紙の本
死に満ちている
2016/03/15 16:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:黒猫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
3.11から数日後「私」は子宮体癌を告知され、手術と抗がん剤を拒否し、変わりに放射線治療で有名なある本州南端のクリニックに治療の為、単身移る。日々治療を受ける中、放射線宿酔からくる体のダメージと、夢に訪れる懐かしい死者との逢瀬。同じ治療を受ける癌患者同士の交流と死。3.11の原発爆発と、放射線治療。日常当たり前に爆発し降り積もる火山灰と、教会の鐘の音。「私」には、いつも鳴り響く近くにある教会の鐘が、世界の火事を告げる半鐘のようだと語る。読んでいて、生と死のモチーフに満ちみちていて、圧倒的に絶望的で救いがない。予定していた放射線治療を終了した所で物語は終わるが、生きながら半分死者の世界を生きているような感覚とはこのようなものかと思う。最初表紙も何ら気にとめなかったが、読み進める内に、嫌に目を引き厭忌を覚えていたが、表紙の絵が「黙示録註解」写本部分の「第五の喇叭の天使」と最後に知って、合点がいった。読む者の波長を選ぶ本だと思う。
投稿元:
レビューを見る
子宮がんの王道治療を拒否し、オンコロジーセンターでの放射線治療を選択する私。娘や夫、同病の八鳥との関わりなど。火山、原発、阿弥陀仏……。心に響く1冊。
投稿元:
レビューを見る
四次元照射の癌治療を受けるために鹿児島にやってきた女性の問わず語り。村田さんの夢をいっしょに見ている感じです。ストーリーがあるわけじゃなくてもこんなにどっぷり浸れるのは、自分にもいつ起きても不思議じゃないという年になったからでしょうか。
海に沈む夕陽の情景を帯下(こしげ)と例えるなんて、村田さんにしかできないです。
投稿元:
レビューを見る
子宮がんになり、手術を拒み四次元放射線治療をするために、ひとり桜島の近くのウィークリーマンションからオンコロジーセンターに通う日々。宿酔をやりすごしながら、ねずみ200匹の致死量という2グレイ=2シーベルトを毎日照射する。
福島原発事故と時期を同時にし、桜島の噴火や、同じくガンと戦う人たちとのやりとりなど、悲しみ辛さは淡々としているところが、とてもひきこまれた。
投稿元:
レビューを見る
体内で蠢くがん細胞を噴火する活火山に見立てたような構成で、
目に見えない体内で起こっていることを、見に見える火山に重ね合わせて描いている。
がん治療という重苦しい題材だが、淡々とした筆致は必要以上に読者を煽ることなく、
小説というより長編の詩を読んでいるようだった。
5グレイのきつい照射の後の描写は、読むのもかなり辛かったが、
それ以外は心が静まり返って、なぜか無の境地にいるような気さえした。
私もがんを経験し死を身近に感じたことがあるので、
誰にでも起こりうる事という諦観があるからかもしれない。
個人的なことですが、ここのところ不眠気味だったのが、
寝る間にこの本を読むとすぐに寝付いた。
読書セラピーのような(そんなものがあるのか知らないが)
心のさざ波を鎮めてくれる不思議な本だった。
投稿元:
レビューを見る
著者が子宮体癌を患われたのを知ったのは、一昨年の春にオール讀物で杉本章子さんと対談された記事を目にしてだった。かつて講演をお聴きしてファンになったお二人が、ともに癌に襲われた。杉本さんは残念ながら余命宣告を受け逝かれる。著者のことは気になっていたが、ここに小説としてその闘病が著される。放射線治療を選択し、精神的、肉体的に追い込まれ、肉親あるいは周囲の人たちと接する余裕も失う。火山灰の降りしきる土地で、鬱々とした時間が過ぎていく。生死について大上段に構えず、飾ることもなく綴られる心理が生々しく伝わってくる。
投稿元:
レビューを見る
大動脈瘤の手術後、何一つ後遺症もなく仕事に復帰されたご主人、そして著者は東日本大震災の頃、癌の告知を受け南九州のオンコロジーセンターで療養を。村田喜代子 著「焼野まで」2016.2発行、放射線照射による闘病の記です。友人の「病気ってのは閉塞状況、囚われている。健康っていうのは自由。病人に自由も何もない。」の言葉は胸を打ちました。また主人公(著者)の「百の意見が交錯するが、一様に同じなのは健康になることへの欲望。食欲、性欲、物欲、生存欲など、欲がつくものは見苦しい。」とありますが、欲があるから人間ですよね。
投稿元:
レビューを見る
『光線』連作短編で扱った題材を長編化して描いた作品。
主人公がガンの治療で滞在する街に程近い火山島の噴火や、治療に用いられる放射線といった事柄が、病気が発見されるのと前後して起きた震災・原発事故と相俟って、また光、火、太陽といったイメージと連関されて、輻輳的に描かれているのが印象深い。
放射線治療の宿酔に疲弊し、日常や周囲の全て、家族さえ疎ましく遠退いて感じられ、現実との繋がりを喪いかけていた主人公が、当面の治療を終えて脱いだ靴を履こうと探す、それは恐らく主人公の帰還を指し示しているのだろうと思う。
投稿元:
レビューを見る
子宮体がんの治療のため、1ヶ月の放射線治療を受ける「わたし」。
その放射線センターがある町は、度重なる火山の噴火で噴煙に覆われている。
滞在するウイークリーマンションのTVからは、東日本大震災の惨状が流れてくる。
著者の実体験をもとに描かれた作品だが、
重い。重すぎる。
投稿元:
レビューを見る
描写読みやすい小説らしい文章は好感が持てる。ストーリーは淡々と経過する狭小な時間軸の断片描写で奥行きを感じない。