紙の本
地政学の真髄
2016/11/13 06:18
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投稿者:さんぴん - この投稿者のレビュー一覧を見る
地政学の本は数あれど、佐藤優氏の本が一番チャラチャラしてないし信用出来ます。今回の本も歴史×地理の観点から現象に振り回されない考察をしています。買い。
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地政学の観点から大国の動きを理解する
2019/12/29 22:19
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投稿者:もちお - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は大国の地理的条件から現状を理解する地政学の入門書である。アメリカとイギリスは海に囲まれた海洋国家である。これらの国の特徴は四方を海に囲まれているため、どこにも行けるし、どこにも行かないことも選べる。現在のアメリカはモンロー宣言に回帰し、イギリスは光栄ある孤立へ戻った。他方、大陸国家であるドイツは東側への進行を志向すルシ、ロシアは平原が広いがゆえに緩衝地帯を常に必要とする。これだけでも十分にお腹いっぱいだが、中東と中国の地政学もあり、それは読んでからのお楽しみで。
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「大国」のエゴは変わらない
2017/02/08 19:39
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投稿者:K2 - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史と地理が、国や地域の行く末に決定的な影響を与えることを、アメリカやドイツ・ロシアなどの「大国」を事例に解説する。ただし著者は、単純な地理決定論は否定する。宗教や民族などの変数が、複雑に影響するからだとする。確かにその通りだと思うし、これまでの歴史はそうだった。これからの歴史も、大枠では、それぞれの国ないし地域の環境に規定されて展開していくのだろう。いつの時代も、「大国」のエゴが大きくモノを言うのだと感じさせられた一冊である。
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地政の知性
2017/01/27 12:32
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投稿者:ヨンデリーヌ - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代の地政学。
コワモテ著者に対する先入観を覆す、平易で優しい文調です。
ま、理解できたかどうかは別として、
読後、ニュースに対する「感じ方」が変化するはず。
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サイクス・ピコ協定
宗教事情や部族分布、資源配置などまったく関係のない人為的な国境線。そのとき建設された国家が機能不全を起こしている
エジプトのアラブの春
権威主義的なムバラク政権が倒され、民主的な選挙が実施。この選挙を通じて権力を握ったのはムスリム同胞団というイスラム主義者 民主的な行動によって民主政治の安定が遠のく
人権の反対は神権
アラブでは神権から人権への転換がおこらなかった
スンナ派とシーア派
シーア派 ムハマンドの従兄弟のアリーとその子孫が真の後継者だと主張する党派
スンナ派 代々のカリフを正統とする
p146 スンナ派(ハナフィー派(トルコ、南アジア)、マーリキー派(アラビア半島東部、北アフリカ)、シャーフィィ―派(イラク中部、エジプト、東南アジア)、ハンバリー派(カタール、アラブ首長国連合(ワッハーブ派(サウジ、アルカイダ、IS))
ビンラディン サウジへのアメリカ軍駐留は、異教徒による聖地の冒涜ではないかと考え、ジハードを呼びかけたが、共感をえられず、アフガニスタンへ
イラクのアルカイダ シーア派も世界革命を唱えているが、それはいんちきな革命であり、それを唱えるシーア派を殲滅しなければならないと考えている
IS アブーバクルアルダーディ カリフ就任 2014/6/29
イスラム教 国境を認めない。絶対神のもので、人は平等。ムスリムを包摂するイスラム国家のもとではどこへ移動するのも自由 これは明らかに主権国家システムと衝突する。にもかかわらず、サイクス・ピコ協定では、無理やり国境線をひき、主権国家を作ってしまった
語られざる中国の結末 宮家邦彦
アメリカはかなり強引な圧力をかけて、日本を開国 エネルギー供給や通商以外のことは日本に対してもとめなかった
ロシア 我慢強い態度で日本に接した 1855 日露通商条約 治外法権規定はない。 政治的には平等条約
南北戦争 1861-65
明治維新は南北戦争の数年後で、当時のアメリカは小靴内統一に忙しく、対外的な政策をとれなかった
日本がアメリカの植民地化を免れた理由の一つ
西南戦争では西郷軍の方がはるかに戦歴を積んでいたが、政府軍は南北戦争で余った銃を購入して、兵器のレベルが高かった
アンチ・セミティズム 反ユダヤ主義、反セム主義
ヨーロッパ人とは違う、セム系言語を話す人
セム族にはユダヤ人だけでなくアラブ人も含む
悲観主義者とは、事情に通暁した楽観主義者である
ヨハネによる福音書 真理はあなたたちを自由にする
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海洋国家と大陸国家という枠組みで、多くのことが説明できるようだ。
海洋国家と自由主義の親和性、近代以降の世界史は海洋国家同士の覇権争いと見られるとは。
わかりやすく、鮮やかな分析。
たしかに、地理的条件はどうあってもその国のあり方、行いを規定する。
その意味でも、これから起こることも過去の歴史の再演になるという佐藤さんの主張には同意せざるを得ない。
でも、中国の海軍力に対する評価はそれでいいのかなあ?
