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紙の本
北風と太陽
2016/12/05 10:24
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投稿者:野次馬之介 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の表題にいう「トランプショック」とは何か。著者はイソップ物語の「北風と太陽」を引き合いに出して説明する。ただしイソップとは逆で、北風の吹いているところへ太陽が照って旅人の外套を脱がせるのではなく、太陽が陰り、北風が吹き荒れて、旅人が困窮するというたとえである。
戦後70年、日本はアメリカという太陽に照らされながら経済繁栄を続けてきた。一方、アメリカではオバマ大統領が今年初めの一般教書で「世界の警察官」を辞めると宣言して以来、国民がすっかり内向きになってしまった。
そんな内向きになったアメリカ国民の意思を受けて当選したトランプ大統領が就任すれば、日本を照らす太陽は陰ってしまい、北風にさらされることになる。
北風とは日本を取り巻く国際情勢だが、とりわけ中国、北朝鮮、ロシアの寒風が政治的、経済的、軍事的に激しく日本に吹きつけることとなろう。尖閣列島で日本と中国との間に争いが起こっても、アメリカが日本の味方となって介入してくることは考えられない。これがトランプショックの一つで、日米安保条約の空洞化である。
アメリカ人の多くは、日本も自分の国土は自分で守るべきだと考えている。さらにアメリカを守るために日本が犠牲を払うことなどあり得ないし、軍事的にアメリカを助けるようなこともないと見ている。
戦後の日本は、アメリカという暖かい太陽のもとで安楽かつ安全に存続してきた。しかし今、その安易な状況が消え去ろうとしている。とすれば、日本は北風から身を守る温かい外套や、周囲から襲ってくる野獣に対抗する武器が必要になる。
これまでのように軍事力を持たず、アメリカに頼るだけで安閑と暮らしてゆけるはずはない。したがって日本は、新しい政治の仕組み、軍事体制、そして国民の団結を固め、北風に耐えられるだけの挙国体制をつくり、効果的な戦略を練り上げてゆかねばならない。
一方で、トランプ新大統領を待ち受けるアメリカもまた、困難な状況にぶつかっている。ひとつはイギリスのEUからの離脱で、このことがアメリカと西ヨーロッパとの同盟体制を大きく揺るがしつつある。
国際社会におけるアメリカの力は、これまでイギリスによって支えられてきた。しかるにイギリスがEUから離脱すれば、イギリスと西ヨーロッパとの関係が崩れると同時に、ヨーロッパ全体とアメリカとの関係も弱まっていく。
その一方で中国の政治的、経済的拡大が続いており、中国の蔭で日本の存在も弱体化しつつある。結果として、アジアにおけるアメリカの存在が脆弱になり、アメリカの時代は確実に終焉に向かっていく。
アメリカという太陽を失いつつある日本は、迫りくる北風の危機に対処するため、今や自らの世界戦略を自ら構築する必要に迫られている。新しい環境の中で、アメリカが残して行った憲法も今のままでいいはずはなく、早急に改正する必要がある。また原爆の痛みの中で考えることを拒否してきた核戦略は、どうあるべきか。歴史的な視点に立って現実的に対処しなければならない。
現にトランプ自身、選挙運動の中で「米軍駐留経費をもっと日本に負担させよ」とか、「核兵器を日本に持たせよ」と発言している。これらの考え方が大統領就任後もアメリカ政府の正規の政策として日本に求められるかどうかは知らぬが、日本としてはこのチャンスを生かして、在日米軍を削減し、その費用で自衛隊を増強し、場合によっては核開発をして、北風にそなえるべきであろう。
トランプショックは日本にこそ大きな衝撃となってせまってくるにちがいない。
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