紙の本
日本人は芥川賞が大好き
2017/01/20 08:02
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この文庫本のもととなるバジリコ版の単行本が出版されたのは2013年の1月で、書かれているのが日本でもっとも有名な文学賞である芥川賞の歴代受賞劇にかかる悲喜劇事情である。
当然そのあとも芥川賞は営々と続いているわけで、今回の文庫化にあたっては単行本化のあとの第148回から第155回分が追記されている。
ちなみにこれらの回の受賞作を即座に言える人は少ないのではないだろうか。
言えたとしても又吉直樹氏の『火花』(第153回)か、せいぜい前回の第155回の『コンビニ人間』(村田紗耶香)ぐらいだろう。
二つの間の第154回の受賞作すら忘れている人は多いのではないか。
発表時には注目される。
しかし、それがいつまでも続くわけではない。
そのあたりにことを川口氏は文庫本の版で「何十年やっても、百五十回以上やっても、結局深く興味をもつのは一部のマニアだけで、大多数に浸透することはなかった」とし、だからこそ「長年にわたって芥川賞が注目を保ちつづけている理由」と、煙にまくような説明をしている。
私が考えるのは習慣である。
芥川賞は単なる習慣に過ぎなく、習慣ゆえに人々は安心しているだけのような気がする。
さらには出版事情とも密接につながっているから、この賞があるだけで本の売れ行きにも影響することは間違いない。
芥川賞の一方で直木賞がある。
著者の川口氏は「文庫版あとがき」にでも、自身が直木賞好きであることを告白しているが、残念ながらこうして文庫本化されるのは芥川賞の方だ。
つまるところ、日本人は芥川賞が好きなのだ。
紙の本
文学賞から見る文学
2017/11/11 23:39
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
文学賞と言う観点から文学を見ることはあまりないが、やはり文学賞と言うものが作家の生活に直結する以上、文学賞と言うものは文学にも大きく関係するのだろう。
この本を読んで様々な疑問が解けた。年に二度、芥川賞の季節になると始まる芥川賞の回数の問題に関しても、この本を読めばおのずとわかるようになると思う。
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【一冊で芥川賞まるわかり。なぜか「文春文庫」から!?】芥川賞の全歴史とエピソードが一冊に。市井の愛好家が、愛と外からの冷静な目で著した芥川賞?非公認?本を、文春文庫から堂々刊行。
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ブクログ献本。
タイトルに“物語”とあるが、物語ではない。
1935年の第一回から2016年の第155回までの芥川賞すべての、審査員、候補作品、選考過程についてひたすら記述した本である。
届いた当初は、昨今の文庫には珍しい改行の少なさに少々怖気づいたが、1つ1つの区切りは1~2ページと少なく、著者の筆力もあって読み切った。
特に2000年以降の受賞者については、私自身の記憶に新しいものも多く、思い出しながら楽しく読めた。
著者は芥川賞よりも直木賞の方が好き、と書いているので、『直木賞物語』の方も読んでみたい。
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本ばかり読んでいるように思われるかもしれませんが、別に暇なわけじゃあありません。
大学2年の頃から深刻な活字中毒なんです。
そのくせ、読み終わって2、3日もすると内容を忘れてしまうのですから、ホントしょーもないです。
あ、こっちの話です。
数多ある文学賞の中で、群を抜いてメジャーなのが芥川賞でしょう。
本書は、「直木賞研究家」の肩書を持つ著者が、芥川賞の歴史について書いた著作。
第1回の石川達三「蒼氓」から、第155回の村田沙耶香「コンビニ人間」までカバーしています。
受賞作の内容そのものよりは、選評も含めて受賞作を取り巻く状況に視点を当て、その歴史を追っています。
読後、感じたのは、この賞のつかみどころのなさ。
一応、純文学の新人を対象にその期で最も優秀な作品に贈られる賞ですが、そんなに単純なものではありません。
基準もあってないようなもので、たとえば優れた作品であっても、選考委員が「食傷気味のテーマ」と感じれば、まず選から漏れます。
直木賞と並んで数少ない国民的な文学賞とあって毎回、耳目を集めますが、そんな私たちだって受け止め方は様々。
普段、文学とは無縁の生活を贈る人には新鮮な驚きを持って迎えられることもしばしばある一方で、堅物の文学ファンの中には芥川賞そのものを白眼視する向きも少なくありません。
考えれば考えるほど不思議な賞ですね。
本書を読んで、そんな感慨を深くしました。
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候補作品の評論というよりは、芥川賞という賞そのものの評論。芥川賞を通して、戦前から今日までの日本の歴史を感じることができる。
なお、本書はブクログのキャンペーンで当選してプレゼントされたもの。年賀はがきの切手シート以外で懸賞に当選したのは数十年ぶりだと思う。ブクログさん、ありがとう。
