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『安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから』
広島平和都市記念碑に刻まれた言葉。
この言葉の本当の意味を、私は深く考えてこなかった。
ー「過ち」とは、一体誰の「過ち」なのか?帝国陸軍か?
本当に原爆投下が戦争を終わらせのか?
地獄ともいえる惨劇の犠牲者となった人々が、果たして「安らかに眠る」ことができるのか?―
様々な論争が起こっている事をニュースで知っても、戦争を知らない世代の私はそこまで関心を持てなかった。
教科書の上の出来事。文字にすれば1ページにも満たない過去の惨劇。それが私にとっての「原爆投下」だった。
この小説で、広島の原爆投下直後の描写が出てくるが、体験していないのに関わらず情景が鮮明に浮かび、思わず鳥肌が立った。
その瞬間、私は真の意味で戦争の虚しさ、原爆の恐ろしさを理解していなかったと気付いた。
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急性の白血病を患い余命いくばくになった80代のじーちゃんが中学生のときに経験した、淡い恋物語とヒロシマと敗戦によって起きた価値観の崩壊および転換を、現在と当時の八月初旬を錯綜させて描いた小説。
正直、読んでいるときはそんなに面白い小説だな、とは思わなかった。亮輔は希恵に生き抜くための底力をもらったとは言え、己を保つために賢しく立ち回っているようには見えてもたくましいとは感じられなかったところが、大きな要因かも。僕は「それでいい」とは思えないかな。
んでも、読み終わってみてひとつ気付いた。この小説、戦争や敗戦を描いてはいるんだけど、安直に左巻きな作風にはしていない。戦時下の国内の気風を作り上げたのは軍じゃあなくて国民そのものだ、ってことをきっちり書いていたのは、とっても好印象。軍部に出ずっぱりでろくに家へ帰れない強は個人プレーで、つまりもの言わずに己の本懐を全うすることで国に尽くそうとしたことに対し、公衆への奉仕を生きがいに感じる福子は声高に、お国のために、とのたまう。どっちが当時の国民感情を煽っていたのかは明白よね。吉村昭を心酔する者としては、そういうところを書いてくれたのはすごくテンションあがるんだよなぁ。そしてだからこそ亮輔の作中での態度に狡猾さを感じていらだってしまうのよね。きみ子の担任の無神経な発言にブチ切れるシーンなんかは特にそう。作者の計算尽くであることを願う。
余談。さんざんっぱら亮輔はズルいやつって書いてきたけど、この作品のなかでいっちばんズルいのは希恵だとおもいます、はい。
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圧倒された。
戦争の、それも広島での子供時代
儚い恋
軍人の父親の死
被爆者としての生活、家族
たくさんの物事が切々と描かれていて
つらいけど、悲しいけど、
生きていくんだと、顔をあげる
ネタバレになるのだけど、
気持ちにグサッとくる一部を。。。
生きる、ということは、
わしはいままでええことじゃと思っておったが、
どうやらそうでもないらしい。
それはええことではなく、
むしろ、後ろめたいということばのほうに
近いものであることを亮輔は知った。
そして、同時に、それがどんなに後ろめたくても、
つらくても、なにがあろうとも、
ぜったいに自分から手放してはならぬものであることを知った。
なにがなんでも食らいついておらねばならぬと知った。
それが生きることである、と思った。
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原爆を落とされる前後の広島。
核爆弾投下後の生々しい描写に思わず息をのむ。
風化させない為に、と自らの体験を語る人がいる中
体験を語ることの白々しさを感じてしまう人もいる矛盾。
このぐるぐるとループする葛藤がとてもリアルで、私の頭の中もグルグルとしてしまう。
戦争は愚かだとわかっていても巻き込まれてしまう人間の弱さ。そんなものをひしひしと感じました。
原爆投下後の悲惨さに焦点を当てるとズシンと重くなってしまいそうなのですが、読後感は爽やか。
美しい、と言った方が正しいか。
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淡く瑞々しい恋と原爆の恐ろしさとの対比が見事というほかない。生きるということに疑問を感じたら読む本。
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読みづらい文体だというわけではないのに、思いのほか読むのに時間を要しました。ひとつには、偵察機のシーンには興味が持てなかったからということもありますが、そのシーンも含めてとても丁寧に書かれているゆえ、丁寧に読まなければならないような気がしたからです。
死期迫って自宅に戻った老人の少年時代の思い出。初恋の相手は父親の若き愛人。当の父親は出征して、母と子、愛人とばあやで暮らすという特異な家庭環境にありながら、各々が各々の存在を認めていたことがわかります。
あまりに瑞々しいシーンの後の被爆シーン。そのギャップに打ちのめされました。まるで合唱組曲『チコタン』だけど、心安らかに三途の川を渡れたならばいい。
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亮輔の淡い初恋、それに応える希恵、二人が楽しそうに会話する姿、川辺を散歩する姿などが微笑ましい。けれど、そんな二人の純情な恋も、1つの原子爆弾によって、無惨にも一瞬にして引き裂かれるなんて、悲しいの一言だった。亮輔が、原爆が投下され地獄絵図と化した広島の街中を、希恵と約束していた場所に行くために向かい、ようやく辿り着いたその場所で、希恵の赤い鼻緒の下駄と虫籠を見つけた時、二人が一緒に見るはずだった脱皮した青い蝶を見つけた時、なんとも言えない切なさが胸を突いて、もの哀しくなりますが、地獄の中舞うきれいや青い蝶が「なんて美しいんだろう」と思い、それが余計に切なさを増している感じがしました。
原爆が投下されてから現在まで、原爆投下に対する亮輔の思い、苦しみに、目が覚めるような思いがしました。
私達は、二度とこんな悲劇を起こさないようにもっと想像を働かせ、事実を知り、その事実を伝えて行くのが、今を生きる私達の使命だと思います。
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中学生の時に被爆している亮介。78歳になり、急性骨髄性白血病で余命いくばくもない。仏壇に隠していた蝶の標本箱。それは、あの日命を奪われた幼い少女との思い出の品だった。広島を舞台に、戦時中から現代までを描いた小説です。中学生・高校生におすすめ。
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すごく良かった!
