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本書は、湖水地方で羊農場を営む、著者とその家族の日々を綴った物語です。
湖水地方といえば、ワーズワースやビアトリクス・ポターなどの名がすぐに思い浮かびます。でも、このナショナル・パークは英国有数の景勝地、保養地というだけでなく、何千年も前から羊の放牧が盛んな土地であったという、違った側面も持ち合わせていたのですネ。
この土地の農場に生まれた男子の誰もがそうであるように、著者もまた幼いころから祖父と父親の背中を見ながら農場で働き、一人前の羊飼いになることを夢見てこられたようです。
本書には、この土地特有の古典的な牧畜の技術と掟、また、そこに生きる羊飼いたちの考え方や生き方、土地の歴史などが、四季の移ろいを通じて、ありのままに描かれています。
湖水地方の美しさは、自然の力によるものだけでなく、そこで過酷な労働に耐えながら生きて暮らしてきた、羊飼いたちの伝統や知恵によって支えられてきたのですネェ。
羊飼いって、のんびりした良い仕事だなぁと思っていたらとんでもない。生き物や自然が相手だけに、とても厳しく、ときに残酷なくらい、たいへんな仕事だということがよくわかりました。けれど、この暮らしには、私たちが置き去りにしてきてしまった、労働の喜びと、自由があります。羊飼いという仕事への誇り、祖父や父、先祖たちやファーマー仲間に対する尊敬の念、土地への愛情がしみじみと伝わってくる好著でした。
べそかきアルルカンの詩的日常
http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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美しい景観とロマンチックなイメージのイギリス「湖水地方」だが、19世紀にワーズワースによって見出され、20世紀後半に観光地化が進むまでは、外部との交流が少なく、夏の間は山腹の共有地で羊を育てる昔ながらの伝統的な牧畜地域であったらしい。そして、そのようなファーマーの生活を今も続けている著者が、自然相手の厳しい羊飼いの暮らし、彼らの誇りと喜び、そして、自分たちが過去から未来へと連綿と続く鎖の一部であるという実感について、彼の家族史を含め、リアルかつ生き生きと描いている。かなり厚い本ではあるが、読むに連れて面白くなり、どんどん惹き込まれていく。
ピーターラビットの作者であるベアトリクス・ポターが自分の農場の羊と一緒に写っている写真も載っているが、写真や図版はほとんどなく、残念ながら、風景、各種の羊、農場の施設や農機具などのイメージがあまり湧かない。牧畜と縁の薄い生活を送る我々には、言葉だけの説明では、ディテールが必ずしも正確に理解できないという点は、率直に認めざるを得ない。
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羊飼いの暮らしは、”牧歌”じゃない。全然牧歌じゃない。
イギリス湖水地方と言えば、牧草地帯の美しい四季、ピーター・ラビットなどを思い浮かべ、のどかで豊かな自然の中での暮らしに憧れる、観光客にも人気の場所だ。
でもそこには(どこでもそうだが)、観光客が見ている面とはまた違う日々の営みがある。
何世代にも渡る経験と知恵があってこその羊との暮らし、プライド、美しくも過酷な自然、その前にあっては手だても虚しく涙を飲むばかりの口蹄疫。。。
読み終えると、筆者の充足とプライドに、爽やかな気持ちになった。
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イギリス湖水地方で、600年以上に亘り代々牧羊を営み続けてきた家庭に生まれた著者の半生。夏、秋、冬、春と4つの章立てで構成されている。祖父や父に学び、恐らく著者の幼い子供も同じく、他の選択肢なく羊飼いを生業とすること(その繰り返しが600年間継続している)、時に過酷な自然環境、生き物の生死、生き物の血や体液が日常にある生活、子供たちに当たり前のように体験させる著者の考え、などが、取り立ててドラマチックではなく淡々と描かれている。
是非とももう一度読みたい。
またまた読んだ。なせだか、読みながらいつも思い浮かべるのは、上高地の山小屋の人々。先祖(といっても上高地の山小屋はまだ三代目とか四代目で湖水地方の600年には程遠い)から引き継ぎ、美しく、厳しい自然と向き合う。先祖から引き継いだ生業であるけど、その場所は自分たちの所有する場所ではない(国立公園)。先祖から一家総出で守ってきたけど、多くの観光客が勝手に通り過ぎる。場所を守るために、厳しい言葉も通り過ぎる人々に投げかける。義務を守りながらも、多くの観光客は通り過ぎるだけ。
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英国スコットランド湖水地方の伝統的な手法で牧畜を営む一家の生活史であり、著者の青春記でもある。四季に分かれた章立てで、夏から始まり、冬から明けた春で終わる。自然を相手に生活をする者にとり、春が特別な季節であることが良くわかる。
牧羊の記録は興味深いけれど、帯に書かれた絶賛調ほどワクワクはしない。
ハーバード大卒業の著者紹介から、牧羊農家の社会的地位の低さが感じられ、そのギャップが話題なのか、欧米文化での湖水地方に対する憧憬の念がそうさせるのか、読み物としては平凡な印象だ。
生活史か、青春記か、どちらかに軸足を振っても良かったと思う。
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英国湖水地方に生きる羊飼いの暮らし。
場所に根ざして生きることの意味。
