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騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編 みんなのレビュー 新刊

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みんなのレビュー70件

みんなの評価4.2

評価内訳

64 件中 1 件~ 15 件を表示

2017/03/09 23:49

投稿元:ブクログ

久々の村上春樹
この人の比喩表現はいつも素敵だと思うのだけど、今回は全般に冗長な書きぶりが目につくか。一人称が「私」なのもちょっと違和感。

展開としては一本道で読みやすい。珍しくハッピーエンドなのも賛否が分かれそう

2017/03/19 16:43

投稿元:ブクログ

【No.55】「あなたはものごとを納得するのに、普通の人より時間がかかるタイプのようです。でも長い目で見れば、たぶん時間はあなたの側についてくれます」「四十歳という年齢は人にとってひとつの分水嶺なのだ。そこを越えたら、人はもう前と同じではいられない」「成功を収めたあとの人生というのは、往々にして退屈なものだ」「遠くから見ればおおかたものごとは美しく見える」「原因のない結果はない。卵を割らないオムレツがないのと同じように」「人は時として大きく化けるものです。自分のスタイルを思い切って打ち壊し、その瓦礫の中から力強く再生することもあります」「大胆な転換が必要とされる時期が、おそらく誰の人生にもあります。そういうポイントがやってきたら、素早くその尻尾を掴まなくてはなりません。しっかりと堅く握って、二度と話してはならない。世の中にはそのポイントを掴める人と、掴めない人がいます」「誰かと一緒に暮らすということが、ワタシの性格や生き方に合わなかった」「たとえどんな結果が出るにせよ、ものごとには必ず良い面と悪い面がある。良い面を見るようにしろよ。つまらん忠告かもしれないが、どうせ同じ通りを歩くのなら、日当たりの良い側を歩いた方がいいじゃないか」

2017/02/26 21:26

投稿元:ブクログ

2017年13冊目。

いつかのインタビューで、「『カラマーゾフの兄弟』のような総合小説をいつか書きたい」と言っていた記憶がある。
今作のタイトルから「父なるものを殺す」というイメージが湧き、あの時の宣言に対する挑戦作なのではと想像した。
騎士団長と『海辺のカフカ』のカーネル・サンダース、穴の中にこもるシーンは『ねじまき鳥クロニクル』の井戸のシーン、など、過去の作品からの既視感が強い表現が多い印象を受けた。
が、それはやはり村上春樹さんの中の強烈なイメージが出てきている証拠で、それらのイメージが今作でさらに深まって、過去に出してきたものの集大成的なものとなる、という期待を第2部に。
芸術家の主人公であることからも、著者自身の「創作」に対する捉え方が如実に表れている気がする。
暗くて深い場所をくぐり抜ける体験を、物語を通じてしたい。

2017/03/01 20:31

投稿元:ブクログ

ここ最近の作品には、何となく外国語訳された姿が透けて見えていましたが、今回は趣が違います
淡々とたくさんの情報が詰まった文章が続きますが、目は滑りません

2017/03/16 10:46

投稿元:ブクログ

村上春樹の期待の新作。
ハルキストなわけではないのだが、やはり手にしてしまった。

読んでみて一言、やはり村上春樹である。
この何ともこそばゆい性的表現など特にそう思う。
果たしてこの部分は必要なのか?と思わせるぐらいに。

物語に関してのあーだこーだは
第二部を読み終わるまでとっておくことにしよう。

2017/02/26 07:49

投稿元:ブクログ

以下、ネタバレ含む。

生々しさというのだろうか。

騎士団長殺しの絵が目の前に広げられる瞬間や、夜中ある時間に決まって鈴が鳴るということ。
読んでいる自分にまで、気味悪さを与えられる文章。上手いなぁと思う。

騎士団長イデアと主人公の関係性、
主人公はどうやらイデアとぴったりとくっついている。
登場シーンこそ怖さ満載だったけれど、意外とコミカルな雰囲気も持ち合わせている。
何故、蓋から出ている男ではなく、騎士団長を体現して出てきたのか。

石室と闇の時間。突然突き付けられる愛する妻からの別離。夜中のファミレス。
そうした村上春樹の空間から、何が生み出されるのだろう。

下巻に進む。

2017/02/26 01:13

投稿元:ブクログ

17/02/24。
3/14読了。
柚。
免色の双眼鏡→日本画→美術鑑賞用双眼鏡。
上田秋声→春雨物語
免色→『田崎つくる』

2017/03/06 00:22

投稿元:ブクログ

まさかのグレートギャツビー来ました。
最初はいつも同じで辟易しながら。
300ページごろから今回のギミックわかり始め、
400ページごろからグレートギャツビーに寄っていく。
この方がそれを書くということは、総決算なのかもしれない。