原爆を体験した人が現在で死ぬ時、現在と過去を彷徨いながらその時を思い出す。
家族のこと、好きな人のこと。
被爆した時のこと。
読んでで辛くはなるけど、何故か読み終えると心温まる本でひた。
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本やさんで何気に見て、タイトルに惹かれて購入。
内容も分からないまま購入した。
もっと気楽に読める作品かと思っていたので、ヘビーな内容だったことに少々戸惑った。
80歳になろうかとしている死を目前にした老人が体験した、純粋な恋と原爆のストーリー。
戦争を語る人が少なくなっている中で、この作品は、広島という地域の過去、生き方、現実を突き詰めてくる。
戦時下の暮らし、風景、原爆投下直後の光景……など、丁寧な描かれていると思う。
個人的には……浅い解釈だと思うが。
青い蝶を大事に持ち続けていたこと。
父にも分からないように閉じ込めたこと。
誰にも話さないまま逝こうとしていること。
それらを話すべきではないと思いつつも、きえをいつまでも追っている気がして……
裏切りのようなものを感じてしまった。
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被爆者という事実を隠そうとした主人公。そのわけにハッとされられた。
父親の妾との初恋。全て失われたときの絶望。
とても読み応えのある一冊
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戦争を題材としたものは気分が落ち込む哀しい結末しかない物ばかりなので少し苦手でタイトルからは違うタイプを想像していたので、あれ?と期待を裏切られたスタートだった。
死を前にした被爆者の主人公が子供の頃の初恋を回想するが戦時中で今とは全く違う。
出征中にやってきた年若い父の愛人と後妻の母とまだ学生の主人公。
昆虫好きから心を通わせた2人の淡い恋。
無惨にも原爆が散らせてしまった。
主人公が自身の被爆体験を語りたくない思いを娘の学校の先生と言い争う場面でハッとした。
確かに原爆を忘れないために語り継がなくてはいけないとよく言われるが、それは体験していない者の意見であって当事者にしてみれば隠して死に怯えながら必死に生きてきて、忘れてしまいたい記憶なのに忘れることが出来ずに付きまとってくる忌まわしい呪いみたいなもの。
それを無理やり引っ張り出して語らせようとするのだから…
辛い思いで本当に酷いものだったのだと初めて気がついた気がした。
翅が少し焼けた青い蝶が特別な種類ではなくてどこにでもいるありふれた種類である事も特別ではない事だと示しているようで時代に翻弄された淡い恋がさらに切ない。
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この物語の分岐点は希恵の娘が死産(もしくは、そして恐らくは福子によっての窒息死)したことの様に思う。もし、この子がいれば亮輔にとっては妹、希恵は本物の妾になった。とてもじゃないが、求婚など出来なかっただろう。
それにしても、希恵は幼い。妾になったのにも関わらず、その息子と結婚することが可能であり、それを囲っている強が受け入れると信じて疑わない。彼女の言葉を借りれば「なりたくてなったんじゃない」からなのだろうが、甘い話だ。敗戦で強の心が壊れた状態で希恵を奪い合うことになったら、後味が悪い。臭い物に蓋、である。
男性は生涯少年の様なものだと誰かが書いていたが、それを象徴するかの様な小説だった。誰もが忘れ得ぬ恋をする訳でも、それを実らせる訳でもない。そんな恋があっただけ幸せなのかもしれない。