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国谷裕子さんの『キャスターという仕事』
23年間にわたりNHK『クローズアップ現代』のキャスターとして活躍された国谷さん。月~木の19:30から放送されていたので、なかなか見ることはできませんでしたが、VTRリポートとインタビューでその時々の問題に深く切り込んでいく興味深い番組だなと思っていました。
この本では国谷さんが長年キャスターとしてやってきて常に感じてきたテレビの報道番組が抱える難しさと危うさについてや、それをどう乗り越えようとしてきたのかについて丁寧に書かれていました。
"シンプルでわかりやすい表現を使用することで視聴者の情報に寄り添い、視聴者の「感情の共同体」に同化してしまうことの危険性。メディア、とくにテレビはこの危険に陥りやすい。だからこそ、たとえ反発はあっても、きちんと問いを出すこと、問いを出し続けることが大事だ。単純化、一元化してしまうことのないよう、多様性の視点、異質性の視点を踏まえた問いかけが重要なのだ。"
インターネットの登場以降、様々な事柄に対して分かりやすさを求める風潮がどんどん強くなってきました。分かりやすさを追求するということは、極端な話、白か黒かになり、その間にある豊かな視点が排除されてしまうということ。その結果が、ギャグのようなトランプ大統領の誕生だと思います。
単純明快なものは理解しやすいし楽ですが、そればかりだと排他的な思考に陥ってしまいます。平和な社会を望むなら、一人ひとりが分かりやすさ信仰から脱却して多様な視点を身につけていかないといけませんね。
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国谷裕子『キャスターという仕事』(岩波新書、2017年1月)読了。
帯広出張のお供だった。
色々な意味でおすすめの本。
たとえば人にものごとを伝えるための心構えを理解するために。たとえば意見の違いを見分ける意識を持つとはどういうことなのかを理解するために。たとえば分かりやすい文章の書き方を理解するために。たとえば、人から批判されるとはどういうことなのかを理解するために。
ふだん、本を読んでいない(活字は苦手)という方でも難なく読めると思われる。それほど平易でうまい文章だ。
内容は1993年4月の放送開始以来、これまで3,784本放送された『クローズアップ現代』について、その前史、そして特徴的な回の紹介をしながらキャスターとしての役割や位置付け、心構えなどを綴っている。
『クローズアップ現代』は今年も国谷キャスターで継続予定だったものが、NHK上層部の判断で時間枠の変更と衣替えを理由に降板させられる。このあたりの事情も記載されていて興味深いが、その裏側には政治的な動きがあったとも噂されている(本書ではこの噂には触れていない)。
一方で痛恨の出来事として悔しさが行間からにじみ出てくるのが、「出家詐欺」を扱った第9章「失った信頼」。番組に登場した人物が週刊誌で内容を告発し(ほとんどが虚偽や事実関係の誤り)、その後、BPOでの審査で「過剰な演出」「視聴者に誤解を与える編集」とされた。
3,784本のうちの1本だし、しかもBPOではVTR部分以外は「報道番組として高く評価すべきもの」と結論付けられているので、『クローズアップ現代』それ自体の評価、あるいはキャスターとしての国谷氏の評価を貶めるものではない。
しかし、国谷氏はたった1本でも視聴者の信頼を失えば、失地を回復できないとの強い意識を持ってキャスターを務めてきた。なので「出家詐欺」問題には、かなり強い衝撃を受けたようだ。
本書の内容から見ればやや傍流に属するエピソードをひとつ。
米国にいた国谷氏に、NHKは『ニューストゥデー』(1988年4月放送開始)のキャスターを依頼する。同じ頃、ジャーナリズムを学ぶ大学院への入学が決まっていて帰国するか進学しようかと悩んだ末、大学に相談に行ったそうだ。そこで入試担当の学部長は「学校は待てます。しかし仕事がめぐってくるチャンスはそう多くありませんよ」とアドバイスしたという。"School can wait"は国谷氏の迷いを吹き飛ばしたという。[pp.34-35]
たしかにいい言葉だと思う、School can wait.