ちなみにイデア使い方がおかしいのはわざとだろうか。ここでのイデアは抽象的思考の産物という意味に思える。たしかに抽象的なものの全ては理想の産物言えなくもないが。するとこの作中絵の中は、基本的にイデアである。

メモ
一人称ふたたび
パラレル構成は無し
画家=村上そのまま。内面を見る仕事。
前作短編、女のいない男たち、から地続き。
羊男ポジションは騎士団長。
構造はグレートギャツビー
ビルドゥングスロマン。画家としたせいで、成長の物語になっている。喪失→混沌→成長の流れ
混沌の中には、今まで蔑ろにしたもの、見ようとしなかったもの、決定的に欠けているもの、暴力衝動などがあり、向き合い乗り越えること。

2017/03/09 22:32

投稿元:ブクログ

久しぶりの新作。
ゆっくり読もうと、意識的に時間をかけて読みました。
絵描きさんのお話だったので、今までの作品の中で一番興味を惹かれる出だしでした。

2017/02/28 15:45

投稿元:ブクログ

 今日、短い午睡から目覚めたとき、〈顔のない男〉が私の前にいた。
…でもそのときは紙がどこにもなかったから、あなたを描くことはできませんでした」と私は言った。私の声も同じように抑揚と潤いを欠いていた。「そのかわり代価として、あなたにペンギンのお守りを渡しました」

 私は戸惑った。「しかし、急にそう言われても、ぼくはまだ顔を持たない人の肖像というものを描いたことはありません」

「待ってください。あと少しすれば-」
 男は帽子をかぶり直し、また顔を半分隠した。「いつか再び、おまえのもとを訪れよう。そのときにはおまえにも、わたしの姿を描けるようになっているかもしれない。そのときが来るまで、このペンギンのお守りは預かっておこう」
 そして顔のない男は姿を消した。

 いつかは無の肖像を描くことができるようになるかもしれない。ある一人の画家が「騎士団長殺し」という絵を描きあげることができたように。しかしそれまでに私は時間を必要としている。私は時間を見方につけなくてはならない。

 その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの山の上に住んでいた。

 その家に越して最初にやったのは、安価な中古車を手に入れることだった。それまで乗っていた車は、少し前に廃車処分にしていたので、新たに車を購入する必要があった。地方都市では、とりわけ山の上に一人で住んでいるような場合には、日々の買い物をするのに車は必需品となる。小田原市郊外のトヨタの中古車センターに行って、格安のカローラ・ワゴンを見つけた。セールスマンはパウダーブルーと言ったが、病気をしてやつれた人の顔のような色合いの車だった。

雨田政彦 美大でクラスが同じ
雨田具彦(ともひこ) 父親 高名な日本画家 認知症

 妻と別れてその谷間に住んでいる八ヶ月ほどのあいだに、私は二人の女性と肉体の関係を持った。どちらも人妻だった。…彼女たちと肉体関係を持つことは、道路でたまたますれ違った人に時刻を尋ねるのと同じくらい普通のことのように思えた。

 その次に関係を持ったもう一人の人妻は、幸福な家庭生活を送っていた。少なくてもどこといって不足のない家庭生活を送っているように見えた。そのとき四十一歳で(だったと記憶している)、私より五歳ほど年上だった。

肖像画家 結婚 独立

 そんな自分自身に対して、どこかで私は見切りをつけるべきだったのだろう。何かしらの手を打つべきだったのだろう。しかし私はそれを先送りにし続けていた。そして私より先に見切りをつけたのは妻の方だった。私はそのとき三十六歳になっていた。

 その夜の七時までに、私は身の回りのものをビニールの大きなジムバッグに詰め込み、赤いプジョー205ハッチバッグの荷台に積み込んだ。

「ねえ、私にもひとつだけお願いがあるんだけど」と彼女は言った。「もしこのまま別れても、友だちのままでいてくれる?」
「さあ、どうだろう」と私は言った。それ以上の言葉は見つからなかった。たぶんそこに立ったまま一週間考えても、言���は見つけられなかったはずだ。だからそのままドアを開け、外に出た。

