投稿元:
レビューを見る
民主制が定着したペリクレス時代、そしてその後のペロポネソス戦争の時代のアテネ。デロス同盟の中心国としてスパルタ、コリント、テーベなどペロポネソス同盟と対峙する。スパルタは一方の中心国でありながら、一国独立主義で、しかも貿易にも文化にも関心がない国。27年にも及ぶ両同盟の戦争において、今一つ戦争に積極的でないアテネ・スパルタが、同盟国の戦争に巻き込まれ、盟主として参戦せざるを得ない歴史がまるで現代を思い起こさせる。そしてアテネに難民が押し寄せ、ペリクレスが批判を浴びる状況も、今のドイツなどの欧州諸国そのもので、苦笑いである。古代3大美男というアルキビアデスがアテネ、スパルタ、ペルシャと渡り歩いた姿には、意外とこの3国が疎遠な関係ではなかったことを感じさせるものだった。アテネがシチリア島シラクサ征伐の遠征の大敗北から勢いを失っていく歴史は、超大国アメリカに重ねてみざるを得なかった。ペリクレスが愛した女性アスバシア、そして若いソクラテス。そのソクラテスに愛されたアルキビアデス、ペリクレスの親友ソフォクレス。彼らの時代関係がよく理解できた。ペリクレス、スパルタ王アルキダモス、そしてペルシャ王アルタ・クセルクセスの3者の信頼関係の深さなどは想像もつかないテーマだった。
投稿元:
レビューを見る
著者の「ローマ人の物語」には耽溺したものだが、「ギリシア人」もいいね!と思った。
本書の前半は政治、後半は戦争を扱っているが、読者により興味の対象はどちらかに傾くのではないか。小生は「政治」に強い興味を持つ。
シーパワーのアテネとランドパワーのスパルタの地中海世界の覇権をかけての闘い。
現在の世界では、シーパワーの英米とランドパワーの中ソの21世紀の覇権をかけてのせめぎ合いの真っ最中である。まさに二重写しになる思いを持つ。
しかも本書では史上初の民主主義システムがどういう結果をもたらしたのかの歴史的事実が描かれている。「衆愚政治」となるとまるで「トランプ」ではないか!
政治システムにいたるまで考察させてくれる本書は実に面白い。著者に尊敬を込めて声をかけたい「塩バア凄い!」と。
2017年2月読了。
投稿元:
レビューを見る
「ギリシア人の物語Ⅱ」
民主政とは何かを考えるに良い題材だ。
スパルタでは寡頭制を取り市民=軍人の陸軍国家で、農業に従事するヘロットや商工業が仕事のペリオイコイには市民権はない。そして最強の陸軍が自国の体制を守り、体制維持を重要視しそれほど覇権を求めなかった。
一方、アテネは海洋国家で、奴隷を除けば資産の違いで身分の違いはあったもののすべての市民が市民権を持つ民主政を取り、最強の海軍が同盟国を率いて大きな貿易経済圏を持つ覇権国家だったといえる。
当然のようにアテネは反映し、アテネの民主政がスパルタに影響を与え体制維持に影響すると考えたスパルタは、最強の陸軍を持つとはいえアテネは鬱陶しい存在であったに違いない。
アテネの民主政が最もうまくいっていたペリクレスの時代は民主政とはいえ、民衆を把握しコントロールして内実はたった一人、すなわちペリクレスがすべてを決めていたという点は興味深い。
そして民主政である以上選挙で選ばれる必要があるが、ペリクレスの選挙区では必ずペリクレスが選ばれており、まさに田中角栄を彷彿とさせる。
民衆の期待と政策が一致し、おそらく経済が上向いているときは民主政は放っておいてもうまくいくのだろう。
しかし、ペリクレスの死後、市民が扇動者煽られて政治家が政争に走り、政権が安定しなくなると、民主政は衆愚制に陥る。
海外覇権のための海戦でスパルタに敗北したアテネは一時深刻な状態に陥るが、市民が団結できる間は持ち直す。しかし、政局が安定せず強力な指導者が不在のアテネでは、アテネ市民がスパルタの海軍に高額な給料で引き抜かれて頼みの海軍が弱体化しどうにもならなくなってしまう。
アテネの派遣同盟であるデロス同盟は解体し、その経済圏がなくなってしまえばもはやどうしようもない。
アテネも何度か改革をするものの、うまくいかず衰退が進んでしまう。
ペリクレスの死後25年で覇権国家ではなくなってしまい、都市国家としては存在したが昔の栄光はなくなってしまう。たった25年、一世代である。
現代と状況はかなり違うと思うが、民主的に権力を持ち民衆を満足させて率いていくことの難しさを考えさせられる。一体何が問題で民主政が衆愚制になってしまうのかがいまひとつよくわからない。独裁にならない強力な指導者というのは実現できるのだろうか。