『クローズアップ現代』は、VTRよりも国谷氏が鋭く切り込んでいくインタビュー場面が好きだった。本書を読んで鋭く切り込むためにどれほどの準備をしていたのかを知り、『これは論文を書く作業と変わらないな』と驚いた。
知的な見目姿に密かに憧れもしたが、『クローズアップ現代』が終了して出演した『徹子の部屋』で、キャスター時代とは違う柔和さを感じ、ますます惹き付けられた。
まあとにかく、いろいろ感じて考えさせられた良書だった。こういう広がりのある新書を教材で使いたいなあ。領域が違いすぎて小生の授業では扱えませんが。
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世のありとあらゆるテーマに鋭く切り込んだ、クローズアップ現代の歴史をキャスターが振り返る。自らの失敗や未熟を率直に語る。あの出家詐欺事件についても。放送同様、力強く響く言葉に、あらためて現代を代表するジャーナリストであったことを実感。
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文中にもあるように、正直自分の中では関心が薄いテーマもあったと思うが、
よい番組を視聴者に届けるためにはテーマが何であれ 真摯に向き合う。
ただ、台本を読むだけのニュースとは一線を画す。
例え30分の番組だったとしてもそれをここまで続けてこれたのは
国谷キャスターと周りのスタッフとの 真摯さとの向き合い なくしてはないだろう。
最後に、、、クローズアップ現代を作り続けたきた関係者の皆さん。お疲れ様でした。
番組をありがとう。
【ココメモポイント】
・「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、
わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」-是枝裕和
P.15
・お互いがぶつかり合い、最後の最後まで番組を良くしていきたいと思わなければ良質で深い番組は生まれない
P.84
・前説の中でポイントになるところは、きちんと私の正面の顔に映像を戻してほしいと注文した
P.100
・柳田邦男 危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条
1 自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間を持つ。
感情に流されずに論理的に考える力をつける
2 政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底に
ある問題を読み解く力をつける
3 他者の心情や考え理解するように努める
4 多様な考えがあることを知る
5 適切な表現を身につける。自分の考えを他者に
正確に理解してもらう努力
6 小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな
人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かに
する最善の道であることを心得、実践する。特に
ボランティア活動など、他者のためになることを
実践する。社会の隠された底辺の現実が見えて
くる
7 現場、現物、現人間(経験者、かんけいしゃ)こそ
自分の思考力を活性化する最高の教科書だることを
胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを
心掛ける
8 失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、
自分の考えを大切にして地道に行動を続ける
P.233
・インターネットで情報を得る人々が増えているが、感情的に共感しやすいものだけに接する傾向が見られ、
結果として異なる意見を幅広く知る機会が失われている。
そして、異質なものに触れる機会が減ることで、全体を俯瞰したり物事の後ろに隠されている事実に
気づきにくく、また社会の分断が進みやすくなってもいる
P.242
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メディア。テレビ。
社会人として働きだした頃から23年務めた『クローズアップ現代』での出来事について書かれた本。あの時の放送のことを思い浮かべながら読めて、なるほどだった。
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本を読む、そして知る、学ぶ。とても大切なことで、この本を通してもそれを思いました。
国谷裕子さんの想像を絶するご苦労の一部を垣間見させてもらった感じです。ますます国谷さんファンの度合いが増しました。
学び、感動したもののほんの一部の抜粋。
〈本から〉
是枝裕和さん
「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」
国谷さん
「新しい事象を新しい言葉で定義し、使用して、多様化している視聴者に共通の認識の場を提供する、このとが「クローズアップ現代」のような報道番組の大事な役割だと思って取り組んでいます」(『問う力ー始まりのコミュニケーション 長田弘 連続対談 みすず書房より』
日産自動車のゴーン社長
「曖昧な言葉で質問すると曖昧な答えしか返ってこないが、正確な質問をすると正確な答えが返ってくる。明確な定義を持つ言葉でコミュニケーションすれば、その人は自分の言葉に責任を持つようになる」
コペルの〈ナイトラン〉は視聴者に信頼され、2005年11月まで25年間続いた。〈ナイトラン〉に出演することは、コペルという「精細な秤」に載せられることを意味した。当事者が〈ナイトラン〉への出演を避ければ、視聴者に何か説明できない都合の悪いことがあるに違いないとまで思わせる存在感のある番組だった。
日本語の何となくストレートに聞けない曖昧さをどうやって排除していくか。それは、インタビューしていくうえで大きな課題だ。
危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条
柳田邦男さん
一 自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える 時間を持つ。感情に流されずに論理的に考える
力をつける。
二 政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底に
ある問題を読み解く力をつける。
三 他者の心情や考え理解するように努める。
四 多様な考えがあることを知る。
五 適切な表現を身につける。自分の考えを他者に
正確に理解してもらう努力。
六 小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな
人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かに
する最善の道であることを心得、実践する。特に
ボランティア活動など、他者のためになることを
実践する。社会の隠された底辺の現実が見えて
くる。
七 現場、現物、現人間(経験者、かんけいしゃ)こそ
