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何か月もかかって、ようやく読み終わった。一章一章に、それだけの重みがあった。
私は、文学がどういう状況なら生まれえるのかを、真剣に考えて来なかったという気がしている。自分自身が「書く」人間で、時折病気によって中断せざるを得ないつらさを抱えているにもかかわらず、さまざまの本を読んできたにかかわらず、である。また、「書かれるもの」に対し、『地べたに座り、ことばを挟まずただその言うことを聞く』ということもしてこなかった。私にとってずっと、文学/ペンは、暴力に立ち向かう武器だったように思うーーつまり、暴力に対抗する暴力でしかなかった、ということだ。
ただの暴力は、ひとを、不可逆に捻じ曲げてしまう。それも私はこの本を読んでからやっとはっとした……。ひとがなに人にもなりうる世界を、理想として抱くことができるということに、その考え方を頭の中で可視化してもらったことをありがたく思った。
祈りとしての文学。ひとを自分に引き付けて考えることを、もうすこし学美宅感じる。
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文学とは何のためにあるのか?何の役に立つというのか?を考えたことがある人なら、胸にくる素晴らしい一冊だと思います。
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パレスチナ文学の研究者である岡真理さんの著作。
2023年10月に起きたパレスチナ、ハマスによるイスラエルへのテロ。それがきっかけとなりイスラエルはハマス壊滅という名目の虐殺が起き、1ヶ月が経った現在も攻撃は続いている。
今回、この衝突をきっかけに手に取ったのが本書。
まず恥ずかしながらパレスチナ問題については学生の時分に教科書で表面的に触った程度で、かなりおぼろげな記憶でしかなかった。
その上で本書に手に取ったのだが、まずこれだけのことが起きているにも関わらず知らなかった自分の無知を恥ずかしくなった。
特に本書の始めのほうで記される「ナクバ」というパレスチナ人虐殺という事実には驚く。
イスラエル建国と同時期に、パレスチナ人への迫害と殺戮が起きたという歴史的事実には、ホロコーストという恐ろしい災厄の被害に遭ったユダヤ人たちがなぜ、という困惑があったが、そこには根深い人種問題が潜んでいたりすることが記されている。
人間の業の深さに戦慄する。
またアラブ文学のブックガイドとしても大変興味深かった。
世界文学のアンソロジーの一遍などなかなか手に入りにくい作品が多いのが勿体ないが、どの作品も解説と批評だけでとても面白く作品を読みたくなる。
手に入りやすい作品だと河出書房文庫から出ているパレスチナ人作家のガッサン・カナファニーの『ハイファに戻って / 太陽の男たち』、値段は高くなるが池澤夏樹の世界文学全集の短編コレクションあたりだろうか。
本書を読んでから興味を持った作品にアクセスすれば、更にアラブ文学の世界が開けてくるが、本書だけ読んでも十分楽しめる。
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アラブ文学を通して、文学全般に対してもっと掘り下げた見方ができること、またこれまで読んできた文学(小説)に対して自分の範囲内に留まっていたことを気づかせてくれる素晴らしい本だった。身近に感じる、共感することは決して悪いことではないけれど、感じたあとに、それとは別にもう一歩ふみ込むことの大事さをひしひしと感じた。
文学を丁寧に解説し背景なども含めて紹介してくれていることによって、これまで自分が読んできた海外文学の分からずナアナアにしてきた部分や、だからこそ読んでいて身近に感じたことの解像度が上がり、繋がっていくことでより見えてくるものがあって読んで本当に良かった。また文学(小説)ではなく演劇について語っている部分があり、かなり目からウロコだった。
イスラエル、パレスチナで起きていること。数字に換言することで見えなくなる個人、一人の命の重み。そして文学、物語がそのなかで果たすものとは何なのか。人間として生きるということ、決して蔑ろにしてはいけないこと。強制的に土地を剥奪されること、故郷のこと……。知ってしまうことは背負うことで逃れられなく重く苦しいことだけれど、だからこそ覚悟を持って知ることの大切さを強く思う。
何度もいうけれど本当に読んで良かった。
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アラブ文学者である著者が、アラブの世界を文学の観点から見渡し、小説を書くということ、小説を読むということの意味を問い直した本。岡真理の文章は終始切れ味が鋭く、言葉の持つ力をひしひしと感じた。これほど凛とした文章で、美しく、力強く思いを言語化することができるのか。本に宿る祈りが、そのまま結晶化したような、そのような訴求力のある本だった。
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アラブ文学を縦横に批評し、暴力、差別、ジェンダー、シオニズムなどかの地を取り巻く問題を照らす。
苛烈な環境下では文学が生まれにくい(生まれない)という指摘はまさにその通りだろう。
文学に問題を解決する力はないけれど、そこに問題があることを世界に知らしめる力がある。
声なき声を伝える力がある。声なき声それは祈りに似ている。