投稿元:
レビューを見る
なんとも辛い内容であった。
ローマ人の物語と同様に、世界最大の帝国の衰退が描かれている。ローマ帝国では何世紀にも及んだ帝国がギリシアではほんの数十年も続かなかったのである。
本書の中ではアルキビアデスに最も惹かれたが、その運命は酷い。才能溢れる人物が才能を発揮できずに消えていく、もし本書が架空の世界を描いたファンタジーならば作者のセンスを疑ってしまう、そんな内容であった。
投稿元:
レビューを見る
「将来を予測するために歴史を学ぶ」とはよく言われる事ではあるが、人々の不安と、それに向き合うためのリーダーシップについて考える機会となる本であった。
民主政も衆愚政治も、全て民主主義である。形態が若干違うだけにすぎない。
民主政のリーダーは、民衆に自信を持たせることができる人。
衆愚政のリーダーは、民衆が心の奥底に持っている漠とした将来への不安を、煽るのが実に巧みな人。
民衆は一時の苦境は我慢できても、徐々に悪くなっていく状況には耐えられないもの。それは、将来への漠とした不安は、人々がごく自然に持っている感情だからである。
不安から生じた民衆の怒りは、理性をもったリーダーの言葉によって抑えなければならない。
アテネの民主政は、優れたリーダーが生まれた事によって完成した。
そして民衆の怒りがリーダーとなるべき人材を排除したことによって、滅んだ。
投稿元:
レビューを見る
作品の帯にも書かれている通り、「民主主義の罠」というテーマは、現代のトランプ政権などを考えると最もタイムリーなテーマものだろう。
古代で(あるいは近世までで)唯一の民主制であったギリシャが陥った「ポピュリズム」という罠は、民主主義が必然的にもつ欠点なのか考えさせられた。
投稿元:
レビューを見る
第一部は紀元前461年から429年までの民主政(デモクラツィア)がよく機能していたペリクレスの時代。
アテネの覇権がデロス同盟としてエーゲ海全域に及んだ繁栄の時代。
スパルタのペロポネソス同盟とのペロポネソス戦役が紀元前431年に始まる。
第二部は紀元前429年から404年までの民主政が機能していない衆愚政(デマゴジア)の時代。
何度か講和のチャンスが有りながら、
長期を視野に入れた政略の無いデマゴーク(扇動者)のために
ズルズルと27年も戦役は続いてしまう。
魅力的な政治家アルキビアデスの登場も、
考えていたことを終わりまでやらせてもらえなかったこと3度。
最後は広域経済圏であるデロス同盟が崩壊し、
アテネがスパルタに全面降伏、ギリシア世界での覇権を完全に失い戦役終結。
アテネの自滅の物語第2巻の終了。
ペルシア戦役、ペロポネソス戦役ときて次巻はアレクサンドロスによる東征。
投稿元:
レビューを見る
古代ギリシアのアテネが繁栄していた頃の歴史物語。
アテネが繁栄していた頃を中心に話が進み、スパルタとのペロポネソス戦役が終わるまでが綴られている。
民主政治のさきがけとなったアテネは、言論の自由が守られており、良い方に転ぶと繁栄する一方、悪い方に転ぶと扇動者が現れ、衆愚政治におちいり、衰退の道を辿った。
国を方針を決める時に庶民はえてして近くを見てしまう。リーダーは遠くを見据えつつ、近くにも利がある政策を取っていかねば人気は失墜する。
かと言って不安を煽り立ててリーダーを落とし入れると、役立たずがリーダーとなり、国は滅ぶ。という事を現代に教えてくれている気がする。
投稿元:
レビューを見る
ペリクレスの時代からスパルタに敗北するまでの話。これ以前はヘロドトス関係である程度分かっていたし、これ以降についてもアレクサンドロス大王周辺なら少しは知っていた。しかしここで語られる時代についてはほぼ初見の状態で読むことに。
ペルシャを撃退した後にペリクレスという天才が登場する。強力な海軍を持ち、スパルタと違って経済的にも繁栄している。まさしくギリシアの覇権国家となったアテナイ。それがあれよあれよという間に落ちぶれていくから困る。
投稿元:
レビューを見る
