投稿元:
レビューを見る
やわらかい骨、が良かった。
誰もが様々な形で抱いているであろう黒い気持ちを、彩瀬まるさんの柔らかく、丁寧な言葉がほどいていく。
きらきらしたイチョウの葉っぱ。表紙もそうだけれど、ラストで浮かぶ情景が綺麗。
投稿元:
レビューを見る
悲しいけれど、やるせないけれど、温かい。人が持つ傷から目を逸らさないで、痛々しいほどに抉りだすけれど、けして見捨てないで寄り添う。
読んでいてそういう感覚を味わった。著者がそういう人なのかもしれない、と勝手に考えたりした。
10年前に妻を失うも、最近心揺れる女性に出会った津村。しかし罪悪感で喪失からの一歩を踏み出せずにいた。
そんな中、妻が遺した手帳に「だれもわかってくれない」という言葉を見つける。
5つからなる短編集で、全てが細く繋がっている、というつくり。1つ目の物語で脇役だった人物が、5つ目の物語で主役になっていたり、という風に。
普段はみんな普通に仕事や主婦業や学生生活をしていて、そこには大きな問題はないように見える。だけど表には出さない部分に闇のようなものを抱えていたりする。
きっとそれは現実にもよくあることで、何ひとつ悩みや暗い部分を持っていない人なんてそうそういない。
笑顔の裏側にある想い。そういう感情にスポットを当てて、深く抉っていく。
全部それぞれに痛々しくて残るものがあったのだけど、最後に収録されている「やわらかい骨」がいちばん印象に残った。
中学生の小春のクラスに転校生がやって来るのだけど、彼女は何かの新興宗教に入信していて、それを隠さなかった(そこにも事情がある)ことによってクラスから省かれていく、というお話。
小春は、堂々とは出来ないけれどその転校生と友だちになって、だけど複雑な想いを抱えてしまって…というところに、思春期ならではの瑞々しさを感じて、学生の時の青い痛みのようなものを思い出した。
あんなにも上手く生きられなかった10代の私は、30代になってそれなりに生きている。あの頃よりは、まだ上手く生きられるようになったかもしれない。
本当なら誇らしく思ってもいいことが、なぜだか少し悪いような気がした。
人間は、顔かたちや体型によって見た目の違いを認識するけれど、1枚皮を剥がしてしまえば皆、似たような肉に包まれ、その下に似たような骨がある。
成分やつくりも大して変わらない骨…その人生を彩るものとは、一体何なのだろう。それぞれが抱える痛みや悲しみさえも、もしかしたらそれを彩るものなのかもしれない。
「骨って、真っ白なんだな」。大切な人を亡くして、その骨を初めて見た時にふと感じたことを、不意に思い出した。
投稿元:
レビューを見る
連作短編小説。とても繊細で愛おしい。感情の揺らぎを表現するのがうまい作家さんだ。最初と最後の作品に出てくる森林公園のイチョウの木が、一斉に雨を降らせるかのように散る光景が美しくて、私もそんな場面に遭遇してみたいと思った。
投稿元:
レビューを見る
私にも身に覚えがある、こういった感情には。
亡き人への贖罪の意識、同性の友人に対するルサンチマンの混ざった感情、家族といういちばん身近な他人に対する苛立ち、愛と性というどこか滑稽な組合せ、思春期における自意識の高まり。
こういう横隔膜のあたりに張り付いたモヤモヤを、普段私たちは、お茶を濁したり、人のせいにしたりしながらやり過ごして生きている。
でもこの連作の主人公たちは、ひいては筆者である綾瀬まるは、それに対峙する、させる。
陳腐な表現かもしれないけれど、自分の弱さを許した時に彼らは前進することができる。
その世界に責めるべき悪者はいない。
かといってそこにきれいごとはない。
この読後感のさわやかさの理由はここにあると思う。
「津村」からはじまる物語は、主人公をバトンタッチしながら弧を描き、津村の娘である「小春」によってゆっくり閉じられる。
この円弧の軌跡をたどりながら、これまで自分自信に対してついた嘘のいろいろと向き合うのもいいかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
人は皆自分に欠けているものや脆くて弱い部分を抱えて生きている
知らぬふりして隠したり、目を背けて何気なく生活していてもふとした時に思い出し、息苦しくなる
そういった誰にでもある心の葛藤や黒い気持ちを美しい言葉や情景でていねいに、ゆっくりと解きほぐしていくような短編集
自分の脆さや弱さにきちんと向き合えるようになったとき、きっとみえる世界は少し明るくキラキラしているんだろう、そう思わせられるような読後感を味わえるはず。
投稿元:
レビューを見る
こうゆうゆるーく繋がってる短編集苦手なんだけど、これはよかったな…特に最初と最後の親子の話。涙が出てきた。
静かなんだけど、ものすごく心揺さぶる情景も描かれているというか。
図書館で借りたんだけど、買いたくなった一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
連作短編集。それぞれが違った方向へ悩みとか不安とか葛藤とかやるせなさとか生きづらさを抱いていて、それをやさしく淡く綴っている。言葉の端々にやさしさが滲んでいて読んでいてあたたかくなりました。ひっそりと誰かを救ってくれるような、やわらかい感じ。読んでいて自分にも似た境遇があるなと共感できました。ちょっとだけ泣きました。
投稿元:
レビューを見る
『骨を彩る』(著:彩瀬まる)
いわた書店さんの「一万円選書」の1冊(5/11)
今年の3月、キャンセル待ちに当選して、届いたカルテに記入し、待ちに待った本が届きました
カルテに書いた私の希望は「小説が読みたい」
選ばれた11冊の本はどれも素晴らしく
しばらく小説を読んでいなかった私の胸のスポンジに
たくさんの感情の雨を降らしてくれました
また一万円選書をお願いしたいけど、大人気で再度は無理のよう・・・
いわた書店さんに選んで頂いた本から、自分で新たな世界を広げていきたいと思います
いわた書店さん、小説の素晴らしさをまた思い出させていただいて
ありがとうございました!
