紙の本
とりとめもなく続く…
2018/01/23 11:10
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投稿者:kaoriction - この投稿者のレビュー一覧を見る
コンビニで売ってる五百円のビニール傘。
アナタが手にしたその傘は、誰のもの?
何処で買ったの?
どこにでもある、誰もがひとつは持っている、小さな透明のビニール傘。
同じ街、似たような「俺」たち「私」たち。「彼女」に「彼」。俺は彼だし、彼女だし、私は俺だし彼でもあって彼女でもある。
誰が誰の傘を差していたとしても「透明な膜が俺たちを包む」。
安っぽい傘で自分の人生を守っているの?
*
本当はあの犬のように何かに守られながら、囲まれながら死にたかったのに、彼女はひとりで死んだ。
とりとめもなく続く私たちの人生。
一体、本当は誰のもの?
*
松田青子『スタッキング可能』をシビアでダークにした感じに思えた。鬱屈とした息苦しい感じ。
併録の『背中の月』もモヤモヤ、ムズムズ感が残るというか。社会学者の著者ならではの視点なのかな。
*
みんなのココロにビニール傘なんていらない日が来ることを願うばかりだ。
*
第156回芥川賞候補作。
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短編2編で、ビニール傘は俺と私の物語。様々な視点で若者たちのやるせなさが描かれる。背中の月は若い夫婦の話。妻を失った喪失感を抱えながら生活する。どちらも、にぎやかではない朽ちていく大阪が描かれ、物語の雰囲気を作っている。著書は社会学者で初の小説。先が楽しみだ。
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収録されてる二編を読むと住んでいない町のことなのに、身近だ。それは僕らが生きている今はそれまで生きてきた過去の断片たちと共にあるから。未来は現在を引き連れて、現在は過去に背中を押されている。だから、知らない町の誰かと自分の何かが共鳴し、しない部分が鮮明になる。
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芥川賞候補作、(受賞したのは、山下澄人の『しんせかい』)
『ビニール傘』と『背中の月』の短編2作が、連作短編とまではいかないがほんの少し交差している。
只々、何気無い会社勤めの若者が大阪という地方で生きていくさまが描かれている。
読みモノとしてみれば考え抜かれた文章で、読み易く、面白い部類だと思うが、この120頁の中で何を描きたかったのかが伝わって来なかった。
今の時代の標準偏差的な生活を並べたうえでの絶望や悲惨さだったのか、はたまた希望だったのか。
その辺が『ビニール傘』から見る景色のようにボヤけていたように思う。
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新地での日常の場面が、映画のように移り変わっていき、最後に1人の女性を追っていたんだとわかる。
途中でそうかな?とは思うがわかりにくく、最後の女性の一人称に変わってもなお確信が持てない感じ。場面場面がもう少し細い糸で繋がっているのが見えたら安心して読み進められたと思うけれど、同じ人??という疑問でページを行きつ戻りつしてしまったので気が散って入り込めなかった。
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2つの短編の舞台は大阪。
なんか悲しい街として描かれています。
芥川賞候補だったこの表題作。断片的に変わる視点。みんな悲しいのだもの、正直混ざってよくわからなかった。
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『断片的なものの社会学』に出てくる人々。それぞれ1人ずつが小説の登場人物のようだったが、本書では彼等が実際に動き出す。大阪の土地勘がほとんどないにもかかわらず、景色が眼に浮かび、会話が耳で聞こえてくるような‥リアルで不思議な読後感だった。
惜しくも芥川賞受賞を逃したことをネタにされる著者のお人柄も含め☆☆☆☆☆
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あまり読んだことがないタイプの小説。ぼーっと読んでいると今、誰の話をしている??となる。
日々の何気ない生活、何か虚しくなる感じ、読んで良かった
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全体的に寂しさが漂う小説。あっという間に読めるページ数なのだけど、ところどころで状況がよくわからなくなります。脈絡なく変わる状況に私の頭はついていけない箇所も多々あった。あれ?これはさっきの人と違うの?全く違う話?繋がってる?でもちょっと違う?と混乱。
この本はきっと詳細を読み込むよりも、全体に流れる寂しさを感じとるもの、そんな風に思います。
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帯の文に惹かれて購入。すごく不思議な小説だった。著者の本業が社会学者だというのも、関係あるのだろうか。
