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紙の本
素直に、いい!
2018/10/17 08:43
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代劇ものにおける推理小説です。推理小説というと現代版ばかりをイメージしますが、本書は江戸期版です。うちの長女(小5)に薦めたところ評価は良かったです。なかなか無いバージョンですが、普通に痛快に味わえます。ただ昨今にみられる叙述トリックとか、そういう奇抜性に欠けており、正統派推理小説という体ですので、今の時代からすると古典的な様相はあります。映画化されても若干地味なんだろうなぁ・・・。でもこういう小説は貴重な気がします。
紙の本
消えた女を探す伊之助の探偵時代小説。彼と一緒に歩き回っている気持ちにさせられる筆致が魅力。
2010/04/10 19:19
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
「彫師伊之助捕物覚え」シリーズ第一弾。
目次を開くと9つのタイトルが目に入る。その9つのタイトルは各章に付けられたものであり、本作品は一巻で物語が完結する長編作品となっている。
消えた女・おようの捜索を中心に描かれているこの作品は、とことんシリアスで、登場人物たちの心の奥底に沈んだ辛い思いを丁寧に写し出している。
全体的に重苦しく緊張感が漂う内容ながら、読者の気持ちを暗く湿っぽくしてしまうものではなく、結末に待っている抑圧の開放感は気持ちがいい。
主人公の伊之助も、心に傷を持つ登場人物の一人である。
彫藤に通う版木職人の伊之助は、かつて岡っ引きに夢中になっていた頃、女房に駆け落ちされたあげく、心中されてしまった。
以来、伊之助の心の中に、好き合って一緒になった女に裏切られた驚きと怒りが居座り、女房を顧みず岡っ引きに夢中になっていた自分への戒めが、岡っ引きから足を洗わせた。
物語は、その伊之助が、岡っ引きの前任者・弥八から行方知れずとなった娘・おようの捜索を頼まれたことから始まる。
やくざ者と関係を持って一緒に暮らし、すでに諦めていたおようから、簪とともに「おとっつぁん、たすけて」という便りが届けられたのである。
岡っ引きの仕事を真似ることになる億劫な仕事だったが、伊之助はおようを探すことを決めた。
その手がかりは、おようと一緒に暮らしていた由蔵、おようが簪を託した夜になると岡っ引きも足を踏み込めない門前仲町、という頼りないものだった。
探偵物とも思えるこの物語は、危険に遭いながら自分もおようを探している気にさせられるのが魅力。
やくざ者由蔵と門前仲町から始まった細い糸を手繰り寄せ、途切れては新しい糸が現れる様子が、足を棒にして探し回る伊之助を生々しく想像させ、彼と一緒に歩き回っている気持ちにさせられるのである。
そのおよう失踪という細い糸が、急成長した大店の闇、盗賊ながれ星の正体などを絡めながら、やがて太い綱になっていく展開は、苦労と執念が実を結びつつあることを実感させ、およう救出が近いことを予感させる。
そして見つけ出したおようの救出から続くラストシーンは、藤沢周平作品の真骨頂ともいうべきもの。
おように言葉こそ無いが、彼女の無意識の動作が言葉よりも生々しく心情を伝え、彼女と伊之助の姿がはっきりと瞼に焼き付けられる。
重苦しいこの作品が秀逸なのは、ラストシーンに到る展開の気持ちよさ。
ネタバレになってしまうので詳しく書けないが、一度鬱屈させられた後、まさに一気に解き放たれる気持ちは、縮めたバネを開放するように勢いよく弾け飛び、最後に早春のひかりを浴びる伊之助と同様、何の憂いもなく、清々しい余韻を伴った読後感をもたらす。
ところで本作品の魅力は、難航するおよう捜索や、暴かれていく大店の闇の他にもある。
十手を手放した伊之助が、若い頃に習ったやわらと拳法を組み合わせた体術を駆使して、危機から身を守る場面。
おしくらまんじゅうのような関係と表現された、幼なじみおまさと伊之助の関係。
伊之助が通う彫藤での、捜索から離れた日常的な場面。
これらが、重苦しさと緊張感漂う物語に変化をつけて、作品をより魅力的にしている。