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著者はつい最近まで日銀の審議委員を務められていたが、さすがに素晴しい知見である。現在の黒田日銀の意図と狙い、そしてその差鉄までもがキッチリと描かれている。
本書の優れた所は、日経新聞を読み込んだ程度の小生にも、黒田日銀、アメリカFRB、欧州ECBの金融政策をエッセンス程度とはいえ、解ったような気にさせてくれるところである。
しかし読後に思ったのだが、各国の中央銀行はなんと無理をしていることか。
本書で綴られる三つの中央銀行の風景は、まるでサーカスの空中ブランコのような危うさを含んでいるようにも思えた。
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本書は、2016年3月まで日銀政策委員会審議委員を務めていた白井さゆり氏による、近年の金融政策について、日銀と海外の中央銀行の両面から細かく解説した本である。本の内容としては、金融政策の理論的な面に触れつつ、近年の特異な市場反応をはじめとした実際の金融政策の効果について解説しており、理論と実践のバランスが取れており非常に理解がしやすかった。また、白井氏は元々の専門が国際金融であるため、海外の金融政策についても知見が豊富であり、海外と日本の金融政策を比較しながら解説してあり、そのような点も非常に興味深かった。
自分は昔マクロ経済学で金融政策を学んでおり、現在では金融についてはなんとなく覚えている程度だったので、本書を読むことで近年のトレンドをつかもうと思ったのだが、それのみならず昔学んだ理論がどれほど当てはまっているのかなどについても知ることができたのでとても読んでて楽しかった。例えば、イールドカーブやフィリップス曲線は近年はフラット気味だという話はとてもリアリティがあり興味深かった。マクロ経済学もだいぶ忘れているので、時間があればまたマクロ経済学をきちんと復習した上で、本書を再度読んでみたいと思う。
以下、素人的発想かもしれないが、本書を読んで、今後ますます行動ファイナンス論的な観点から方法論的個人主義的に金融政策を評価する時代がくるのではと思った。一方で、無論マクロ的側面も重要だし、行動ファイナンス論にしても実際企業および個人の異質性をいかに捉えモデルに組み込む
かも重要な観点になってくるだろうと感じた。
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はじめに
第1章 本書の目的と審議委員としての経験
第2章 金融政策を取り巻く環境の大きな変化
第3章 なぜ世界の主要中央銀行は2%の物価安定目標を目指すのか
第4章 金融政策の正常化に向かう米連邦準備理事会(FRB)
第5章 異次元緩和を継続する日本銀行―緩和不足批判から緩和過剰批判へ
第6章 非伝統的政策の本格的開始が遅れた欧州中央銀行(ECB)
第7章 物価の安定と金融システムの安定―どちらが優先されるべきか
第8章 金融政策と財政政策―ヘリコプターマネーと政策協調はどう違うのか
参考資料
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これまでの日銀会合での白井さんの意見と、政策の意図が確認できて良かった。米欧との比較もわかりやすかった。
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2011年4月~2016年3月 日銀政策委員会・審議委員
リーマンショック 2008年末FRB 金融緩和
2013年 日銀→株高、通貨安
2014年 ECB
FRB 引き締め→資産価格の下落を連想させる経済ニュース→市場が過敏に反応
日銀2017年度中にインフレ2%程度の達成を目標
2016年6月23日英国EU離脱→ポンド急落、円高
ドルだけが金融引き締め→ドルの過大評価→ドルと逆相関の原油、新興国の通貨安、資本流出
日本2013年4月 量的・質的金融緩和QQE→人手不足になるほどの雇用回復
2014年10月 資産買入れ額の拡大による追加緩和
2016年1月 マイナス金利発表 当日、翌日は株高、円安→その後、株安と円高
マイナス金利導入後、貸出金利は限界に近いところまで低下→しかし、消費、住宅、設備投資が強まる傾向なし
ユーロ圏 失業率10%・需要不足
FRBの金利引き上げペースは?
日銀の金融緩和の行方は?
ECBの金融緩和をめぐる域内対立の高まりは?