過去の日本海軍が短期間で軍隊として成長したようなことも、これからの中国に起こらないとは限らないのでは?
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[変と不変の狭間で]目まぐるしく国際情勢が移り変わった2016年。変転する世界を前に,いかにしてそれを読み解くかを,歴史と地理という2大要素を用いて実演して見せた作品です。著者は,現代日本を代表する論客と言っても過言ではない佐藤優。
地政学的な見方を提示しながらも,決定論的な話に持っていかないところが魅力の1つ。あまりに多くの変化が世界で起きている中で,本作は1つの重要な指針を読者に提供してくれているように感じます。変転の激しかった2016年を振り返る意味でもオススメの作品です。
〜地政学を単純な地理的決定論で捉えるべきではありません。地政学では,地理的制約条件のうえに,宗教,文化,国家,民族などのさまざまな要因が変数となって,複雑な方程式を形成しているのです。そして現代は,この変数が指数関数的に増えている。その複雑な方程式を,素養のないまま解くことはできません。〜
コンパクトながらも☆5つ
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地理的な要因によって各国のイデオロギーが形成されており、その形成過程やそれに伴う戦争の歴史等が各地域ごとに詳しく説明されています。世界史の本質的な背景知識を本書によって得られるのではないかと思います。
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英米・ドイツ・ロシア・中東・中国を動かす掟について、とても分かりやすく俯瞰的にまとめられている。特に中東については宗教的背景についても説明されており、全く理解していなかっただけにとても勉強になった。より深く理解するためのブックガイドも参考になる。
やっぱりそんなに挙げられると山川シリーズは揃えたくなってしまうな。
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第二次世界大戦の負の影響から,地政学が欠落してしまった日本にとって,各国の動機を知る道具がないという外向的に拙い状況になっている.そんなこと,外交官に任せておけばと考えるには,日本(あるいは日本企業)は世界における立場ができている.道具を手に入れるため,個々に学ばねばならない.その入口情報がまとめられた良書である.
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記録によれば丁度二か月前の今日に読了したことになっていますが、恒例のGWの部屋の片づけをしていて発掘しました。二か月前の自分を振り返ると、その間に多くの変化があり別世界にいる感がありますが、本の中で付箋を付けた部分を読み返してみると、二カ月前の自分に出会えたようで懐かしく思います。
さてこの本ですが、昨年(2016)の年初より、地政学という分野に興味を覚えるようになりましたが、それに関する本を読んでいくと、地理・地形がその国に及ぼす影響が大きいことがわかりました。高校時代に地理の地図帳と、歴史の地歴図が好きだった私には、試験勉強のためではなく、自分の趣味のために楽しめる読書は最高です。
この本の著者は、今までも何冊もお世話になっている、元外務省に勤務されていた佐藤氏です。英米、ドイツ、ロシア、中東、中国を動かす掟を、解説しています。これらを応用して、自分で日本の将来を描けるように、いつかなりたいな、と思いました。
以下は気になったポイントです。
・掟を把握するにはどうしたらよいか、それは国際情勢の背景にある「変わらないもの」に着目する(p9)
・1789年から1914年がなぜ、長い19世紀なのか、それはこの時代が「啓蒙思想の時代」だから、啓蒙思想とは、知識が増えれば社会は豊かになり人間は幸福になる、というものの見方・考え方。19世紀には人間の非合理な情念を重視するロマン主義の抵抗を受けたが、基本的には近代の主流の考え方となった(p27)
