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橘さんは名古屋大学出版会の編集長をしていた人である。ぼくはかなり前からこの名古屋大学出版会の出す本に注目していた。出す本が専門外の人間が読んでも面白いし、また次から次へと賞を獲得するのである。これだけ賞を取る出版会もまれである。日本語では、ひつじ書房がそうで、ここの房主の松本さんにぼくは一目置いている。だから、本書が出たとき、ぼくはこの出版会を率いる編集長とはどんな人で、どのような考えで本を作っているのだろうと思いすぐに買ったというわけである。出版社には持ち込み原稿というものがけっこうあるので、それを審査すれば本がどんどん生まれそうに見える。しかし、橘さんは、それだけでなく、自ら著者を発掘し面白い本を書かせるのが編集者の醍醐味なのだという。その一例として橘さんは『漢文脈の近代』の著者斎藤希史さんにこの本を書かせるまでの過程を細かく紹介する。ぼくはこの本はもっているが、まだ読む気が起こらなくて積ん読状態であるが、気になる本であることは確かだ。橘さんは持ち込み原稿の審査、査読にもふれている。これは人ごとではない問題だ。原稿の審査ではアメリカが厳しいので有名らしい(ヨーロッパでもそれは同じようだ)。しかし、たとえば一つの原稿を二人の専門家に目を通させることは容易なことでない。だから、橘さんは、まず編集者がどう判断するかが大切で、それからだれかに読んでもらって意見が分かれたときに二人目を探せばいいと言う。ぼくもそれでいいのではないかと思う。大事なことは編集者の見識である。