電子書籍
不思議な不条理な短編集
2023/02/25 22:58
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投稿者:あるごん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「不思議な小説を読んだ」というのが読んでいる途中からの感想で,読み終わっても,とにかく不思議だなあ,という感覚が一番強かった。1人のライターが伝統工芸や変わった通勤電車?などを取材して書かれたルポルタージュの形式を取っていて,記事の体裁は実にリアルなので,本当のルポのように感じてしまうのだが,書かれている内容はとても不条理で現実にはあり得そうもないものばかり。一体なんなんだ,という感じが読後も続いたが,何だかよく分からないだけに何度でも読み返せてしまう。表題作の『玉磨き』が結局,一番印象に残っている。買ったときは,名前から著者は女性だと思い込んでいたけれども,男性のようで,そちらも軽く驚きました。
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2013年刊行の単行本を文庫化。
『架空の職業についてのルポルタージュ』という体裁で、6つの短編が収録されている。参考文献も架空のものが並んでいて、凝った構成。
表題作は『玉磨き』だが、『只見通観株式会社』や『ガミ追い』の方が印象に残った気がする。1冊のタイトルとしては『玉磨き』の方がいいのかなぁ……。『新坂町商店街組合』は『失われた町』や『バスジャック』などの初期作を思わせる内容だった。
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三崎さんには「廃墟建築士」に代表されるような建築物や町に対する強い執着心と、「動物園」のような職人に対して強い思い入れを持つ2つの系列があるようです。
この作品はは職人の世界ですね。もっとも三崎さんのことですからとてつもない職業ですけど。
なんとも非現実的で幻想的世界。主客が逆転した論理。考えてみれば安部公房に似た世界です。そう思って調べてみると「エンタテインメント界の安部公房」と称した書評に当たりました。うん、確かに。
結論のわかりにくい物語ですが、三崎さんの描く不思議な世界で遊ぶのが(いや、遊ばれているのか)なかなか楽しいのです。
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三崎亜記の玉磨きを読みました。
不条理な設定の短編集でした。
ルポ記者がいろいろな伝統技能や不思議な仕事を取材するという形式で書かれています。
三崎亜記の小説ではいろいろな不条理が描かれますが、その不条理と対峙する人間たちがいきいきと描かれているため、なぜか昔体験したり見聞きしたりしたことがあったような不思議な既視感を感じてしまいます。
現在は仕事上では効率が最優先されて、その仕事に関わる人間が充足しているかどうかは問題にされません。
マニュアル化などという人間の充足を否定する方向で仕事が規定されてしまうこともあります。
効率最優先とは対極的な物語を読むと、自分は仕事に満足しているんだろうか、と考えてしまいます。
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三崎さんの作品はフィクションとわかっていながら、何処か現実とリンクしているような不思議さがあります。
表題の玉磨きという作品も、一名しか残っていない伝統産業の技を続けている人の取材という内容ですが、何とも奇妙でありながら愛着を覚えます。通勤観覧車を運行している会社を取り上げた作品も然り。日常的にありがちな光景に見出す発想力にいつもながら感心します。
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一人のルポライターが、消えようとする、あるいは失われようとしている6つのものについて取材したルポルタージュの体裁を持った短編集です。
伝統産業、奇妙な公共交通機関、とある世代、見えないものを狩り立てる儀式、ある部品を作り出すための業務形態、海に沈んだ町、がそれらにあたります。と言ったところで、何のことかわかりませんよね。
三崎さんの作品は、それぞれ突拍子もない設定なのですが、それ以外の点(個々の登場人物の営みや行政の描かれ方など)が、とてもリアルで「自分が知らないだけで、世間にはこんなことがあるのかも」と信じさせられそうになります。
読んでいる間、不思議で独特な雰囲気(静かで淡々としていながら、時々思わず心がざわつかされる)に取り込まれ、読んだ後もしばらくそれに心が絡めとられてしまいます。
ハマるとクセになること間違いなしです。
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面白かったです。
失われつつある仕事について描かれた三崎ワールド、堪能しました。
どのお話もどこか切なくて良かったのですが、一番好きだったのは、通勤観覧車を運用する会社についての「只見通観株式会社」です。どこにも進めない路線の通勤観覧車、乗ってみたいです。
「只見通観株式会社」と、ラストの「新坂町商店街組合」は三崎さんの他の作品と繋がる世界でした。海の襲来、という自然災害は、安土萌さんの「“海”」を思い出します。しかしこちらは政府の思惑も見え隠れしますが…。
三崎ワールドではよくある「検索忌避制度」は怖いです。
巻末の参考文献も面白かったです。
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現実にはあり得ない、かつ読んでも何も生み出さないように思える職業に就く人たちを描く三崎作品。
何かを隠喩しているような気もするし、かと言って具体的には何も分からないけれど、何故か魅力を感じてるしまうのが不思議です。
ちなみに本書で一番好きなのは通勤観覧車です。
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「なんだそれ?」って思わず言ってしまうような不思議が当たり前に存在する不思議短編集。
見えないもの、消えてゆくもの、失われたもの…どれも切なさを感じた。
特に通勤観覧車が面白かった。
発想力に度肝を抜かれます。
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なくなってしまいそうな文化、工芸、職業について取材した記事をルポ形式で綴る短編集
表題作の「磨くこと」自体を職としている人や、「通勤」を提供する観覧車のようなサービス(電車の様な乗り物だが移動はしない)など、無さそうなモノを在るかのように描く。
「記事として書いたモノ」なので、無理矢理教訓につなげて終わらせている部分もあり、いつも三崎作品の「あとがきや解説」で書かれているようなことが作品内で語られている違和感がありつつ、ぼんやりと読んでいた。
何に使うかわからない「部品」を作る職業の方々を描いた「分業」が良かった。「設計図」という絵や地図、仕様書など様々なドキュメントから設計を読み解き「部品」を組み立てていく人達が少し前に見た"障害を持つ方がアート作品に打ち込む姿"と重なった。その人にだけ形が見えて完成形を目指す。でもそれは部品としての完成で…とか「全体」と「部品」について考える。
「失われるモノ」や「見えてないモノ」をどう感じるかについて、三崎作品共通のテーマが提示されるが、そんなに印象的でもなく…短編なので入門編としては良いのかも。
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ルポライターの私は、取材のために全国を訪ね歩いていた。どこへも辿り着かない通勤用の観覧車、ただひたすらに玉を磨く伝統産業、すでに海底に沈んだ町の商店街組合…。そこで私が出会ったのは、忘れ去られる運命にあるものを、次に受け継ぐために生きる人人だった。今、この瞬間にも、日常から消えつつある風景を描いた、6つの記憶の物語。
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創作と分かっているのに、現実にあったもののように感じてしまう不思議さは変わらない。いつもの三崎亜記だ。愚直に、あるいはひそやかに貫く、それぞれの信念や義務感、そして郷愁。そうした存在もまたそう。刻まれない明日や他作品と同じように。