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読み切りの短篇集なので、これからSFを読もうと思っている人は、これを読んで好きな作家や好みの作風やストーリーを探すのが良いでしょう。個人的には、上田早夕里さんの小説が読みたかったので購入しました。読んでみて、他の作品も読みたくなったのは井上史さんです。思いもよらないところに出会いがあるのがアンソロジーのいいところです。
以下、作品ごとの個人的な感想というか読書メモです。
◎アステロイド・ツリーの彼方へ(上田早夕里)
人口知性を搭載された猫型ロボットの話。ドラえもんの話かと思いきや、当然ながらまったく違った。人間とは何かを改めて問える作品。
◎あるいは土星に慰めを(新城カズマ)
309光年先の世界と夢でつながる話。よくありそうな話ですが、楽しんで読める作品。
◎最後のヨカナーン(福田和代)
洗脳の話かと思いきや、最後が恐い。ヨカナーンとサロメのお話を知っていれば、その結末も予想できたのかもしれないが、私は知らなかったので、純粋に恐怖を味わった。
◎地底超特急、北へ(樋口明雄)
超高速で走る地底超特急。時速900キロメートルを越えて移動する車輌の中での惨劇。ひたすら恐い。惨劇が起きた(起こされた)理由も恐い。ああ恐い。
◎親友(中島たい子)
読みはじめはBLなのか中二病なのかよく分からなかったけど、最後はあっと驚く大どんでん返しで面白かった。「親友」の定義がよく分かった。
◎泥酒(田丸雅智)
泥酒(どろしゅ)飲みたい!
◎ある奇跡(弐藤水流)
うん。ささやかな奇跡だ。でも、まあよくある話で、読んでほのぼのとはするが、驚きはない。
◎生き地獄(井上剛)
死後の世界って誰も知らないから、こんな感じに想像するのは面白い。救われないところは本当に生き地獄だし。
◎聖なる自動販売機の冒険(森見登美彦)
おバカな感じ。
◎蛇の箱(両角長彦)
ひたすら恐い。
◎虫の居所(荒居蘭)
ショートショートとしてちょうどいい。それでいて面白い。人間と自然の共存と銃問題を考えさせられる。
◎母(井上史)
SFである。スケールは大きいし、アイデアもいい。これがデビュー作のようだが、将来期待できる作家かもしれない。
◎闇切丸(江坂遊)
アイデアはいいと思ったけど、ラストがいまいち。ショートショートではなく、もう少し長めの作品にすれば面白くなるかも。
◎辺境の星で(梶尾真治)
星新一のショートショートのような話の展開だった。面白いのだが、あと一歩といったところ。
◎新月の獣(三川祐)
衝撃のラスト。笑ってしまった。まあ、やつも獣といえば獣だからな。
◎伯爵の知らない血族-ヴァンパイア・オムニバス-(井上雅彦)
タイトル通りの吸血鬼のオムニバス。基本的にはホラーなんだろうな。個人的には最後の第5話が面白かった。
◎輪廻惑星テンショウ(田中啓文)
軽いタッチで読みやすい。知的生物とは、死後の世界とは、などいろいろ考えさせられるが、悲壮感などはないので、単純にストーリーを楽しめた。
◎五月の海と、見えない漂着物(藤崎慎吾)
異星人とのファーストコンタクトものと言っていいのだろう。少年と異星人の、言語ではないコミュニケーションが読んでいて心地よい。舞台が海の近くだったり神社があったりするので、実家の近くを思い出した。だからというわけでもないが、読んでいて爽やかな感じがして気持ちいい。
◎架空論文投稿計画(松崎有理)
メタフィクションというのが、自分にとっては新鮮で面白かった。作品の最後に掲載されている参考文献は、きっと偽物に違いないと予想していたが、ネットで検索してみると……なるほどね。
◎サファイアの奇跡(東野圭吾)
ファンタジックな少女の物語。大人の欲を忌み嫌い、子供の純粋な思いが勝利するような昔話のようである。悪い意味で言っているのではない。そのような何か懐かしい心地よい読後感があった。
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森見登美彦氏が「聖なる自動販売機の冒険」を書いているので読む。あまりSF作品読まないけど、全て新作読み切りで他の作品も読みやすく、面白かった。
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SFアンソロジー
ショートショートが含まれるので作品数が多いが、全体的には出張移動時間に読み切れる分量だ。
冒頭は好きな作家さんの「アステロイド・ツリーの彼方へ/上田早夕里」。なんだか瀬名作品のような良い香りがする。短いけどこのシリーズ読んでみたいと思わせるな。
期待したんだけどイマイチ情景が伝わらない「あるいは土星に慰めを/新城カズマ」。アップテンポがうれしいけど結末が雑な感じの「最後のヨカナーン/福田和代」。ドタバタコメディチックだが、一気に読み切れる「地底超特急、北へ/樋口明雄」。定番の侵略モノ「親友/中島たい子」もなかなか読ませる。
そしてショートショートタイムに突入。「泥酒/田丸雅智」はイマイチ。東大工学部に期待したのに。次の「ある奇跡/弐藤水流」はなかなかにおもしろい。パラレルワールドをうまく使ってる。京都大学部からは「生き地獄/井上剛」なんだが既読かな。よくあるアイデアって感じ。京都大学農学部からは「聖なる自動販売機の冒険/森見登美彦」で、まったくおもしろくない。
SF色が濃い「蛇の箱/両角長彦」はオチがありきたりで新鮮さがないけど、次の「虫の居所/荒居蘭」はなかなかに筆が軽快で楽しい。大きなテーマで始まる「母/井上史」のエンディングは半回転捻りかな。
イマイチの「闇切丸/江坂遊」、ソラリスっぽい「辺境の星で/梶尾真治」、ハードボイルド風の「新月の獣/三川祐」、意味不明の「伯爵の知らない血族/井上雅彦」、期待したけどわかんない「輪廻惑星テンショウ/田中啓文」。
気を取り直して「五月の海と、見えない漂着物/藤崎慎吾」に進む。いいなぁ、ファンタジー風のあたたかいストーリー。こんなSF好きだなぁ。満足。
しかし最高傑作はこれ。「架空論文投稿計画/松崎有理」。久しぶりにとても楽しかった。架空の論文がとても楽しい。いい味だなぁ。
猫が主役だからあまり好きではない「サファイアの奇跡/東野圭吾」。あまりSF色がないから、イマイチだなぁ。なんか、青い猫の子が産まれるのはどうでもいいけどなぁ。
とにかく、松崎友理さんと藤崎慎吾さんの作品が良かったな。