紙の本
ファン必携
2016/04/17 10:38
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投稿者:KKキング - この投稿者のレビュー一覧を見る
大病からの復帰を果たした教授のインタビュー本の文庫化。2冊分の合本なのでお得感もあるし、内容も良い。装丁にも教授らしさがあるし、ファン必携。
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1996年から2006年の間、編集者の後藤繁雄が行った坂本龍一へのインタビューをまとめた一冊。インタビューの後半は今はなきNTT出版の思想誌「Intercommunication」で連載されており、学生時代に定期的に購読していた自身として、懐かしさを感じる部分も多々あった。
雑誌購読のときから印象に残っており、改めて再読しても同じ感覚を持ったのが、坂本龍一の提唱する「エコ&エロ」である。環境問題を考えようとしても、サヨク的なつまらないアプローチでは社会は動かない。特に自民党のエロ爺どもは。つまり、エコで社会を動かそうと思ったらエロが必要、という指摘は、15年経った今でも通用するのではないか。もちろんそれは「環境問題をセクシー」に、という小泉某のアプローチとは別である(彼は恐らくAVを見たことがないピュアピュアボーイなのだと思う、早いうちにAVを視聴されることを祈る)。
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坂本龍一は常に動き続ける。物理的に様々な土地を旅するミュージシャンでもあるし、彼の中で多彩なアイデアが湧き出るままに一貫性を守ることを犠牲にしてでも自分を変え続ける。自分自身に忠実に、自分の一貫性を守ろうとする姿勢とそうしたコロコロとアイデンティティを変えて冒険し続ける姿勢が堂々と共存しているところが彼のパーソナリティの面白さであるだろう。あるいは、彼は(古臭い言葉ではあるが)未だに「スキゾ・キッド」なのかもしれない。私自身、自分の鈍重さに悩んでいた時に読んだからか、彼の自分に正直過ぎる姿勢を眩しく思った
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1999年と2006年に出版された「skmt」「skmt2」の合本文庫版で初版は2015年。
編集者がひたすら観察し考察した坂本龍一像を、教授との会話や日記引用で記録のように綴られる。
ヒストリーやインタビューを単純に綴ったものとは異なり、2人の思考のやり取り、教授の脳内回路、ルーツ、発想の生まれる瞬間が、垣間見ることが出来る。
非常にシンプルながらクリエイティヴィティに富んでいて、個人的には教授の関連著書の中でも「音楽を自由にする」(坂本龍一/新潮社/2009)年)の次に並ぶくらいに好きな本となった。
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「坂本龍一というものは、坂本龍一自身も所有していない、分裂し、矛盾に満ちながら運動し続ける総体である。だからこそ、ばらばらに断片化し、それぞれが次の『種』となるように、つまり散種として記述するスタイルをとった」
聞き手を務めた編集者の後藤繁雄がこう書いているように、本書は1996年から2006年を生きた坂本龍一の「アモルファス」な状態の思考の断片を蒐集し、流動するままに本という物体に仕立て上げたような不思議な質感の書籍であり、読書体験だった。
無数の断片的な思考は固着されていないがゆえに、アメーバのように時間と空間を超えてつながりあい、なんらかの新しい意味を形成している。それを予見と呼ぶこともできるし、真理とも呼ぶこともできるだろうが、宙ぶらりんで掴みどころのない本でもあるなと思う。そこに生の坂本龍一を感じられたような気もしておもしろかった。