柵のないコモンランド。
命のやりとり。
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イギリス湖水地方の羊飼いの手記。
羊飼いというと、羊の大群を引き連れて散歩させて羊毛を刈って生活をしてるのかな、とテキトーな想像をしていたがそれは誤り。
彼らの生計は育てあげたよい羊を売ることで成り立っている。それを行うにはまた色々なTo Do listがある。親の雄羊&雌羊の最適な組合わせを見つけ、羊が繁殖に専念できるよう環境作りを注意を払う必要。産まれた羊飼いが健やかに育つよう、エサ(干し草)の確保。広大な牧場で羊がどこかに行ってしまわないよう、牧羊犬との連携などなど。
先代からの伝承を受け継ぎ、時には破壊的な大自然を前にして、羊飼いは日々従事している。
生と死の場面に何度も遭遇する仕事であることが描写されている。
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ワーズワースやベアトリクス・ポターが愛した湖水地方で代々羊飼いを生業としてきた著者とその一族を語る。
湖水地方の春夏秋冬とともに、羊飼いの仕事を綴りつつ、祖父母から父母・著者とその家族の日々を綴る。
学問など何ぞや、羊飼いとしての経験と知識こそ最も信頼される社会。著者もまた、幼いころから祖父について回り羊飼いのノウハウを体験で学んだ。進学することなど考えてもみない、ちょっと乱暴な仲間たち。そして何よりも頼りになる先祖伝来の羊飼いの知恵。そんな環境の中、著者は祖父・父と続く羊飼いの道を歩む。
そんな中でも、母親の配慮で本を読む楽しさは知っていた。そして、進学の道を進んだ妹たちと自分を比べても、何の遜色もないことを知り、羊飼いとして父親と対立したときに大学進学を選ぶ。大学以前の学校教育を中退していた著者であったが、その知識と体験でオックスフォード大学に入学を果たす。大学なんかに行く変わり者、と少し笑われながらも大学教育を受けたことは、この著書を始めとする著者の現在の活動の大きな転換点と言えるのでは。
伝統的な羊飼いの暮らしを綴り、ともすれば迷惑ともなる観光客のふるまいや、口蹄疫で羊や牛を処分しなければならなくなったことなど、深く考えさせられる。
ウィットに富む語り口の中に、自然や動物を育てる生業の厳しさを強く感じさせる。
ジーンとしてしまう場面、多々あり。
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現代のヘリオット先生シリーズとか、荒川弘の「百姓貴族」のイギリス版みたいなものを想像していたら全然違った。
牧歌的なところはどこにもなく、湖水地方を訪れる観光客や「わかっていない」ナショナルトラストに攻撃的。イギリス北部の小さい農場を継いだ著者の一代記みたいな感じで、家族や友人たちのキャラクターが描かれないので魅力を感じない。湖水地方の自然の魅力が語られるわけでもない。自分の仕事に誇りを持っているのはわかるけど、それは喫茶店経営でもSEでも同じなのでは?
??と思っているうちに読み終わった。イギリスではずいぶん読まれたと聞いてさらに??
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自然の描写を読んで想像するだけで清々しかった。
羊飼いと聞くとのどかなイメージがあるけど、実際の仕事はとてもハードだ。
体力的にもハードなのはもちろん生き物の生死に触れるという点から精神的にもハードだと思う。
また品評会や、仲間との腹の探り合いなど、人間らしい力が試される場面があることも意外だった。
また、その中で観光産業や、工業化にも言及しており、伝統と商業を両立することの難しさも感じた。
昔から変わらない風景というのは、なかなか難しいけどあってほしいと思う。
著者が羨ましいと感じる点は、自分のしたいこと、すべきことが幼い頃からわかっていて、それに向けてまっすぐ努力してきたということだ。
私もいつか著者のようにそれ以外にないと思えるようなことを見つけて取り組んでみたい。
謝辞では心が温かくなった。
普段触れることができない湖水地方の羊飼いの生活を垣間見れて心から嬉しい。
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イングランド北西部、湖水地方の羊飼いの暮らしがどういったものであるかを回顧録的に綴ってくれている一冊。
自身、だいぶ昔に湖水地方でないがイギリスを旅したときの電車からの風景、透き通った青空の下、木々の少ない一面牧草地の広大な丘があってそこに沢山の羊が放牧されていた風景をふと思い出しました。
私は日本の畜産農家の下で生活したことがないので、完全に想像の域であるが、日々の生活や人間関係など、日本のそれと結構近いものがあるんじゃないかなって想像してしまった。
コントロールできない自然現象との戦いに泥臭い人間関係、でも都会の生活より圧倒的に人間らしさを感じれる、そんなことを読んで思い考えました。
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まさに「ランドスケープ=風景そのもの!」
イギリス湖水地方に代々続く羊飼いの四季の営みを綴ったもの。
美しく豊かな風景がそこに存在するということ。それはつまりその風景を守り維持する生活が根ざしているということ。
四季を通して羊飼いの過酷な生活が綴られ自然の美しさと厳しさも綴られている。著者のユーモアを交えた文章にどんどん引き込まれる。
著者は羊飼いの息子として生まれ、後にオックスフォード大学を卒業、現在はユネスコのアドバイザーとしての一面もある(著者紹介より)
ランドスケープ、里山などの持続可能な開発...