「パッチワークを作る時、普通は柄の違いに気を取られるが、岸さんは縫い代を見ている」という小川洋子さんによる帯の一文がとてもしっくり来る。
表題作には、名前のない男と女が複数登場する。1人でいたり、カップルでいたり。その人物(たち)がパッチワークを作る1枚の布だとしたら、たくさんの布によって構成されるパッチワークの、まさしく縫い代の部分を描いているように感じる。
人は濃かったり薄かったりする人間関係をたくさん持っていて、その中で予想外の人同士が繋がっていたりする。たくさんの組み合わせの布で作られるパッチワーク。現実の人間模様も、そのように構成されていると思う。
これは実際読んでみないと分からない感覚かも。毎度レビューは書いているけれど、言葉で説明するのがこれほど難しい小説と久々に出逢った。
ストーリーがどうとかで語れる類ではないのは確か。
表題作ともうひとつの「背中の月」にもよく読むと繋がっている部分があることに気づく。
短い2作のみの薄い小説だけど不思議な感触が印象に残った。
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たぶん、登場人物は実際に生きている人たちの多くの人生の断片を写し取って描かれていて、だから少ない登場人物であるにもかかわらず、読んでいてある種の混乱を巻き起こすんだと思う。この人の文体は優しい、そしていつも寂しい。それがクセになる。
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大阪市に住んでいる、住んでいた人にはすぐ入ってきやすいと思う。地名や駅名がたくさん出てきて、あー、あのあたりなら、ありえるな〜と。
他の地域の人が読むとまた違うかも?
全体的に暗い。貧困がテーマかな?
ありえそうな、転がってそうな話で、短いのですぐに読める。最初、誰が語り手なのか分からないが2章で回収されている。
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「ビニール傘」と「背中の月」2編。
とても読みやすい。写真もあって。
大阪が舞台だし、なんだろう2編ともとてもリアル。
若い子が田舎から出てきて、寂れた街で人間関係に悩みながら1人暮らしていく。
突然伴侶を失い、妻の存在を思いながら毎日淡々と暮らし・・・
ちょうどいい厚みでサクッと読めるけど、結構心にずっしりくるかも。
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【ビニール傘】
『俺以外の全員がタバコを吸い、スポーツ新聞を広げ、コンビニおにぎりを食っている。みんなゴミを吸い、ゴミを読み、ゴミを食っている。』
『怖くなってもういちど横を振り向くと、彼女もこっちを見上げて、どうしたん? と聞いた。おれはますますポケットのなかの手をぎゅっと握りしめた。痛いやん。彼女は笑いながら、自分もありったけの力で握り返してきた。おお、意外に握力強いやんか。笑いながらもういちど握り返すと、彼女は大きな声でいたたたた、ごめんごめん、とゲラゲラ笑いながら手をポケットから出し、つないだまま大きく前後に振りながら歩いた。』
『俺たちが暮らしているのはコンビニとドンキとパチンコと一皿二貫で九十円の格安の回転寿司でできた世界で、そういうところで俺たちは百円二百円の金をちびちびと使う。』
『誰かが携帯の画面を親指でなぞるたびに、どうでもいいことがどうでもいいひとたちに流れていく。』
『もっといろいろな人と付き合ったら、そのうち幸せになれたんだろうか。でも、誰かと一緒にいるあいだは、ほかの誰かと一緒にいることができないから、ある人と付き合っているあいだに、時間ばっかり経っちゃって、そうしてるうちに私を幸せにしてくれる人は、とっとと誰かと付き合っちゃうんだろう。』
【背中の月】
『誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる。』
『妙な話だが、幸せなとき、楽しいとき、遊びにいっているときよりも、急な葬式が入ったとき、人間関係でめんどくさいことがあったとき、仕事上のトラブルに巻き込まれたとき、ああ俺たちはふたりなんだなと思う。』
『隣のベッドの、美希がかつて寝ていたところに置いた手の甲に、月の光が当たっている。また行きたいね、あの店なんだっけと言いながら俺たちは結局、あの街にも、あの店にも、あの海にも、二度と行くことはなかった。俺はベッドから起き上がり、窓をしめてから、また横になった。大阪にまた、夏がやってきた。毎年のことだが、大阪の夏は今年もまた、耐え難いほど蒸し暑い。交通事故、交通事故、定休日。キャメルのコート、廃屋、環状線。夜の海の、白い魚。』
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大阪で生きる若者の姿を描いた作品。
何かでっかいことをやり遂げるわけでもなく、だからといって感動的な何かがあるわけではない。
そんな暮らしを描いた作品だったように思う。
人生とはなんぞやと考えさせられる作品だった。