 私が初めて妻に出会ったのは、三十歳になる少し前だった。…それなのに私は一目見ただけで唐突に、まるで雷に打たれたみたいに彼女に心を奪われてしまった。どうしてだろう?その原因に思い当たるまでに数週間がかかった。でもあるときはっと思い当たった。彼女は、死んだ妹のことを私に思い出させたのだ。とてもありありと。

 私はそのままプジョーを運転して東北地方を縦断し、東京まで戻るつもりだったのだが、国道六号線のいわき市の手前でついに車の寿命が尽きた。
…車を処分してもらうお礼に、テントと寝袋とキャンプ用品はその修理工に進呈した。最後にプジョー205のスケッチをしてから、私はジムバッグひとつを肩に担ぎ、常磐線に乗って東京に戻った。

広尾のマンション
…そして窓際に立って、降り続く外の雨をしばらく眺めた。オレンジ色の東京タワーがその奥にほのかに浮き上がっていた。それから部屋の鍵を郵便受けに落とし、車を運転して小田原に戻った。おおよそ一時間半の道のりだ。でもまるで日帰りで異国に行って戻ってきたみたいに感じられた。

小田原駅前のカルチャー・スクール 絵画教室

「どうしてかな。こんなすてきな身体なのに」と私は言った。
 彼女は小さく肩をすくめた。「結婚して十五年以上になるし、子供も二人いるし、もう新鮮じゃなくなってしまったのよ」
「ぼくにはとても新鮮に見えるけど」
「ありがとう。そう言われると、なんだかリサイクルでもされているような気がしてくるけど」
「資源の再生利用?」
「そういうこと」
「とても大切な資源だよ」と私は笑った。「社会の役にも立つ」
 彼女はくすくす笑った。「正しく間違えずに仕分けさえすればね」
 そして我々は少し時間を置いてから、もう一度資源の入り組んだ仕分けに意欲的に取りかかった。

 私は天井を見上げ、ユズのことを考えた。彼女もどこかでほかの誰かと、これと同じことをしていたのだろうか?

…もしそんなところを写真に撮ったら、大半の女性は嫌がるだろうし、そういうことをする相手に嫌悪感や警戒心を抱いたりもするだろう。しかしそれが素描であれば、そしてうまく描けていれば、彼女たちはむしろ喜んでくれる。そこには生命の温かみがあるからだ。少なくても機械的な冷やかさはない。

 私は三十六歳になっていた。そろそろ四十歳に手が届こうとしている。四十歳になるまでに、なんとか画家として自分固有の作品世界を確保しなくてはならない。私はずっとそう感じていた。四十歳という年齢は人にとってひとつの分水嶺なのだ。そこを越えたら、人はもう前と同じではいられない。それまでにまだあと四年ある。しかし四年なんてあっという間に過ぎてしまうだろう。

 私がその「騎士団長殺し」という不思議な題をつけられた雨田具彦の絵を発見したのは、まったくの偶然の成り行きによるものだった。

 幾重にも重ねられた茶色の包装紙の下には、さらしのような柔らかい白い布でくるまれた簡易額装の絵があった。私はその布をそっとはがしてみた。重い火傷を負った人の��帯をはがすときのように、静かに用心深く。

地面に開いた穴?四角いマンホール?
モーツアルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」

 インターネットの株取り引きで儲けた人間や、IT関係のアントレプレナーたちが、いくら金が余っているにせよ、たとえ経費で落とせるにせよ、自分の肖像画を描かせて備品としてオフィスの壁に掛けたがるとは私には思えなかった。その多くは洗いざらしのジーンズとナイキのスニーカー、くたびれたTシャツにバナナ・リパブリックのジャケットという格好で仕事をし、スターバックスのコーヒーを紙コップで飲むことを誇りとするような若い連中だ。

銀色のジャガーのスポーツ・クーペ 免色渉

Blessing in disguise.

 妹は中学校からの帰り道、西武新宿線の駅の階段を上っているときに意識を失って倒れ、救急車で近くの救急病院に運び込まれた。…そして次に顔を合わせたとき、彼女はもう呼吸することをやめていた。大きな目は永遠に閉じられ、口は何か言いたそうに小さく開かれていた。その膨らみ始めたばかりの乳房はもうそれ以上膨らむことをやめていた。
…私としては、そんな狭苦しい箱の中に妹の華奢な身体を詰め込んでほしくなかった。…でも実際には彼女は小さな、馬鹿げた棺の中に収められていた。まわりに飾られているのは、鋏で切られた花瓶にいけられた不吉な白い花ばかりだった。狭い部屋を照らしているのは色を抜かれたような蛍光灯の光だった。天井に埋め込められた小さなスピーカーからは、オルガン曲が人工的な音で流れていた。
 私は彼女が焼かれるのを見ていることはできなかった。…

