紙の本
あなたならこの作品を芥川賞に推すか
2016/08/16 07:52
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第155回芥川賞の選評が「文藝春秋」9月号に掲載されている。
面白かったのは、それも近年まれにみるぐらい、高樹のぶ子委員の「胸を打つ、という一点」と題されたそれである。
今回の芥川賞受賞作はご存知の通り、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』だが、その作品に触れることなく、まして他の候補作など眼中になく、ただこの本、『ジニのパズル』がいかに素晴らしい作品かを論じた短評になっているのだ。
これはなかなか珍しい。
この作品は2016年に第59回群像新人文学賞を受賞した。
作者崔実(チェ・シル)は1985年生まれということだが、この物語の主人公ジニはまだ中学生だ。時代は北朝鮮がテポドンを初めて発射した年1998年だから、ほぼ作者の年とダブってくる。
小学校を普通の日本の学校で過ごし、中学から朝鮮学校に通い始めたジニ。
ちょうど思春期にあたる頃、自分の出自と向かう合うことになったといっていい。子どもから大人に変わる苛立ちが、言葉の差や民族の違いと重なっていく。
やがて、ジニの怒りの対象は学校の壁にかかる北朝鮮指導者の写真へと向いていく。
小さなジニにとって、「革命」という言葉は大人の世界に燦然と輝くものだったのだろう。写真を棄てること、それがジニの「革命」となっていく。
ジニの行為は幼いのか。
あるいはこう言い換えてもいい。ジニの行為を描いたこの作品は未熟なのか。
高樹委員は「この切実で圧倒的な魂の叫びを潰してはならない」とまで書いているが。
紙の本
力強いデビュー作
2016/08/05 15:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K.ザムザ - この投稿者のレビュー一覧を見る
表現にはまだ初々しさが見られるが、そんなことが気にならないほど力強い作品だった。
主人公・ジニの違和感、苦しみ、怒りが痛いほど伝わってきて、ラストシーンでは思わず泣いてしまった。
世の中には受け入れ難い事象が数多ある。それでも、受け入れること、受け入れられることで皆が輝くことができる。そう強く叫んでくれる本書と著者に感謝したい。
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悩み抜いた少女が「空を受け入れる」までになる、心痛くて、でも強い強い心の物語。
2022/02/28 13:24
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投稿者:mitu - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の少女ジニは、中学から入った朝鮮学校に馴染むことが出来ない。
そんなある日、テポドンが発射される。
制服のチマ・チョゴリを着て池袋を歩いていたジニは、見知らぬ男達に、いわれのない暴力を振るわれてしまう。
どこにも、その悔しさ、理不尽さをぶつけられぬジニ。
学校を休み悩み抜いて出した結論。それは教室に飾られた「あの肖像画」を教室の窓から投げ捨てる事だった。
「空が落ちてくる」と、そのどうしようもない閉塞感を感じた少女が、友との対話の中で「空を受け入れる」までになる、心が痛くて、でも強い強い物語。
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エネルギーを感じた作品
2017/02/28 22:01
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投稿者:mame - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんだろう、この若さあふれる新鮮な感覚。
ジニが時折パーンと爆発する様が気持ち良くもあり、切なくもあり・・・
つらい事・うまくいかない事だらけなのに、何気ないユーモアと、ジニの生来の真っ直ぐなキャラクターが清々しく、笑ってしまう場面もあって楽しく読めました。
どうにもならない現実の厳しさ、それでも生きていける希望を感じさせてくれる物語。
今後の作品が楽しみです。
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在日朝鮮人少女の抱える空色の青春小説
2017/01/28 06:54
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投稿者:baron - この投稿者のレビュー一覧を見る
第59回群像新人文学賞を受賞したチェシルさんの小説。
日本人にはまず書けないでしょう。
日本人と韓国人との狭間で自分のアイデンティティが揺らぐ少女ジ二の気持ちがとても悲しく、でも、とても美しくもありました。
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5月に読んだ本。群像新人文学賞受賞。ジニの、朝鮮学校に通うことで経験したことと、そこで出会う人への想いと、北朝鮮への幼いながらの考えが実話かと思う程だった。それに向き合う力が、この特殊?な状況でありながら、大人への、なんとなくやり過ごしてしまう性質への反抗という、普遍的?なもので、高校の時など思い出すと、すごく身近だった。今となっては、自分は、ジニの立場でなく、大人の立場だと思うと、やっぱ大人になんてなれないと思った。
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第59回群像新人文学賞受賞作。
出だしは、岩城けいの『さようならオレンジ』に近いかなとも思ったが、そこまで純文学ではない。
在日朝鮮人が主人公であり、在日朝鮮学校のスクールライフを描いているという点ではあまりないパターン。
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「群像」で読んだ。ジニという日本出身コリアンの青春記。
日本の小学校に通っていたジニは中学で十条の朝鮮学校へ。そこでなじめず、金親子の肖像画の額を外して投げ捨てたりと「問題行動」を起こした末に放校、その後アメリカへ。
冒頭のアメリカでのシーンは「ライ麦畑~」を思わせた。私があまり得意ではない翻訳小説風。そこからは激動の朝鮮学校のパート、そして最後のアメリカでのシーン。静と動がはっきりしているし、突き刺さってくるようなコリアン特有の心理表現が鮮烈だし、朝鮮学校の中の描写も興味深い。だけど最初と最後のパートとのつなぎが弱い気がして、その点は残念。だけど鮮烈。ずっと心に残り続けるはず。芥川賞獲るでしょ。
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芥川賞候補
たったひとりで学校と、社会と、国と闘おうとした一人の少女。
日本に生まれ、日本語を話し、日本で育ったのに、日本人じゃないとこの国から言われる
ことの理不尽さ。
一人闘い続けたラスト、彼女のただひとつの願いがかなったその瞬間に私の中の全ての
扉が開くのを感じた。
そうだ、私も受け入れねば。この国に生きるものとして。
近くて遠い隣に国のことをもっとよく知るために。
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期待が思っていたより大きかったのか、読み終わって、「う〜ん」という感じ。
たぶん、女性作家による少女の微妙な心理描写が、私にはその細かなひだまで読み取れなかったのかなあ?