・福祉国家は行き詰っていったので、生まれてきた考え方が、新自由主義。政府による社会保障や再分配を極力排して、企業や個人の自由競争を推進することが最大限の成長と効率のいい富の分配をするという立場(p33)
・地政学では、国家をランドパワーとシーパワーに分けて考える、アメリカは隣接するカナダ、メキシコから侵攻される脅威が除去されているので、南北アメリカ大陸という島と捉えられる(p51)
・シーパワーの優位性は、海から陸を囲むことができる、点と線を押さえればよい(p54)
・ホブズボームは、長い19世紀に対して、1914-1991のソ連崩壊(共産主義・社会主義陣営の敗北が明白)までを、短い20世紀と呼んだ(p63)
・東欧を支配するものはハートランド(東欧・ロシア・ユーラシア内陸部)を制し、ハートランド(ユーラシア大陸)を支配するものは世界島を制し、世界島を支配するものは世界を制する(p74)
・ギリシアの地は、古代ギリシア滅亡以降、マケドニア、ローマ帝国、ビザンツ帝国、オスマントルコの順番で支配されていて、ギリシアという国は存在していなかった、ギリシアという国家は1821年のギリシア独立戦争が発端となって誕生する(p82)
・スターリンとチャーチルは秘密協定を結び、ユーゴスラビア・ブルガリア・アルバニアに対して、欧米はレジスタンスに対する支援から手を引く、ギリシアは欧米の勢力圏としてソ連は手を引くことにした(p85)
・欧米はギリシアの産業化を支援しなかった、理由は、工業が発展して工場労働��が生まれると、共産党による組織がなされるから、そのため、農業と観光だけの国にし、NATOの基地を置いて金銭的援助により経済が成り立つようにした(p86)
・大航海時代にあれほど富を得た、スペインやポルトガルといったカトリック国から資本主義が生まれなかったのは、天国における来世を重視するカトリシズムと関係がある、教会にすべてを寄付し、資本は社会を循環しないので(p88)
・文明はコピーできるが、文化には制約性がある、だから同じ文化的価値観(宗教)を共有する者は包摂し、そうでない者には門戸を閉ざす、これはEUの広がりを見るとわかる(p94)
・2015.1.1、ロシア・ベルラーシ・カザフスタンで構成される「ユーラシア経済連合」が発足し、翌日にアルメニア加盟、同月5月には、キルギスが加盟した(p104)
・ロシアにとっての緩衝地帯は、自国領ではないけれど、いつでも自国の軍隊が自由に移動できる地帯のこと(p117)
・ウクライナをめぐる対立を、ロシアと欧米諸国との「新冷戦構造」と捉えるのは間違っている、冷戦とは「共産主義と資本主義というイデオロギーをめぐる対立」であり、現在の対立は、ウクライナへの影響圏をめぐる地政学的対立として捉えるべき問題(p126)
・イギリス、フランス、ロシアの三国が第一次世界大戦後に、中東分割をした国家が機能不全を起こしていることが、原因でその結果が、ISの誕生である(p134)
・植民地支配では、少数派を優遇するのは常套手段、多数派の民族・宗教集団を優遇すれば、独立運動につながる(p143)
・ワッパーブ派は、コーランとハディース(ムハンマド伝承集)しか認めない、聖人崇拝も墓参りもしない、禁欲主義である。最大の過激派で、かつ、武装集団であるのが、アルカイダ・ISである(p147)
・コーランで禁止されているのは、ブドウからできたアルコール飲料で、ウィスキーはOK(p148)
・イランはかつてのペルシア帝国、トルコはかつてのオスマン帝国へと回帰しようとしている(p170)
・地政学的に見れば、一帯一路構想とは、ランドパワーとシーパワーを同時に展開して、ユーラシア大陸を囲い込むことに他ならない(p175)
・中国国家の命運を握っているのが、新疆ウイグル自治区に住む、ウイグル民族への対応である(p193)
・オランダはプロテスタンティズムのカルヴァン派であった、宣教する意欲が希薄なので、出島に門戸を平出も大丈夫であった(p211)
・アメリカが日本に来る目的として、食糧や水の確保と説明されていたが、最近の研究では、もう一つの理由として「石炭確保」ということがわかっている(p213)
2017年5月5日作成
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地理・経済・民族等々の要因を分けて考える理性・論理思考だけではダメ。物語(宗教)を理解する人間力が必要。人間は本質的に非合理。