 もうひとつ妹の死が私にもたらしたものがある。それは極度の閉所恐怖症だ。…

 また私は人並み以上に大きな乳房を持つ女性に対して、怯えに似た感情を抱くようになった。それが十二歳で死んだ妹の、膨らみかけた乳房と関係しているのかどうか、正確なところはよくわからない。しかし私は昔からなぜか小振りな乳房を持った女性に心を惹かれたし、そのような乳房を目にするたびに、それに手を触れるたびに、妹の胸の小さな膨らみを思い起こすことになった。



…それから彼女は急に立ち上がり、履いていた黒い上品なパンプスを放り出すように脱ぎ捨て、ワンピースの下に手を入れて手早くストッキングを下ろし、下着を下ろした。そしてもう一度彼の膝の上に乗って、片手を使って彼のペニスを自分の中に導き入れた。それは既に十分な湿り気を帯び、まるで生き物のように滑らかに自然に活動した。すべては驚くほど迅速におこなわれた(それもどちらかといえば彼女らしくないことだった。ゆっくりとした穏やかな動作が彼女の特徴だったから)。気がついたときには、彼はもう彼女の内側にいて、その柔らかい壁が彼のペニスをそっくり包み、静かに、しかし躊躇なく締め上げていた。
 それは彼が彼女とのあいだでこれまで経験したどのようなセックスとも、まったく違っていた。
…彼女の動きは時間を追ってますます大胆にダイナミックになっていった。彼女の求めることを妨げないようにする以外に、彼にできることは何ひとつなかった。そしてやがて最終的な段階がやってきた。彼が耐えきれずに射精すると、それに合わせて彼女は異国の鳥のような声を短く上げ、彼女の子宮はそのときを待ち受けていたかのように、精液を奥に受けとめ、貪欲に吸い取った。暗闇の中で自分がわけのわからない動物に貪り食われているような、そんな混濁したイメージを彼は持った。
…それが彼女に会った最後だった。

結婚 出産 手紙

上田秋成 春雨物語 造園業者

 私が家を出ていくとき、妻が最後に口にした言葉を忘れることができなかった。…「さあ、どうだろう」としか答えられなかった。そしてそれが私が彼女に面と向かって口にした最後の言葉になった。最後の言葉としてはずいぶん情けないひとことだ。

肖像画の完成
「早川漁港の近くに、昔から親しくしているフレンチ・レストランがあります。その店の定休日に、コックとバーテンダーをこちらに呼びましょう。腕の確かな料理人です。…」

 でもその長い旅行のあいだ、ただ一度だけ生身の女性と性交したことがある。わけのわからない不思議な成り行きで、私はその見知らぬ若い女と一夜のベッドを共にすることになった。私の方から求めてそういうことになったわけではなかったのだが。
 それは宮城県の海岸沿いの小さな町での出来事だった。

白いスバルフォレスターの男

「いらっしゃいよ」と彼女は私に言った。「せっかくこういうところに来たんだから、セックスをしよう」
…それが宮城県の海岸沿いの小さな町で私が経験したことの一部始終だ。

 そのとき私は、居間のソファの上に何か見慣れないものがあることにふと気づいた。クッションか人形か、その程度の大きさのものだ。しかしそんなものをそこに置いた記憶はなかった。目をこらしてよく見ると、それはクッションでも人形でもなかった。生きている小さな人間だった。

「かまうもかまわないもあらないよな。雨田先生はもうおぼろで平和な世界に移行してしまっておられるし、騎士団長だって商標登録とかされているわけじゃあらない。ミッキーマウスやらポカホタスの格好をしたりしたら、ウォルト・ディズニー社からさぞかしねんごろに高額訴訟されそうだが、騎士団長ならそれもあるまい」

…午後六時ちょうどに、黒塗りの大型セダンがしずしずと坂道を上がってきた。それは私に霊柩車を思い出させたが、もちろん霊柩車なんかじゃなくて、免色がよこした送迎リムジンだった。車種は日産インフィニティだった。

「バラライカを」と私は数秒考えてから言った。とくにバラライカを飲みたかったわけではないが、本当になんでも作れるかどうか試してみたかったのだ。
…ウォッカとコアントローとレモン・ジュースを三分の一ずつ使って人はバラライカを作る。成り立ちはシンプルだが、極北のごとくきりっと冷えていないとうまくないカクテルだ。腕の良くない人が作ると、ゆるく水っぽくなる。しかしそのバラライカは驚くばかりに上手につくられていた。その鋭利さはほとんど完璧に近かった。