11冊の中には、テンポ良く読み進めてしまって付箋すらつけずにいたものもあります。
付箋が付いている本は付箋部分を紹介
付いていない本は備忘録としてタイトルのみご紹介します。
・愛した相手が皮膚の内側へ溜めていたもの、お前は善い人間ではないと糾弾するものは、おぞましい(p39)
・彼女は男女問わずたくさんの人に好かれ、同じだけ、陰で強烈に憎まれた(p92)
・自分の夢くらい自分で叶えろよ、人に頼ってんじゃねえよ、そういう中途半端な覚悟だからうまくいかねえんだよ
と頭の中のキーボードに打ち込む(p152)
・悠都が放つ、透明で清々しい素直さが好きだ。周囲の人を信じていて、眩しい。とても大切なもののように感じる。
それは、自分の黒々とした骨の染みからもっとも縁遠いものだ。遠いままで、いて欲しい(p236)
・「強く、強く、なんのうたがいもなく怒ったり、責めたり出来る、のは、その物事に関わりがない人」(p248)
・傷つかないための諦め癖とか、傷つけないための誤魔化し癖がいつの間にか身に付いてしまう(p255)
・自分とも他者とも世間とも社会とも、生きるということにも死ぬこととも、うまく距離が取れず、折り合いがつけれられず
ぶつかって、ぶつかって、砕けていたわたしだ(p257)
・生きることはきれいごとではない。「生きろ」と叫ぶのは、もっときれいごとではない。口先だけの覚悟も責任も負わない
「生きろ」の一言は、薄汚い。紛いものの薄汚さだ。そんなものは、誰にも、どこにも届かない。当たり前だけれど(p259)
投稿元:
レビューを見る
登場人物が薄く繋がっている短編集。
日々の中で何か上手く行かないこと、自分の中では当たり前なんだけど、人にとっては違うこと。
そんな日々に見られるけど、意外とそれについて深く考えたことはなかったなぁーとか…
だけど気付いてしまうと、ちょっと切なくなる。
全体的に優しさが感じられる作品だった。
2023.3.29
投稿元:
レビューを見る
心の中に喪失感を覚える人たちの繊細な機微を描く連作小説。それぞれの登場人物は特殊な状況ながら、決して他人事ではない。
普通に社会生活を過ごす私たちも、これまでの人生が平穏無事だった訳ではない。消し去りたい過去や、拭いきれない屈辱や後悔などを経て、時には偽りの笑顔を見せている。本作の登場人物たちの、客観的には健気に見える姿も、実は私たち自身の投影である。小春が流した涙は、私たちが流した涙である。
投稿元:
レビューを見る
私が彩瀬まるファンになったきっかけの本。
さらっとしてて、でもどこか重たい雰囲気の内容はどストライクに好き。短編で読みやすいのもいい。
個人的には「やわらかい骨」と「古生代のバームロール」が良かった。
あと、表紙も本の世界観とマッチしてた。
何度も読み返してる本。
投稿元:
レビューを見る
読み終わってプロフィールをみたら、あら若い!ああ、だからちょっと空気がぎこちない感じがしたのか。でもその割には刺さるような一文もセリフもあったし、誰もがもつかなしみ、痛みを無理やり回収せずに描いているところが、とても、よかった。
投稿元:
レビューを見る
これだ。
これが欲しかったんだ。
黒く埋まっていた塊が
ことばひとつ
ミントのような涼しさで
クリアになっていく。
それが自分のことじゃなくても
満たされていく。
骨を彩る
という言葉の美しさが
膨れ上がる
投稿元:
レビューを見る
正直に言うと、このお話しが浅いのか深いのか分かりませんでした。
染み込んできそうで、あと少しのところで届かない感じ?
あーそうだよなって思うとスルッと零れてしまうような。
だけど、それは自分に何かが足りないから…
小春と葵の様な素敵な繋がりには素直に共感出来ました!
またいつか彩瀬さんの作品読んでみたいです。
投稿元:
レビューを見る
妻や母などがいない、家族の短編集。登場人物が一部でリンクしていて連作短編集になっている。
最後の「やわらかい骨」が良かった。
食べる前にお祈りをする人。お母さんのいない人。強く拒絶したり無自覚に言葉をはけるのはその物事に関わりがなくて、どんな人も大多数の「普通」の中で苦しんでいる。
「バームロール」「ばらばら」等は、屈折して何かが欠けている家族夫婦関係が息苦しく、読んでて暗くなってしまった。