢者の自立支援が求められているが、それに対する皮肉として「下降志向の運命共同体」との造語で述べられしめくくられている。高齢者の介護や医療に関わっている人には一読をお薦めしたい一冊である。
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「介護民俗学」とは著者による造語だ。六車さんはもともと「民俗学」を専門とする学者だったが、大学を辞めて介護の世界に飛び込んできた「介護業界の常識」にとらわれない人。本人曰く「コミュニケーションが下手」で、今の職場に管理者として来た当初は(もう少し、スタッフに自分の気持ちを伝えればいいのにな)と良き理解者である村松社長に心配されたこともあるそうだ。
六車さんは聞き書きは「人と人との関係を回復させ、介護という営みをもっと豊かにする」と言う。すまいるほーむでの出会いは、関わり合う人達を日々相互に変えている。静岡の小さなデイサービスの実践から、日本中に聞き書き(或いは傾聴)のメソッドが拡がれば良いなと思う。
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語り手の聞き書きの体験を著者が愛情深く記述されている。
支援が目的ではなく傾聴とは違うとのこと。
利用者さんの言葉そのものに真剣に耳を傾けたとき、その方の人生や経験が見えてきて敬意を持つことができる
聞くという行為自体の姿勢を見習うべきだと思った
ほうとうつくりやハンバーグなど料理のエピソードはかなり印象的 その方にとっての思い入れのある料理を聞き出して皆で調理する体験は貴重
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介護現場での聞き書きの他変だと思います。筆者の知性があってこそのインタビュー力だと思います。
利用者の言葉に耳を傾け、その人の人生を通して地域の歴史を紐解いていく介護民俗学は面白い。