BC546-BC404~BC546ヘロポネソス同盟結成。BC477経済面を含むデロス同盟が結成されテミストクレスにより強化される。地震をきっかけにラコーニア地方でヘロットの反乱が相次ぎ,アテネに支援を要請され,アリステイデス死去後のキモンと4千の重装歩兵派遣を決めるが,キモンが退去を命じられ,アテネでも陶片追放され,急進民主派のペリクレスが指導的立場になる。デロス同盟の金庫がアテネに移り,処分を解かれたキモンがスパルタとの間で休戦協定を結ぶが,キモンはキプロス遠征途中で病死。BC450キモンの義兄カリアスがペルシアに派遣され,アテネとペルシアの講和成立。BC447パルテノン神殿着工。BC446休戦協定が失効しナウパクトゥスにアテネが基地を建設,汎ギリシア会議でペロポネソス同盟・デロス同盟の30年間の相互不可侵が決議される。BC438パルテノン神殿完成。BC436ペリクレスが黒海遠征。BC435コリントとコルフが対立。コリントが半島から傭兵を募り汎アテネ非正規軍を編成。BC431テーベがプラタイアに進入するが撃退され,ペロポネソス戦争開始。スパルタはアッティカを荒し,アテネは半島沿岸都市を攻撃する。BC430アテネの市民集会が難民増加と疫病流行による国力衰退を政策の誤りとしてペリクレスを公金悪用の罪で弾劾しストラテゴスから解任。BC429ペリクレス死去,煽動者クレオンに対し穏健派はニキアスを推す。プラタイアが陥落するが,スパルタ王アルキモダスも死去。ピロス・スファクテリアの戦闘でアテネが勝利し,ペルシア王アルタ・クセルクセスが死去。ブラシダス率いるスパルタ非正規軍がカルキデア地方へ進軍し,アテネはヘウクレスとツキディデスを送るが,カルキデアから撤退し,ツキディデスは20年間の国外追放とする。ニキアスの消極策をクレオンが批判するが,BC422ブラシダスとクレオンが戦死し,休戦となる。BC420アルキビアデスが司令官職に当選し,アルゴリス・エリス・アルカディア諸都市と4カ国同盟を結成する。BC417マンティネア敗戦の責を逃れるため他の煽動者を陶片追放することで対抗し,この年を最後に制度廃止。民心一進のためアルキビデスはオリンピアの四頭立て戦車競走に七組を出場させ,表彰台を独占。BC416アルキビアデスがシチリアのシラクサ遠征を訴えるが,翌年出発間際にヘルメス神像破壊事件が起き,アルキビアデスが主犯とされ本国帰還を命令されるが途中逃亡し,スパルタに政治亡命。シラクサはスパルタに援軍を求め,アウトサイダーともいうべきギリッポスが到着。BC413デロス同盟軍壊滅。その間スパルタ王妃との間に男児を作ったアルキビアデスはサルディスに赴きサトラプの軍事顧問になっており、サモス島に上陸してアテネ系住民を煽動して寡頭制に移ったアテネに反対し、事実上アテネに復帰する。アルキビデアスはへレスポントス海峡内のキジコスでスパルタ海軍に勝利し、アテネは民主政に復帰。エーゲ海東方に出発するが、スパルタのアウトサイダー・リサンドロスはアルキビアデスの不在を衝いて勝利を収め、アルキビアデスはマルマラ海西岸に亡命。エーゲ海東方でアテネ・スパルタが衝突し、煽動者のせいで司令官を処刑。BC405リサンドロス率いるスパルタ海軍がアテネ海軍を一網打尽に殲滅。殺害を免れた捕虜は本国帰還を命じられ、アテネが食糧難に陥る。アルキビデアスが暗殺され、デロス同盟が崩壊。アテネ領はアテネとサモス島だけになり、ペレウス港とアテネを結ぶ壁も破壊される~美男のアルキベデアスはソクラテスとプラトンの中間に位置し、ソクラテスの教えを受けて、弁論は巧みだった
投稿元:
レビューを見る
ギリシアの盟主の座をめぐってアテネとスパルタの戦いが延々と続く。27年間にもわたって戦ったという。民主制と軍事体制の国家の戦いであり、今の価値観からすれば「がんばれアテネ」となるのだが、どうもその内実はいただけない。国家の繁栄のためには「優れた指導者がいること」と「国民の民度が高いこと」だというのが分かる。結局、アテネはスパルタに敗れる。読後に残るのは「行き過ぎた民主主義には罠があるのでは」という疑問。民主主義は金科玉条でない。「アラブの春」や「ローソク革命」は本当に正しいことのか。大きな問題意識が残る。
【このひと言】
〇戦場には、市民権をもつ兵士しか連れて行けないのが、当時のギリシアの不文律であった。ぶっちゃけて言えば、アテネの民主制には、戦場へ連れて行ける兵士の数を増やすという意図がひそんでいたのである。
〇「主導権をにぎった側が勝つ」とは戦場では有効な考え方だが、この考え方は、政治・外交・経済、そして文化に至るまで、通用可能な真理ではないだろうか。