秋川まりえ 絵画教室の生徒

 私はやってきたガール・フレンドに、免色の家での夕食会のことを話した。…彼女は熱心なスポーツ・ファンが、贔屓チームの昨日���試合の得点経過を事細かに知りたがるように、食卓に供された食事の詳細を知りたがった。

騎士団長殺し 1938年にウィーンで実際に起こった暗殺未遂事件をモチーフ

 あくる日の午後、私は署名捺印した離婚届の書類を投函した。
…そして日曜日の朝、十時少し前に秋川まりえがうちにやってきた。明るいブルーのトヨタ・プリウスがほとんど音もなく坂を上ってきて、うちの玄関の前にそっと停まった。車体は日曜日の朝の太陽を受け、晴れがましく鮮やかに輝いていた。まるで包装紙を解かれたばかりの新品のように見える。…秋川まりえの叔母がどのようなわけでブルーのトヨタのプリウスを選択したのか、もちろん私には知りようもない。いずれにせよその車は、自動車というよりは巨大な真空掃除機のように見えた。

「ねえ、わたしの胸って小さいでしょう」とまりえは言った。
「そうかな」と私は言った。
「膨らみそこねたパンみたいに小さいの」

前妻からの手紙 白クマのカード
 それから私は日曜日に自分が秋川まりえに、離婚後の生活について口にしたことを思いだした。

 彼女と最初に性交したときのことをよく覚えている。我々は地方の小さな旅館に行って、そこで記念すべき最初の夜を迎えた。…この女を手放すようなことは絶対にするまいと、私はそのときに堅く心に誓った。それは私にとって、それまでの人生における最も輝かしい瞬間であったかもしれない。ユズをようやく自分のものにできたこと。

 ぼくもぼくのことが理解できればと思う。でもそれは簡単なことじゃない。
 それは私が秋川まりえに向かって口にした言葉だった。私はタオルで身体の汗を拭きながらそのことを思いだした。

「わたしはドイツ兵のために色彩画を描いている。…でもな、誰がなんと言おうと、わたしが描きたいのはドイツ人たちの家族なんかじゃない。わたしは〈隔離病棟〉に積み上げられた子供たちを、白黒の絵にしたいんだ。やつらが殺戮した人々の肖像画を描き、それを自宅に持って帰らせ、壁に飾らせたいんだよ。つくしょうどもめ!」
 画家はこのときとりわけひどく神経を高ぶらせた。

2017/03/10 21:51

投稿元:ブクログ

 7年ぶりの長編とのこと。いつの頃から構想され、執筆が開始されたのだろう。ここ2年ほど映画で見聞きすることの多かった、1938年のドイツ、ナチスに関わる話が大きく絡んできていて、不思議な時代の符合に思いを馳せる。

 作品タイトルはモーツァルトのオペラ≪ドン・ジョヴァンニ≫の場面から採られたものだが、それをモチーフとしたかのような日本画を主人公が発見する。その絵の作家が70年ほど前にオーストリアにいて、その絵が大戦前のナチの凶行体験を描いているかもしれないという謎解きが流れのひとつとなっている。

 ナチの凶行というのが、1938年のアンシュルス(独墺併合)であり、同年のクリスタル・ナハト(反ユダヤ暴動、迫害)のこと。アンシュルスについては『黄金のアデーレ 名画の帰還』だし、クリスタル・ナハト崇拝者は『手紙は覚えている』に出て来ていた。そうしたナチの蛮行を知ったドイツ人が翌年ヒトラー暗殺を企てた『13分の誤算』もあった。観た作品、観なかった作品含め、近年はナチスものが多いなと感じて過ごしたが、村上作品でも取り上げられているとは。件の日本画作家が既に90を超えて介護施設に居り、記憶も曖昧なままにその秘密を胸に間もなく彼岸に旅立という設定も『手紙は覚えている』を彷彿とさせた。

 戦後70年を過ぎ、先の大戦を、ナチスの所業を風化させてはいけないという危機感が大きな流れとして世界の中にあるのだろうか。

 作品としては、実に村上春樹らしい作品なのでしょう(って、言えるほど氏の作品は読んでない)。
 妙な鈴を見つけてしまうことで「世界の合わせ目に微かなずれが生じてしまった」りするのは『1Q84』的な不思議な世界。名前からして”色を免ぬかれる”という『色彩を持たない多崎つくる・・・・』を彷彿させる登場人物(実は全然違うのだけど)。そして例によって、『女のいない男たち』に出てきた男たちのように、”いない”どころか、都合のよい”女のいる”男が主人公と、けっこう近年の村上作品の集大成的な?(笑)