金融政策 年8回の金融政策決定会合=機動的→財政政策は国会、予算、審議…=時間がかかる
株と原油価格の正相関 原油下落でアメリカ経済改善→株価上昇の従来の考え方は成り立たない
資源国の備蓄した外貨→世界へ投資 資源価格の下落→資金の引き出し→株下落
均衡利子率→完全雇用の状態で成立する実質金利→潜在成長率と同じ方向で動く
もし実際の金利が下回ると、金融引き締め的な傾向
ドイツ デフレなし 2000年頃から労働人口減少→生産性の伸び率高い
日本の少子高齢化→デフレ圧力を高めているとの指摘あり・インフレの説もある(シニア層は消費性向が高い)
中央銀行 2%を目指す→デフレにならないためにその程度のインフレがバッファーとして必要
FOMC連邦公開市場委員会 金融市場調節方針を決定→ニューヨーク連銀のトレーディングデスクが資金を供給、吸収
FOMCのメンバー12名(FRBのメンバー7、ニューヨーク連銀総裁、4名の連銀総裁)
米国 住宅バブル崩壊、金融危機→信用縮小
2007年9月 5.25%あった金利→2008年12月には0.25%
2015年12月に最初の利上げ
超低金利が長引くと金融システムが不安定化 1990年代・ドットコムバブル 2000年代・住宅バブル
日本 2010年10月・包括的な金融緩和 ゼロ金利
2014年度以降 毎月13兆円程度の金融資産を期限を定めずに買い入れ(国債2兆、国庫短期証券10兆、社債やCP1兆)
2014年度中の基金 111兆円(国債44兆円→48兆円
導入当初=一定の効果 欧州債務危機、3・11、タイ洪水、日中関係の緊張→デフレ脱却ならず、超円高
小出しで大胆さに欠ける→日銀はデフレ脱却に消極的なイメージ
量的・質的緩和①予想インフレ率の引き上げ②国債買い入れ増額③リスク性資産の増資(ETF、J-REIT)④2を強調したコミュニケーション 2%インフレ、2年以内…
2014年4月・消費税アップ、原油価格低下が物価下落の要因を注視→2014年10月黒田バズーカ
マネタリーベースを年間60~70兆円ペースを80ペースへ
国債の買い入れペースを保有残高の増額を年間50兆円から80兆円へ
国債の平均残存期間を6~8年から7~10年程度へ延長
ETF 年間1兆円→3兆円 J-REIT300億円→900億円
3を意識した表現
2016年1月 マイナス金利を突然導入(原油価格低下、新興国の経済先行き不安が理由)
筆者=時期尚早と考える・広報戦略が必要だが、不十分 国債買い入れの限界を日銀が認めたと市場に受け止められかねない
導入時→ドル118円~120円 株価1万8,000円 極端な動き
経済・物価の基調よりも目安の株安・円高や海外機関投資家による追加緩和期待を重視したと捉えた市場参加者も多い
テーパリング=国債の買い入れの増資ペースを縮小する局面
中央銀行 準備預金制度→銀行は一定比率(準備率)の預け入れが義務 超えて預けている当座預金が超過準備額
2015年12月の日銀の当座預金 252兆円、うち超過準備金243兆円 付利金利0.1%なら日銀は銀行に2430億円を払う)
なぜ、預金金利(付利金利)はプラスが適用されるのか?