それらの仕事に携わる人たちにも是非一読してほしい本だと思う。
目の前にひろががる広大で美しい風景...
そこには四季があり、生活があり、そしてそれは一夜にしてできたものではなく何世代と途切れなく続いた営みに支えられている...とういうことを忘れてはいけないと思う。そんな一冊であった。
素晴らしい!
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ひつじ好きとしては読まねばならぬと思っていた本。
湖水地方を「夢の場所」として描く作家たちに反感をおぼえる若い頃の著者。まあわからなくもない…大切なのは、そのあと、「本当の」湖水地方について書こうと考えたこと、だと思う。言葉にするのって、本当に大事。
仕事はぜんぶ祖父に教わったという。そうやって受け継がれていくことがある一方で、家族というものはままならないなあと思う。
母親が冷蔵庫に貼ったマグネットに「つまらない女性の家は汚れひとつなくピカピカ」と書いてあったというのが、とても、とても…そのマグネットほしい!
ところで、冬はひつじを羊舎に入れたらダメなのかな…過酷…
羊飼いの杖かっこいいな…角を加工するのとか憧れるよねえ。
羊毛を売っても利益にならないというのが悲しい。羊毛の活用については言及されてなくて、ちょっと残念。
著者のTwitterを見ると、高原にひつじの群れ!
日本では見ない品種のひつじ!
やっぱりひつじ好きには夢の場所では…と思ってしまう。
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“私たちのような家族は長い絆を護りながら、時代を超えてお互い寄り添い続ける。人は生まれて死んでいくが、農場、羊の群れ、昔ながらの家族のつながりはずっと続いていく。”
土地に染み込んだ家族の記憶、土地の景観を形作った何世紀にも渡る牧畜のシステム。自らはその一部なんだ、自分の後にも続いていく大きな流れに含まれているんだという帰属感が、著者の人生を形作る。
しかし著者は伝統を重んじて、ただ家業を継いだ訳ではない。
立派な羊飼いである祖父に憧れた幼少期、農場経営方針で父親と対立し新しい生き方を模索して大学に通う青年期、牧畜を生涯の仕事でと定めて家庭を築き、そして家族経営農場で子供達を育ていく著者の半生記が、夏・秋・冬・春の各章にて湖水地方の情景と四季に応じた仕事の描写に織り交ぜられて語られていく。
大学やロンドンでの都市生活、ユネスコの観光プログラムアドバイザーとして各国の伝統的農業地域を巡る中で、もはや事業としては成立しなくても、次世代へ牧畜技術を繋ぐことの重要性と湖水地方の牧畜が持つ文化的意義を、著者は再発見していくのだ。
時制を軽やかに超えることで生き生きと伝わる文章、美しい自然描写など読みどころが多いが、農場での仕事に対する溢れんばかりの愛情と自らの生き方への充足感がひしひしと伝わるところが最大の魅力だろう。
羊の品評会で賞を獲得するビアトリクス・ポターに対して羊飼い達が敬意を表するエピソードや、著者の人柄が偲ばれる謝辞ー特に子供達への想いーには、ほっこりとする。
読後に、改めてカバー写真を見る。
羊の赤い背中や、遠く離れた場所で牧羊犬の活躍を見る人影など、最初に手にした時とは違う視点で美しい風景を見れることだろう。
清々しい気分で読み終えた。
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ピーターラビットやワーズワースを読んで憧れて、旅行したときには景色の美しさに感動した湖水地方、そこでの羊飼いの暮らしが描かれている本だというので興味深く読んだ。
「羊飼い」という言葉にはなんとなくのどかな印象があるが、実際は、当然のことながら厳しい。しかし著者は、家業だから仕方なく継いだのではなく、好きだから自分で選び、誇りを持って続けているということが伝わってくる。
ビアトリクス・ポターは湖水地方の景観を保全するためには、ハードウィック種の羊での農場経営が重要だと考えていた。著者はそれを実践している人たちの1人だ。ワーズワースは湖水地方を独自の文化と歴史が根づく場所と考え、訪問者もそれを理解しなければ訪問者自身がこの地を特別たらしめるものを消し去る負の力になってしまうと主張していたそうだ。著者も同様で、農場経営は著者自身の生活のためというだけでなく、独自の文化と歴史、美しい景観を守るために自分が果たす役割だと考えている。ピーターラビットや詩を軽く読んだだけでは読み取れていなかったことを、この本を読んで理解できた。
著者の半生が描かれているが、時系列ではなく、章立ては季節ごとになっている。農場での仕事は季節ごとにやることが決まっており、天候や羊の状態によって調整はするものの、基本的には同じことをコツコツと、何百年も前から続けてきたし、これからも続けていく。そんな書き方でいながら、著者が子どもの頃から今までどんなふうに生きてきたのかがちゃんとわかるようになっているのもおもしろかった。