 あぁ、そういえば、免色さんって存在がグレートギャッツビーを想起させるのも、フィッツジェラルド好きな村上春樹っぽく、そんな点もらしすぎるくらい、らしいと、ハルキストでもない自分でさえ思ってしまう。長年村上作品を読み親しんでいるファンは、嬉しいのか既視感なのかどんな思いを抱くのだろう。

 そんなこんなで、サクサクと読み進められた第1部。
 読後感は、第2部にて。

2017/03/21 12:27

投稿元:ブクログ

始まり方がとくに好きだった。
微睡みの中の物語のような。
読むのに時間がかかりすぎて疲れてしまったけど、第2部への入口の最後も好きだなと思いました。

2017/03/10 18:35

投稿元:ブクログ

 『2017年 2月 25日 発行』版、読了。


 二部構成の第1部。そのタイトルから、いくつもの想像を巡らせながら読んでみたけれど……不思議なプロローグからはじまって、画家である主人公が妻から離婚を切り出されて、一人での生活をはじめだすと、いろいろな出来事が起こりだしていく話。

 いつもの作者特有の現代のお話でありながら、ファンタジックなことと、ミステリアスなことが散りばめられた内容でした。

 文体は非常に読みやすく、誤字脱字が一切ないという、そういう意味では完璧に近い一冊でした。

 そして描写が、丁寧で無駄がない。しかし、余韻と想像力を刺激するという印象がありました。

 なにより、読後すぐに「第2部を読まなくては!」と、思わせる内容です☆


 個人的には、祠の裏にある例の場所や、イデア、そして主人公の結末などなど、気になる要素がいっぱいです。

 ただ、序盤で主人公のこれからおこる出来事の時期的な紹介が明確にされているので、そういう意味では、これまでの作者の作品に比べても、なんとなく結末が想像しやすい内容ではあるかな……とは思いました。

 登場キャラクターとしては、今回も印象に残る方々がいっぱいです。免色さん、イデア、ユズ、コミ、まりえ、白いスバル・フォレスターの男などなど……第2部でどのような展開が待ち受けているのか、引き続き、読み進めていこうと思わせる一冊でした☆

2017/02/28 10:04

投稿元:ブクログ

過去に編まれた諸作品のような、新しくて強烈な影響力を持った作品ではない。それらから立ち上がったテーマを練り上げ、熟し、行く末を示そうとした作品。
疑問符も納得感も半々ぐらいずつ湧いた印象だ。

免色という存在、騎士団長や暗示的な夢を信じるということの2点が、特に私の興味をひいた。色を免れ続けることによって、イデアやメタファーと手を結べなず、ゆえにどれほど力があってもある水準以上のものを手に入れることが出来ない。だが「私」にはそれができ、それが大切なことであるらしい。

彼の下の名前は『ねじまき鳥』の亨と昇を思い起こさせる。あの話ではどうやら昇が悪であったが、この話では彼も「私」もまだ悪ではなく、しかし人の道をそらすほどの「力」を前に、綱渡りを強いられる。

ところで「私」の不倫や妻の不貞は、驚くほど軽く取り扱われている。「私」は嫉妬を覚えない性格として造形されているが、不倫相手の夫はどうだろうか。彼からすれば「私」は、『ねじまき鳥』で亨から久美子を奪った昇のように映りはしないか。妻が「私」から宿痾に振り回されて乗り換え、そして唐突に関係をやめて傷つけた男はどうか。宿痾はどうなったのか。

果たして「私」と妻の人生は、このまま本当に平穏裡に環を閉じることができるのだろうか。絵は焼け落ちたかもしれないが、彼らが傷つけて顧みなかった存在が、この世のどこかにある蓋を開けて鈴を取り出さないとも限らない。「私」が何をしたかを知っているのは、あの絵の男だけではないのだ。

闇を超える試練ひとつでそうした因縁を根こそぎ断ち切ることが本当にできるのか。あるいは「私」はこれから「二重メタファー」ではない、現実の闇を潜ることになるのかもしれない。

2017/02/25 15:21

投稿元:ブクログ

集中して読んでたらいきなりしおりの紐が目に入った。メンシキさんの肖像画に使われた雑木林の色なのかな?と思ったり。

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