①日本は国債以外の債券市場が小さい 国債=銀行、年金基金、保健会社、機関投資家が購入 金融機関の立場では、満期まで持つか、日銀に売却し、当座預金を維持し0.1%の利息収入(付利金利が+ならば、日銀に売却する動機になる)
②国債利回りと付利金利との間である程度の裁定 国債利回りの低下に歯止め
③金融機関の貸し出し利ザヤが極端に縮小するのを防ぐ。
④短期の金融市場の機能を維持 日銀に当座預金のない金融機関(投資信託、保険会社、年金基金などのノンバンク) 銀行間取引を成立させる
2016年1月 付利金利の階層構造方式 0.1%→基礎残高適用(大半☆マイナス金利のイメージとは違い従来と変わらない)、0%→マクロ加算残高、マイナス0.1%→政策金利残高
☆日銀に預ければすべてマイナス金利が適用になるのではない。
マネーリザーブファンドMRF 個人投資家が証券総合口座を使って証券取引、ATMによる現金引き出し、預け、借り入れもできる
→マイナス金利で元本割れは問題、日銀の政策とも逆行→マイナス金利の適用から除外
効果 住宅ローン金利低下 社債の償還期限の長期化→有利な条件で資金調達
対外投資が活発化 J-REITに資金流入
問題 国債価格の高騰 日銀が大量に買う日銀トレード 将来のテーパリングを市場が織り込んでいない
イールドカーブのフラット化(長期でも低利率)→日本では2%インフレが実現しないとみる国民、市場が多い→超金融緩和は長期間続く
国債を満期保有→損失 国民にとって運用対象資産の選択肢が減る→貯蓄から投資への動きに逆行
企業の退職給付債務→割引現在価値が計上…本業とは無関係→BS、CFで判断すること☆株取引に注意
企業会計基準委員会2016年3月 会計上の対応を協議
緩やかなデフレになれている家計は物価上昇を望まない→なぜ2%アップが必要なのか広報を充実させるべき
ECBは2014年6月から非伝統的金融政策に着手 量の拡大を回避するために先にマイナス金利を導入→結果的に量の拡大
ユーロ圏→非居住者の国債保有が全体の半分以上 ドイツ=発行額が償還額を下回る→国内の銀行、機関投資家に依存しない
日本=大半が国内の銀行、機関投資家→日銀の付利金利の役割が大きい
物価の安定か、金融システムの安定か?の議論 マクロプルーデンス政策
スウェーデン中銀 2010年利上げ
クルーグマン教授「利上げすれば、デフレになり日本化する」
1969年ミルトン・フリードマン ヘリコプターマネーの考え方①1回限り②中銀は拡大したBSを永遠に維持③中銀による無利子・永久債の引き受け
量的緩和→いずれ政府が国債を買い入れてもらう内外の投資家を探さなければならない・増税、歳出削減あり
非伝統的財政政策 ドイツの例 2005年メルケル首相誕生・財政再建の必要性
2005年11月 VATを15%から19%へ 消費減への影響なし
クルーグマン 現在の日本は→少子高齢化で長期停滞が続く・均衡利子率も低水準のまま推移することが見込まれる→金融緩和で無責任になることを公約としてもインフレになることを信じなければインフレにならない
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エコノミストによる金融政策の解説書。日銀の政策委員を務めている時に行った金融緩和政策について、実施の詳細と意図、効果を正確に書いている。また、米欧の金融政策の詳細と、それぞれの比較など、学術的に有意義な書籍だと思う。ただ、私の知識が浅いため、すべてを吸収することができなかった。
「日本を含むアジアの輸出が大きく伸びていくことは期待できないといえます。日本を始めとする主要国は。輸出の量よりも付加価値の高い輸出を増やして、企業収益を高めることに軸足を移しつつあり、この傾向はさらに拍車がかかると思われます。また、このことは金融緩和の副次的効果として通貨安をもたらしても輸出量の拡大には結びつきにくいことを示しています。中国を含むアジアでは、そうした変化を踏まえた新しいビジネスモデルの構築が必要になってきています」p41
「人口の伸び率の低下は、技術進歩や生産性の停滞とともに、投資機会を減らして貯蓄超過をもたらすこと、政府が介入して総需要を増やさなければ経済成長は低下することを警告しています」p47
「そもそも主要中銀がなぜ2%を目指すのかを考えて見たいと思います。本来、物価安定とは「物価が上昇も下落もしない状態で、インフレがゼロ%程度で推移する状態」を指しているはずです。それでもあえて2%を掲げる理由は、デフレはインフレよりも望ましくないので、デフレに陥るリスクを減らすためにその程度のインフレがバッファーとして必要だとの見方が、世界で共有されているからです」p57