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今年の1月の16年下期芥川賞の時に新刊で出ていたので買って、しばらく積ん読になっていたところ、この7月の17年上期芥川賞発表のタイミングで読み終わるとか。
なんというか芥川賞ってドラマだなぁ。作品はそんなに読んでなくても、賞そのもののドラマが面白い。
とはいえ、この作者の作品紹介が素晴らしいので、紹介された受賞作や候補作はことごとく読んでみたくなるという…。
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読書の幅を拡げようと思ったときにはみなさんどうしているのでしょうか。本との出会いには書評や店頭のポップ、ブクログからのプッシュ通知wなど、色々なきっかけがあるのでしょうが、自分は一時、直木賞受賞作を全部読んでみようと思っていた頃がありました。この方法は、間違いなくこれまで知らなかったたくさんの楽しく面白い本を手に取るきっかけとなりましたが、「全作品」読破はもちろんすぐに挫折しました。でも、その後も折に触れ直木賞について検索しているなかで出会ったのがこの本の著者が主催する「直木賞のすべて」というサイトでした。
全受賞作にとどまらず、候補作や選評、さらに全受賞作が掲載されている書籍を入手する方法までがまとめられているこの読み応えのあるサイトの充実ぶりに、出会ってすぐに貪るように読み尽くしてしまいました。
この本は、その「補助サイト」である「芥川賞のすべて・のようなもの」を下敷きに、1935年の第1回から最近2016年の第155回まで、各回次毎に選考委員、候補作を示した上で、選考にあたっての議論や世評をまとめた書物です。
こう書くと純文学史を紐解くお堅い本に思えますが、「物語」と冠しているとおり、文学史の本ではありません。
何故かいつの間にか権威を纏い、選考結果をもって純文学の近況が語られるほどではあるものの、選考基準の曖昧さ、新人や短編とされてはいてもすぐにコロコロ変わる候補作の基準、重要な作品へのあげ損ない、とんちんかんな選評、受賞作、候補作、落選作を書いた人の反応、マスコミや評論家など外野の喧騒など、この賞を取り巻くあれやこれやを面白がっている、そんな本で、通読するとなるほど「物語」だな、と思います。そう言えば、実質文藝春秋が主催している文学賞を面白がる本が文春文庫から刊行されるのも面白い物語の一幕なのかもしれませんね。
通読して思ったのは、まずはこの本(と、下敷きとなっている元サイト「芥川賞のすべて・のようなもの」)の資料的価値の大きさです。芥川賞の公式サイトと言うべき公益財団法人日本文学振興会のサイトを見ても、各回次の受賞者、受賞作、掲載誌がまとめられているだけです。
候補作、選考委員、選評の概要や世評などがすべての回次にわたってまとめられており、芥川賞という物差しで本を選ぼうと思いたった時の水先案内としてありがたい限りです。まんまと直木賞のみならず芥川賞作品にも手を出してみようかと思わされてしまいました。
なお、サイトにはすべての選評概要が掲載されている一方で、世評や選考委員、受賞者、落選者の反応などの「物語」の主要部分は掲載されておらず、一方で本には選評概要は一部のみの掲載となっている反面、「物語」部分に力が入れられており、サイトの熱心な読者である自分でも、改めて本として買い、お金を払う価値はあると感じました。
もう一点、さらに面白かったのは「あげ損ね」の多さです。
そもそも第1回から太宰治にあげ損ねて発足したこの賞は、その後も、選考委員が「かつて芥川賞は村上春樹、吉本ばなな、高橋源一郎、島田雅彦に賞を出せなかった」と選評に書くほどですが、賞をあげ損なって全く省みるところがあ���ません。ここは一つ、村上春樹にノーベル文学賞を獲ってもらって、あげ損ねの歴史に新たなエピソードが加わるといいなと思っていたりしますw。
賞というものについて。
実質的に一出版社が主催しているだけで公的な褒章でも何でもないこの賞がいつの間に権威とされてしまったのか、石原慎太郎の「太陽の季節」のおかげなのか、他の文学賞が短命に終わることも多い中、継続したことがよかったのか、受賞作なしをおしてまで年2回開催を続けたことがよかったのか、いずれにせよ他の文学賞と大きく異なることはないのにいつの間にやら芥川賞・直木賞に限って大きく報道され、受賞作がその時代の文学を代表するように評価されるのは、考えてみれば不思議です。
まあ、とにかく。そんなあれやこれやを、一歩引いた立場で俯瞰し、媚びるでもなければ憤慨するでもなく、面白がっている姿勢を通しているのがこの本の最大の長所です。
最後に。
サイトも本も、筆者にとってはあくまでも直木賞が中心で、芥川賞は「直木賞研究のため」に調べているものであることが、あえて後書きに書いてあります。
「書き進める間、芥川賞を知ることは直木賞研究の一環だからと自らに言い聞かせ、消し難い罪悪感を紛らわしもした。」だそうで、これはこの本一冊を読んでいるだけでは感じないものの、「直木賞物語」や、サイト「直木賞のすべて」と見比べると如実に感じます。
でも、読んでいる自分も関心は芥川賞より直木賞に向いているので、何となく「直木賞のついでに芥川賞について読んでいる」自分にとっては申し訳なさが軽くなって助かったのでしたw。