国際情勢は時間軸(歴史)・地理的条件だけでなく、経済・文化・国家・民族・宗教様々な変数を複合して考えなければならず、しかも論理・合理・理性だけでなく、非合理な側面も考慮しなければならない。一応大国について相応の分析はなされているが、あまりにも複雑すぎて今後日本がどうやって意思決定すればよいのかは本書には示されていない。著者の仕事でもないのだろうけど。
これまでの著作の中でもかなりデキがいいと思うが、あくまでも著者の独自の分析であって、どこまで正しいのかはわからない。類書をいくつか読まないとダメなのだろうが、新書レベルが限界で、専門書までは手が回らないな。
執筆時にはトランプ確定ではなかったようだが、2016年は「米英が孤立化の道を歩んだ」という大きなターニングポイントになるのかもしれない。あとは中国が戦前日本と全く同じ道を歩んでいるという認識は正しいと思う。
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国際情勢を地政学的視点から理解するための本。
中国が南沙諸島を埋め立て、自国の領土として批判が高まっている。しかし米国は付近を航行(無害通航権)したのみの、嫌がらせレベルの抗議をしただけ。これは停泊しなければ領海を否定したことにはならないから。
日本も中国のやり方を批判しただけ。これは日本も沖ノ鳥島(満潮時海面から16cm。周囲はコンクリートで護岸)を領土と主張しており、中国とやっていることが余り変わらないため。(日本政府が岩礁と認めている伊豆諸島の孀婦岩。これはなんと高さ99m、東西84m、南北56m。これが岩で沖ノ鳥島が島とされる)これでは中国に強い態度を取れない。
日本も米国も黙認状態では中国の海洋進出は勢いづくと思いきや、そうはならないと著者は言う。なぜなら中国の海軍力の弱さ(中国が空母を運用できるようになる頃には、無人機の時代となり、空母は時代遅れとなるらしい)とチベット方面の陸の地政学リスク(支配体制が揺らぐ位の)があるからと書かれている。
しかし中国は国産空母を今週進水させたし、どうも説得力がない。
著者の言うとおりになるのならば、少しはほっと出来るのだが・・・
日本の明治維新は、米国の南北戦争があの時期に行われたから、上手く成し遂げられた。あと20年遅かったら、フィリピン的に米国の支配下に置かれたかもしれない。
その他いろいろ国際的な偶然が維新に作用していた。
明治維新は大変幸運な偶然により成し遂げられたのだなぁ。
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高校時代に学習した世界史と地理の記憶が薄れるなか、両者を有機的に結びつけた地政学の考え方が面白い。
個々の国が持ち続けていた地理的要因、宗教、思想を学ぶことで、大国のこの先の動きを分析することができる。
知的好奇心を満たす一冊である。
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本書の目的は「現下の国際情勢を正確に把握する力を身につける」ことにある。そのためには国際情勢を規定している「歴史」と「地理」を掛け合わせて思考する必要があるという観点から、英米、ドイツ、ロシア、中東、中国といった「大国の掟」を分析している。
第1章(英米)
トランプ大統領への支持は、新自由主義がもたらした経済格差の拡大、社会的流動性の低下、庶民生活レベルの低下という土壌から生まれたもので、かつてのアメリカ外交の基調であった「孤立主義」への回帰を主張している。
アメリカは、太平洋戦争まで「孤立主義」を基調としていた(モンロー主義)。太平洋戦争開始後はラインホールド・ニーバーによる「光の子」と「闇の子」の二分法がアメリカの世界戦略の基本となる。つまり、敵対国(集団)を「闇の子」と捉えることで、海外での軍事行動を正当化するようになったのだ。しかしトランプ大統領は、アメリカに直接的かつ死活的な問題をもたらさない限り干渉しないという、戦前の「孤立主義」への回帰に過ぎない。