〇先を読める人は過去を忘れない。
〇ペリクレスが男にいっさい応じなかったのは、言論の自由を尊重したからではない。言論の自由を乱用する愚か者に対する、強烈な軽蔑ゆえの振舞である。怒りもしなかったのは、この種の愚か者の水準にまで降りていくのを、拒否したからにすぎなかった。怒りとは、相手も対等であると思うから、起こる感情なのだ。
〇政体がどう変わろうと、王政、貴族政、民主政、共産政と変わろうと、今日に至るまで人類は、指導者を必要としない政体を発明していない。
〇勝者は絶対に正しく、敗者は絶対に悪い、とは思っていなかったのだ。勝敗はときの運に左右される場合が多いことを、知っていたのだと思う。ホメロスの叙事詩やギリシア悲劇が、"教科書"になっていたのかもしれない。
〇兵士たちが司令官の口から聴きたいと願うのは、自分たちはどう行動すればよいかという、これ以上ないくらいに具体的な話なのである。また、批判や非難は人々を絶望させるが、兵士に向って司令官が伝えなければならないのは希望である。必ず勝つ、という希望なのだ。
〇やはり、ソクラテスの教えは正しかったのだ。人間にとっての最大の敵は、他の誰でもなく、自分自身なのである。アテネ人は、自分たち自身に敗れたのである。言い換えれば、自滅したのであった。
投稿元:
レビューを見る
社会不安の中でジワジワと崩れていき、ペロポネソス戦役の敗北により一気に崩壊した感じです。
しかも、社会不安の長期化が人々の気質まで変えてしまうのは恐ろしいことです。
戦役の長期化やシラクサの大敗から分かることは、なんでも「あともう少し続けたい」と思っても、切りが良い所でやめておく自制心が大事だということだと思う。
投稿元:
レビューを見る
全三巻になる予定の塩野七生の『ギリシア人の物語』の第二巻。この巻では、ペリクレス時代(現代からは「民主政が最も良く機能していたとされる時代)とそれ以後、アテネがペロポネソス戦役といわれる泥沼の戦争にはいっていき、敗北するところまでが描かれている。それは、まるで明治維新に成功し、日清、日露の両戦争に勝利し、帝国化した日本が第二次大戦で破れ、解体されていく過程と重なってしまうのだった。
投稿元:
レビューを見る
ペルシア戦役後のペリクレス時代から、まさに地獄のペロポネソス戦役までが綴られています。
ペリクレスが腕、いや口を振るった時代のアテネは黄金期を謳歌します。
ペルシアとスパルタの二国とも平和を取り決め、経済と文化の発展が止まりません。
その最中、ペロポネソス戦役の火種が燻り始めます。
アテネとスパルタの長は、お互いに辺境の略奪というちょっかいで国内の不満を解消しようと努力します。
しかしその消耗戦も長くは続かず、悪いことに二人の長はほぼ同時期に亡くなります。
斯くして、デロス同盟とペロポネソス同盟は水と油の存在となり、講和の機会を逃し続けて27年の歳月を戦争に捧げることになります。
アテネだけでなくギリシア世界の繁栄と衰退の大きな波が、2巻のお話でした。
3巻にも期待します。
投稿元:
レビューを見る
いやぁ~面白かった。
人の不幸は蜜の味。
ギリシャの中で中心的な位置を占めるアテネ人の滅亡部分が語られています。
ローマ人の物語でもローマは滅亡するのですが、何しろ長い。
第1巻でペルシャ戦役に勝って盟主の地位を得たアテネが第2巻では滅亡しちゃうんですから、途中で飽きる暇もない。^m^
例によって例のごとく、塩野女史の個人的な好みがベッタリ加わっての記述だけど、その徹底振りが却って微笑ましく読めます。
彼女が大好きなペリクレスで終始するのかと思いきや、存外にあっさり描いていますね。
哲学科卒業だから、ソクラテスにも入れ込むのかと思いきや、これも淡白な描写。
結局のところ、イケメンのアルキビアデスに浮気しちゃったのね。
彼女の言わんとするところは明快。
どんな政体を取ろうとも、必ずリーダーが不可欠なこと。
そのリーダーによって、国家の幸不幸が大きく左右されてしまうこと。
民主主義の最大の欠点である、衆愚政治はいつの時代にも避けられないこと。
これは、その後に続いたローマでも、そして現代も変わらない真実ですね。
あと、気になったのが塩野女史も歳をとったなぁ~という点。
同じことを必要以上に繰り返すことが目に付きました。
しかし、図表をケチらずに載せてくれるのは大変助かります。