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天平から奈良時代、太字で書かれた歴史の行間を埋めるように綴る短編集。
この時代の書き手は現在少なく、貴重だ。
血なまぐさい政変の相次ぐとき、権勢や名声も明日には失われ、小舟の漂うが如きの運命を生きる人たちを垣間見る。
『凱風の島』
遣唐船で帰国の途、鑑真との一時の縁を持った、藤原仲麻呂の息子、刷雄(よしお)
四隻仕立ての船団は、乗った船により運命が分かれる。
『南海の桃李』
吉備真備は、先の遣唐使から帰国の折、同行の友、高橋連牛養と、「嶋牌(しまふだ)」を立てようと約束した。
南海に点々と連なる島々に案内板を立て、どの島に船が漂着しても現在地がわかるよう、海の道しるべにしたいと思ったのだ。
『夏芒(かぼう)の庭』
官吏を志し、大学寮に学ぶ青年たち。
政変が彼らの身内を襲い、悲劇が起こる。
『梅一枝』
立身出世よりも書を愛する生真面目な役人、石上朝臣宅嗣に降ってわいた災難(?)
なんと、行方知れずになっていた従姉が、密かに高貴な方の子を産んでいた⁈
『秋萩の散る』
失脚後、下野の寺に蟄居させられた道鏡の、女帝へのさまざまな思い。
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孝謙天皇時代の短編集。
阿倍仲麻呂の帰国と鑑真来日。
吉備真備が南海の列島に渡る話。
『孤鷹の天』ででてきた大学寮の学生たちの諍い。
石上宅嗣に降ってわいた災難。
そして、表題作の流罪後の道鏡。
里中満智子の漫画『女帝の手記』を読んでいたらよくわかる、この時代の逸材が、やや情けない感じで描かれている。
個人的にお気に入りは「南海の桃李」。
歴史上の人物でも所詮は俗物。
人間らしい悩みもあっただろう。
女性の歴史小説家にしては硬質な文章で、描き手の少ない時代をよく書けている。柿本人麻呂の話が読んでみたかったり。
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753年頃、鑑真や遣唐使の時代で珍しさという点で面白い。
《凱風の島》《南海の桃李》《夏芒の庭》《梅一枝》《秋萩の散る》5編
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奈良時代中期を舞台とした歴史小説集。
・凱風の島
・南海の桃李
・夏芒の庭
・梅一枝
・秋萩の散る
の5編収録。
阿倍女帝(孝謙天皇)にかかわる人たちが描かれています。
物語中では阿倍女帝(孝謙天皇)とあったので、重祚後は称徳天皇が正しいと思いましたが、作者の専門が専門は奈良仏教史でもあることから、阿倍女帝の諡は孝謙が正しいのでしょう。
登場人物が実在の人物が多いので、この時代の背景が分かっていないと、歴史小説としては難しいと思いますが、時代小説と割り切れば面白いと思います。
この時代の小説は永井路子の「氷輪」とか黒岩重吾の「弓削道鏡」を昔読んだので、時代背景はわかっていてよかったです。
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江戸ものと違い、難解な文章です。
鑑真僧が登場し興味は湧いたのですが、仏教史専門の著者の言葉がすんなりとは入ってこない。
これから勉強というところでしょう。
最後には、萩の一片と女帝とを結んだ美しい文章を感じられてほっとしました。^^
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とても面白かった。
奈良時代の短編集。
「凱風の島」
藤原仲麻呂の子・刷雄が唐から帰ってくる話。
「南海の桃李」
吉備真備が太宰府にいたときにしていたこと。
「夏芒の庭」
佐伯上信。大学寮での話。間接的に橘奈良麻呂の変。
「梅一枝」
石上宅嗣の話。
「秋萩の散る」
道鏡が流された下野国での話。
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目次
・凱風(がいふう)の島
・南海の桃李
・夏芒(かぼう)の庭
・梅一枝
・秋萩の散る
奈良時代の、聖武天皇から称徳天皇くらいまでの時代を描く短篇集。
重なる登場人物はいるものの、連作ではない。
唐の反対をかいくぐって鑑真を日本に連れ帰ることになってしまい、外交問題の発生を恐れる遣唐大使と、今さら日本に帰りついても厄介者扱いされることが明白な阿倍仲麻呂。
日本に無事帰りたいけど、帰った先に待つのは地獄。
二つに割れた気持ちの板挟みになる二人のエリート官僚(貴族)の気持ちが哀しい『凱風の島』
日本と唐をつなぐ懸け橋として、沖縄周辺の、200もの島々に道しるべとなる碑を作ろうとする吉備真備と高橋連牛養の友情『南海の桃李』
朝廷の権力闘争に巻き込まれる、大学寮の学生の悲劇『夏芒の庭』
いてはならない聖武天皇の隠し子であるという久世王。もし存在がばれたら孝謙天皇の逆鱗に触れることは必至。なんという厄介者が自分を訪ねてきたのか、と思った石上宅嗣が、人となりにふれるにつれ久世王に温かい思いを抱くようになる『梅一枝』
称徳天皇の死後、彼女に冷遇された貴族たちの憤懣を称徳天皇に向けないため、あえて汚名をかぶることにして、都落ちした道教の、称徳天皇への愛憎。『秋萩の散る』
国を守る、国のために生きる、国に活かされる。
奈良時代のエリートたちが必死に生きた時、儚い温かい切なさが立ち上る。
石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)と言えば、芸亭(うんてい・日本で最初の公開図書館)を設置した人。文人の頂点。
ところが、気が弱くて咄嗟のときにわたわたしちゃう、この『梅一枝』の彼は、全然エリート臭くなく、久世王の命よりも自分の立場を考えちゃった自分を深く恥じるあたりが大変かわいらしいのです。
この『梅一枝』と『夏芒の庭』をもし漫画化することがあるのなら、清原なつのでぜひ。
ひとつ残念なのは、寧楽(なら)とか阿児奈波(あこなは・沖縄)とか、表記のこだわりが随所に見られるのが、結構煩わしい。
“ぐしょ濡れになった幞(ぼく)をかなぐり捨て”の幞って何?
“約二百の島々が青い海に浮かべた瓔珞(ようらく)の如く連なっている。”の瓔珞って何?
のように、頻繁に言葉に引っかかりを感じるので、せっかくその世界に浸りかけてもすぐに現実に戻って立ち止まってしまう。
もっと奈良時代をちゃんと味わいたかった。
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753年の遣唐使の話(有名人わんさか)
続いて、吉備真備が沖縄諸島設置した
嶋牌のエピソード(実話なのかな…)
奈良麻呂の変に巻き込まれた下級官吏
久世王は土壇場の機転でピンチ脱出話
※実在の久世王とは時代だけ一致する
短編も面白い