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科学の経済学 ポーラ・ステファン著 研究の生産性など分析試みる
2016/5/8付日本経済新聞 朝刊
科学を経済学の視点から分析しようと試みる、意欲的な内容だ。米欧の状況を念頭に置いているが、日本の問題としても違和感なく読める。科学研究はイノベーションを起こし、経済に貢献してこそ意味があるという考え方は日米欧に共通する。
イノベーションを成長の原動力とするには、科学の経済性をきちんと把握できなければならない。具体的に何に注目すればよいのか。経済学が専門の著者は全米科学財団(NSF)のプロジェクト・ディレクターから、科学は「若者のゲーム」でしかないのかと問いかけられたのを機に、この問題に取り組んだ。
科学研究のインセンティブとは何か。どのくらいの時間をかけて製品やサービスに生かされ、生産性はどう求められるのか。研究者の需給はどうなっているのか。年齢や経験、知名度は業績や評価にどう影響するのか。他の研究者の調査データや論文も参考に分析を試みている。
すべての問いに明確な解が用意されているわけではないが、科学技術政策のあり方を考えるうえで多くのヒントを与えてくれる。原著の執筆は2000年代末の経済危機の影響が完全に出る前。やや古いデータが多いのは残念だが、日本の研究者が最近の状況を巻末に補足している。後藤康雄訳・解説。(日本評論社・2700円)