「人種的差別は、米国の民主主義がよって立つ基礎のひとつ」というエマニュエル・トッド氏の説は興味深い。アメリカ民主主義は常に「内部」(白人)に対する「外部」を必要とするという。「外部」は、ピューリタンにとってのネイティブ・アメリカンや奴隷である黒人であり(『United States Declaration of Independence』の「all men are created equal」は、白人のみ対象)、それが時代によって、カトリック、ユダヤ、イタリア系、アジア系、ヒスパニック系、イスラム教徒と変遷して来た。このような「外部」を持たないと、アメリカの民主主義は成立しないのだ。トランプ大統領の「アメリカ(白人)・ファースト」の主張は、アメリカ的伝統の反復現象なのである。
イギリスのEU離脱も、かつての「栄光ある孤立(1896-1902)」(Splendid Isolation)への回帰と読み取れる。海洋国家であるイギリスとアメリカは、必要があるときだけ大陸と関係を結べばよく、必要がないと判断すると「孤立主義」を取ることができる。これが、フランスやドイツとの大きな違いである。
シーパワーを制するとは、世界的なネットワークを維持できることにほかならない。だからそこ、イギリスもアメリカも覇権国家になることができた。ひとたび覇権国家になると、その国は一方的な自由貿易を強要する。自由主義の背後には常にシーパワーを持った覇権国家の存在があるのである。
(第2~5章 略)
終章(日本)
海洋国家の「孤立する」選択肢として、日本の鎖国政策があるが、この間でも、長崎の出島以外に、松前口、対馬口、琉球口という四つの外交窓口があった。つまり、当時の世界最強国オランダやその他の国とのネットワークを有していたのだ。従って、「鎖国」(そもそも幕府は鎖国という言葉は使っていない)というよりは、日本の安全保障上問題のある外国との貿易や宣教活動を遮断していたというほうが適切である。問題のある国としてキリスト教の国が考えられるが、「キリシタン」禁止令の名称から分かるように、幕府はカトリック国との交易を禁止したという��が正しい。現にプロテスタンティズムの「カルヴァン派」だったオランダとの交易は継続している。カルヴァニズムは、人間は生まれる前から「救われる人」が決まっていて(予定説)、人間はそれについて知ることはできない。せいぜい、世俗的な仕事で成功することを通して、神様に選ばれていることを確信するだけであると考える。従って、強引に他人に宗教を強制しようとしない。一方で、カトリシズムは、全世界にキリスト教を布教することを使命とし、場合によっては力で普遍的な価値観を押し付けようとする(南米の例)。そんな宗教が日本に入ってきたら、日本の文化は崩れ、植民地になってしまうかもしれないと、秀吉、家康、家光は考えたのである。
アメリカがメキシコとの戦争に勝って、カリフォルニアを手に入れると(1848年)、清との貿易のため太平洋を航海する船舶や捕鯨船の寄港地として日本に開国を強く求めるようになった(1853年)。ほぼ同時期にロシアの使節プチャーチンも長崎に来て、開国と国境策定を要求する(1853年)。ペリーは、砲艦外交と呼ばれる高圧的な態度で開国を求めたが、プチャーチンはそのような態度を取らなかった。ペリーは、幕府のたらい回し・問題先送りの外交姿勢を事前に学んでいたので、高圧的に交渉するしかないと考えた。一方のプチャーチンは、日本人の気質を考慮して、力づくの説得よりも時間をかけて交渉する方が得策と考えた。もし、日本がロシアに巧妙に取り込まれたとすれば、フィンランドのようにロシア帝国に取り込まれていくというシナリオは否定できないだろう。
しかもアメリカの植民地化を免れた理由に、開国と明治維新との間に南北戦争(1861-65年)が起きたことは、極めて重要である。つまりアメリカは、帝国主義の仲間入りをする1870年代まで、対外的な政策をとる余裕がなかった。1870年代には、富国強兵のもと徴兵制など日本の防衛体制が整いつつあったのだ。
南北戦争で余った大量の新型銃が、明治政府軍に流れたことを考えると(亀山社中、薩長同盟)、日本近代史のうえで、南北戦争が開国と明治維新の間に起きたことは、決定的な重要性を持つ。
歴史に地理と宗教を掛け合わせるだけでも、平面的に感じていた歴史が立体的に見えてくる。「地政学」は、なかなか面白そうな学問だ。