まあ、昔に詰め込んだ余分な知識が邪魔してるかも(^_^;)
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ジニの革命は、私がやりたかった革命だ。
既存の価値観に縛られているくらいなら死んだ方がマシ。
何が悪いのか。何がこの社会を悪くしているのか。
その全てをぶっ壊す。革命だ。革命だ。ぶっ壊す。
私を守るために、私たちを守るために。
すごい青春小説。
女の子視点というのが、私からすると面白かった。金城一紀さんとはやはり違う、もちろん世代が違うからアレなのだけれども。
くっそ魂こもっている。文章はうまくないと思う。だけどやっぱりこちらの何かを叩くものがある。こういう人間がもっと多くなればいい。
崔実さん「ジニのような激しい生き方がいいとは思わない。でも、あのようにしか生きられない少女もいる。人は、人でしか癒やされない。誰かの胸に文章が届いたらうれしい」
しかし正直に言うと、苦しくもなった。
このやるせなさは、誰もが感じるものなのだろうか、そうではないのだろうか。
ここまでいってからが、勝負だとも思う。
著者は私と一歳違い。もしこれが少女時代の体験を元にしているなら、なぜ私はそこにいなかったのだろうか、悔やまれる。
もちろん、自分が自分で自分を救わなければならないのは確かなのだが。
このまま何もしないジニでいるなんて、他の星が輝けばいいだなんて、思わないでほしい。
革命は、若い人の特権なのだろうか。
私は諦めないよ。
2016.7.24.
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息苦しく生きにくい世の中でどう生きるか、諦める事が成長なのか、自分を抑えて息を潜めて生きる事が大人なのか。大人の私は、生きづらさを抱える原因の一つとなった出来事や時代について考えてしまいます。中学生・高校生くらいの大人未満の人が読んで、ジニと一緒に考えてもらいたいと思いました。読後感は良いです。
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中学から朝鮮学校に編入したジニの体制に対する疑問は、民族の長い歴史が背景にあると思います。
作品から、作者の強い主張を感じます。
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なんて強い物語なんだ。
なんて強く、美しい物語なんだ。
群像新人賞受賞作。芥川賞候補。1985年生まれの作家さん。
喜怒哀楽の中で、最も強い『怒』の感情を惜しむことなく発露している。まっすぐすぎて怖くなるほど。抑えきれないほどのエネルギーが漲る文章は、それ自体が熱を帯びている。すごい。すごい。こんなに揺さぶってくれる小説に出会えて幸せだ。
オレゴン州の高校を中退になる、哀しい目をした主人公・ジニは日系朝鮮人。ホームステイ先のステファニーに、5年前の東京での出来事を告白し始める。
中学から朝鮮学校に通い出したジニは、一人だけ朝鮮語が話せず居心地の悪い思いをしていた。北朝鮮がミサイルを打ったというニュースが日本中を駆け巡ったある日、チマ・チョゴリを着て登校した彼女を襲った理不尽で侮辱的な出来事。学校全体を包んだ攻撃的な視線。子どもたちが何をしたっていうの?
彼女は決意する。革命家になると。歴史に囚われて差別を生んでいる大人を憎み、政治的なものを破壊する。
ほとんどの人間が、彼女の同級生のように「関係ない」「深く考えたことない」で終わることだろう。そんな中、大きなものに立ち向かう彼女の道は苦しく険しい。
でも、こんなに美しいものって、ないよね。戦う彼女の姿を頭に描いた私の目から、涙が止めどなく溢れた。ステファニーに出会え、落ちてくる空を受け止めることを知った彼女に、居場所ができますようにと願わずにはいられない。
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第59回(2016年)群像新人文学賞受賞作。主人公は、日本の小学校を卒業し、中学から朝鮮学校へ進学した在日韓国人3世の少女。学校でも社会でも異質な者として扱われることへの戸惑いや怒り、悲しみ。とある事件を経て普通の少女が「革命少女」へと変質していくくだりが鮮烈な印象を残す。