自分の思考力を活性化する最高の教科書だることを
胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを
心掛ける。
八 失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することも なく、自分の考えを大切にして地道に行動を
続ける。
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クローズアップ現代を毎日進行されていた国谷さん、どういう経歴か、またどんな風にクロ現に取り組んで来られたのか知りたくて読んだ。
「わかりやすさ」を追求ばかりしていると、視聴者は、「わかりやすい」情報のみしか興味がなくなる。わかりやすいことの奥にある難しさや課題の大きさを伝えることがクロ現の役割。インタビューについて、視聴者が聞きたいことをしつこく聞いたこと、当時のヒューレットパッカードCEOとの対談。嫌がられる質問でも聞いてきたこと、など。
17秒の沈黙を待った高倉健さんのインタビューについて、「待つことも聴くこと」であると。
つい、沈黙が怖くて何か話し出してしまうことがあるが、相手は考えている、それを遮ってはいけないと気づく。
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著者が、アメリカに残って大学院に進むか、日本に帰ってテレビの仕事に就くか、学部長に相談したとき得たアドバイスがいい。
わかりにくいものをわかりやすく伝えるというので良いのだろうか、視聴者がわかりやすいものにしか興味を持たなくなるのではないか、難しい問題はやはり難しい問題だということを視聴者にわかってもらうべきではないか、という著者の考えに賛成である。
番組で語りかけるときに使うものの言い方を、どれほど慎重に吟味したかもよくわかる。
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報道がどうやって作られるか、真実を伝えたいという多くの役割の人達の努力の結晶であることを理解できる。筆者は、世界中の著名な人びとや現代の問題を抱える無名の人びとへのインタビューを通して成長する▼帰国子女のキャスターとして悩み、経験を積み、勉強し、成長してゆく著者。報道を伝えるキャスターとして視聴者への誠意を保とうとするが、「同調圧力」は大きく、少数者弱者は声を上げにくい▼そのなかで、自分の立場を相手に知らせたうえで、問うべきことを深く問い続いける姿勢を貫いた。言葉による「伝達」ではなく、言葉による「問いかけ」が大事という▼イラク戦争からの教訓についてインタビューしたときの、ABC放送コぺル氏の返答が印象的。「どのような軍事行動も軍事計画も、最初の弾丸が放たれるまでの命です。予期していたことと違うことが常におきます。そして、ある行動を起こすと、次の行動を起こさざるを得なくなっていくのです。」戦争は動きだすとコントロールできない。▼柳田国男 「危機的な日本の中で生きる若者たちに八か条」は啓発的:(1)自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える習慣をつける。感情に流されず論理的に考える。(2)情報を読み解く力をつける。(3)他者の心情や考えを理解する力をつける。(4)多様な考えがあることを知る。(5)適切な表現、他者に正確に理解してもらえる力をつける。(6)行動し、いろんな人に会い、それにより、自分を理解する。他者のための活動をする。(7)頭でだけ考えないで、現場を大事にする。(8)失敗しても、地道に続ける。
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「クローズアップ現代」の23年の軌跡.
クローズアップ現代が始まった時は,その密度,深さに新鮮な驚きがあった.そのキャスターは知的な美人で私の憧れだった.
その後,私は多くのことに関心を失い,この番組も見なくなってしまった.
さて,この本を読んで思うのは週に4回番組を作ることの慌ただしさである.いくら勉強するといっても,いくら専門家の力を借りるといっても,やはり,なかなか自分の中で問題を深める時間はないだろうな.
それにしても能力抜群の生真面目なスーパーウーマンである.そのストイックさには頭がさがる.
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帯文:”真摯に、果敢に問いを発し続けてきた〈クローズアップ現代〉のキャスターが23年間の挑戦の日々を語る”
目次:第1章 ハルバースタムの警告、第2章 自分へのリベンジ、第3章 クローズアップ現代、第4章 キャスターの役割、第5章 試写という戦場、第6章 前説とトーク、第7章 インタビューの仕事…他
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クローズアップ現代をいつも見ていた訳ではないけど、こんな思いで作られていたんだと感動した。国谷さん、素晴らしい!
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言わずと知れたクローズアップ現代のキャスター。この本を読んで如何に彼女があの毎回切れ味のある質問を生み出しているかがよくわかる。人に質問をするということは、どれだけ相手のことを理解しているかと一般人の目線でいられるか。いまのクローズアップ現代ではこのレベルまでは達することは難しそうだ。
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クローズアップ現代はスタート当初からずっと観ていたので馴染みもある。その裏話のようなそうでもない様なものだった。
でも、ああ実は裏ではこういうことになっていたのかと納得できたこともいくつかあった。
一つのことを長く続けるのは、それを惰性でないことにするなら、非常に大変なことだなと、本質ではないところで感じさせられた。
著者が伝えたかったのは、おそらくもっと違うことなのだろうなとも思いながら。
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番組の印象そのままの本。言葉使いの難しさ、表現の難しさ、決められた枠の中で番組を作ることの難しさ等々、報道の難しさに彼女は立ち向かっていき、最後まで役割を果たした。常に最善を尽くそうとする姿勢はすばらしいし、実際に番組はそうだったと思う。週に1回、年中ずっとではないとはいえ、報道番組の中でも密度の濃いものを作り続けるのは大変。
番組の製作関係者のほとんどが男性で、男性社会だったがゆえに、社会における女性の役割や立場の変化に関して番組で取り上げる機会が少なかった点に気づいたのが降板後だった、というのは残念だがやむなしか。
ただし彼女はあの番組の製作スタッフのうち氷山の一角。海上に見える部分でしかない。水面下の人たちの、特にプロデューサーや編責といった方々はどうなのか。そういう人たちの書いた本があれば読んでみたい。
テレビ局で報道にかかわる人たちは絶対に読むべし。特に局アナ。自分をタレントと勘違いしている女子アナには理解できないかもしれないが。