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紙の本
醒めた目で人間観察できる作家が教えてくれる「戦争史」解読の妙
2020/11/09 21:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者が幼少年期から青年期を過ごした「昭和前期」の想い出には、虚無的とも言える突き放した視線がある。五歳で実父を亡くし、叔父と再婚した実母の病没後、養父たる叔父と継母と田舎町養父(やぶ)関宮で暮らした著者の胸中に、葛藤があって当然だ。
山腹から家まで疾駆し大きな山百合の花を母親に捧げた「いちばん美しい想い出」をもった少年は、望郷の念に駆られても、記憶と現実の食い違いという「幻滅」を懼れ帰郷できぬ大人となった(39~40頁、「帰らぬ六部」)。
実父母との縁の薄さ、停学、旧制高校受験の失敗、家出、徴兵検査落ちなどの挫折を経て、軍需工場で働きながら医科に進学するも不向きを自覚し、敗戦の衝撃と疎外感から、人間を醒めた目で観察する作家を志す。
「あらゆる点で劣等児であった私が、まがりなりにも筆をとって暮すすべての根源は、あきらかにこの半浮浪的二十歳の前後にはぐくまれたと思う。」(33頁、「二十歳の原点」)
「昭和前期には、ただ戦争そのものばかりではなく、社会相すべてにわたって、日本人とはいかなる民族かということが、その長所短所にわたってすべて強烈無比のかたちで発揮されている」(176頁、「昭和前期の青春」)
人生最良である筈の「青春」に「ただただつらく、タノシクない」実体験と違和感をもった著者は、「不幸なときに地がねが出る」人間という生き物を冷徹に眺める癖がついた。「国家や歴史というものの怖ろしさをまざまざと見せつけ」られたのだ。
他の作品(『同日同刻』『人間臨終図巻』など)にも、幼馴染みが沢山死んだ青春期を回想するとき同様の「悲哀」に満ちた<諦念>みたいなものが汲み取れる。
「強兵」に邁進した昭和前期までの戦争漬けの時代を知る著者は、「こんどは「富国」一辺倒になった」戦後日本の繁栄を危惧し、一流の「文化」も加えて「三拍子揃わなければ一流とはいえない」ことを「やがて痛感するだろう」と予言する。
「太平洋戦争とは何だったのか」(191~194頁)では、四つの奇怪事を挙げる。
(1)日本が米英中ソを同時に敵にまわす、正気の沙汰ではない戦争を始めたこと
(2)一億総火の玉となった国民戦争史が、戦後に否定すべき嫌悪対象となったこと
(3)無条件降伏で武力と植民地を捨て去った日本が、却って経済大国になったこと
(4)日本の敗北が、アジアでの西欧列強の植民地支配の終焉(解放)を早めたこと
「太平洋戦争、気ままな“軍談”」(114~134頁)は、歴史上の合戦との対比を通じて「戦争史」解読の妙を教えてくれる、必読の随筆である。
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